5章 初陣 2 魔法の戦い方(2)
「僕に水を貰える?」
「なんじゃ、喉が渇いたか?」
「うーう。違うよ。戦いに使うんだよ」
「左様か、どのくらい必要かの?」
「桶に一杯くらいでいいよ」
御屋形様は頷くと、
「じい、用意してもろうてもよいかの?」
と、正俊殿に問うた。
正俊殿は、畏まりました、と言って道場から出ていくと、しばらくして戻って来た。その手には水の入った桶がある。
桶をセイの近くに置くと、元いた場所に控え、正俊殿は気配を消した。
「では再開しようかの」
うん、とセイは頷くと、ぶつぶつと何か小声で囁いた。
沈黙が十拍くらい続いた時、桶の水がゆらゆらと揺れだした。そうかと思えば、水が一人でに宙へ浮かび上がり、四つの塊へと別れた。次の瞬間、水の塊は凍り付き氷の牙へと変化する。
一つの牙が滑るように加速し、矢のような速さで飛んでいく。
キン!
目にも止まらぬ速さで撃たれた水の牙を、御屋形様が木刀で叩き落としたのだ。
それを平然とやってのける御屋形様の剣技は、やはり天下一品だわ。
御屋形様が今一度、木刀を構えると、残りの三つの牙すべてが同時に動き出した。
右手から突入した牙を下から切り上げて払い、勢いそのままに左手からの牙を叩き落とす。三つ目の牙は右手の後ろから襲い掛かったけれど、これは間に合わない。
あっ!
志麻には御屋形様の右の脇に、氷の牙が刺さったように見えた。
「やられたわい。もし、これが殺し合いであれば、わしに突き刺さっていた訳か。なるほど、すごいのう」
いたく感心している御屋形様の右の脇は、水に濡れているだけであった。刺さる直前に、氷が水に戻ったのだ。
志麻はすっかり足腰の力が抜けて、その場にへなへなと座り込んでしまった。将にあるまじき態度だ、と後でお師匠に叱られてしまいそうだけれど、こればかりは自分の意思とは別なので、何ともしがたい。
「はー、脅かさないでよ。本当に、本当に、突き刺さってしまったんだと思ったわ」
「うん。ごめん」
そう言ったきり、セイは黙ってしまった。あまり魔法のことは知られたくないと言っていたので、内心、忸怩たるものがあるのだろう。
「セイよ、これは、まだまだ撃てるのか?」
「う……うん。まだ撃てる」
「左様か。セイの本気、しかと見届けた。どうじゃ、わしに仕えぬか? お主の術を目の当たりにすれば、大軍であろうと大混乱に陥るは必定。一騎当千よ」
セイは何も返さない。横目で覗いたセイの顔には、明らかに困惑の色が見てとれる。どう断ってよいものか、途方に暮れているようにも見える。
それに御屋形様は一つ、セイの魔法について思い違いをしているはずだ。確かめた訳ではないけれど、これまでそう匂わせる口振りであった。
志麻は逡巡を振りきり、意を決した。答えはこれしかない。
「御屋形様、もう一度、セイと手合わせを願います。さすれば、セイが答えられない理由が、自ずから明らかになりましょう」
御屋形様は二度頷くと、
「ではもう一本、やろうかの。そう簡単に、二度も負けてやるつもりはない。いざ」
と言って、木刀を正眼に構えた。
お読みいただき、ありがとうございます。
夜雨雷鳴と申します。
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誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?
では、次のエピソードにて、お待ちしております。




