5章 初陣 1 駿府の町(4)
僕たちは店を出ると、もと来た道をそのまま進んだ。するとすぐに、今までよりも大きな道に出る。
「右よ」
姫に言われて右に曲がると、二町(約220メートル)ほど先に威容を誇る背の高い門が見えた。
「ねぇ、姫。あの大きな門にこれから行くの?」
「あの門ではないわ。アレは四足門といって、駿府構の門だわ。駿府構は御屋形様の屋敷ね。そちらではなく、こっちよ」
と、姫は右の方を指差す。そこには扉のない骨組みだけの門が、急な石段の上にあった。
「こちらは四足天神と呼ばれる神社よ。またの名は、川中天神」
「川の中にないのに、川中って名前なんだ」
姫が右頬を人差し指で、ポン、ポン、と叩いて答える。
「昔はここも川の中だったそうよ。その川の中に、雨でも、嵐でも、濁流が襲ってもビクともしない石があって、きっと天神様が宿っているからだろう、と神社が建ったのよ」
「石が神様なの?」
「そうよ。さらに昔の貴人である菅原道真公が同じ天神様だから、同じ神様として祀られているわね」
「今度は人が神様。変なの」
言ってしまってドキリとした。違う神様にどうこう言うのは危険だ。姫の気分を害してしまったらどうしよう。
恐る恐る姫の顔を見る。
「んー。それが普通だったから、それが変かどうかなんて、わたしには分からないわ」
単純に考えているだけのようだ。怒ってないと判ってホッとする。
「ねぇ、入らないの?」
「そうね。ここでこうしててもしょうがないから、入りましょう」
境内へ入る。そこは全てが整えられているようで、全てが自然のようで、それでいて清浄だ。広い境内には参拝者がちらほらいて、静かにして厳かな雰囲気がある。
姫に連れられ水場に行き、見よう見まねで、手を洗い、口を漱ぐ。
次いで、礼拝所らしき場所に移動した。姫が箱の中にお金を投げ入れて言う。
「まず、わたしがするから見ててちょうだい。感謝でも、願い事でも、これからこうする、という報告でもいいんだけれど、そういう気持ちを込めて二礼、二拍手、一礼ね」
姫が、上から吊り下げられた太い綱を、左右にゆさゆさ振る。上には鈴がついていて、カラカラと音が鳴った。二礼、二拍手、一礼。最後の一礼だけは気持ち長かった。
「さぁどうぞ。セイの番よ」
促されて僕も綱を左右に振る。そして二礼、二拍手、一礼。
――姫に恩返しができますように。
目を開け隣を見ると、姫が僕の顔を見ていた。少し恥ずかしい。そのちょっとした間を見抜かれた。
「何よ。何をお願いしたの?」
慌てて返す。
「何でもないよ」
「そう、言いたくないのならば、聞けないわね」
姫は、そこを追求するつもりはないようだ。よかったぁ。
「さぁ、お参りも済んだことだし、もう一つの目的に向かうわよ」
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お読みいただき、ありがとうございます。
夜雨雷鳴と申します。
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誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?
では、次のエピソードにて、お待ちしております。




