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5章 初陣 1 駿府の町(2)

  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 駿府(すんぷ)の町は、朝比奈(あさひな)の屋敷の南西にある。


 屋敷の西門を発つと、そこには田園風景が広がり、田には作物が植えられている。葉の形と季節からすると、麦のようだ。


 田の一画では、男たちがせっかく生えた麦の若葉を、せっせと踏みつけている。


 姫に止めさせた方がいいんじゃない、と聞いたら、不思議がられた。と言うのは、あれは麦踏みという(れっき)とした農作業で、麦踏みをすることによって寒さと風に強くなるんだって。


 改めて違う国にいるのだと思い知った。


 そのようなことを話している内に、大きな街道に出た。東海道だ。


 街道の両脇には柳の街路樹が列をなし、僕たちを駿府(すんぷ)の町へと誘う。冬なので柳の木は葉をまとっておらず、太陽の光が柳の枝を通って道行く人を暖める。

 東海道は人通りが多い。中でも旅人が多く、みな連れ立っておしゃべりをしながら過ぎ去っていく。その表情は明るい。


 僕は姫に連れられ、駿府(すんぷ)へ向かう人の流れに入った。


 田園の中を進むこの街道は、駿府(すんぷ)の町を越えて進むと京の都まで続いているという。


 遮るものがないので、ここからも駿府(すんぷ)の家々の屋根が連なるのを見てとれる。右手の先には木々に囲まれた建物が見え、近いのが先宮(さきのみや)神社、遠いのが熊野(くまの)神社だそうだ。


 少し歩くと、東海道を横切る川が現れた。


 その橋の手前には侍たちがいて、旅人を誰何(すいか)したり、荷物を(あらた)めたりしている。

 僕と姫は、それを待つ旅人の列に並んだ。


「セイ、何と名乗ればよいか覚えているかしら?」

「うん、大丈夫だよ。まかせて」


 順が進み、僕の番が来た。


「出身と名を名乗れ」

 係りの若い侍が問うた。


「アガパーニ村のセイと言います」


「アガパーニ? 聞かぬな」

「うん。とても遠いから。今は、朝比奈(あさひな)左京亮(さきょうのすけ)殿のところに身を寄せています」


左京亮(さきょうのすけ)殿の御家中の方か?」

「うーんと、客人ってことになってるかな」


「これは失礼しました。そちらのお連れの方は?」

「わたしは冬青(そよご)朝比奈(あさひな)備中守(びっちゅうのかみ)の娘よ」


「重ねて失礼(つかまつ)りました。どうぞお通り下さい」

 恐縮した若い侍は、そう言って僕たちを通した。その時、奥の方から年配の侍が声をかけてきた。


「これは、冬青(そよご)姫様、ご機嫌(うるわ)しゅう。セイ殿も、数日前とは見違えるほど元気になられたようで、何よりでございます」


「あれ? 僕、会ったことあったかな?」

 そっと姫に聞く。


「ええ、あるわよ。前に駿府(すんぷ)の町に来たじゃない。一月の日数を聞きに。その時にも、ここを守っていたわよ。会ったのはその時ね」

「そうなんだ……」


 確かに僕は、駿府(すんぷ)の町に来たことがあるはずだ。あの時は帰ることで頭がいっぱいで、どこを通ったのか、どのような町だったのか、誰と会ったのか、全然覚えていない。


「今日もまた聞き込みで?」

 年配の侍は僕を気にするでもなく尋ねた。


「いいえ、今日は、セイに駿府(すんぷ)の町を紹介しようと思ってね」

「そうでございますか。駿府(すんぷ)の町は我らが守っておりますゆえ、ごゆるりとお楽しみください。ささ、引き留めてしまい申し訳ありません。どうぞ、お進みください」


「そんなことないわよ。お役目ご苦労さま」


 年配の侍と別れると、僕たちは駿府(すんぷ)の町へと入った。

 街道の左右には宿屋や茶屋など多くの店が並んでいた。それぞれの店の前には呼び込みがいて、声を張り上げている。


「すごいね。(にぎ)やかだね」

「まだ、ここは入口よ。お店も旅人相手が主だし、目的はもっと町の奥だから、呼び込みに連れていかれないように、しっかりと付いてきてちょうだいね」

「うん」


 連れていかれると聞いて、気を引き締める。


 お読みいただき、ありがとうございます。


 夜雨雷鳴と申します。


 応援、感想など頂けたら嬉しいです。画面の前で滝のような涙を流して喜びます。もしかしたら、椅子の上でクルクル舞い踊るかもしれません。


 誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?


 では、次のエピソードにて、お待ちしております。

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