5章 初陣 1 駿府の町(1)
5章 初陣
1 駿府の町
若さまは朝早く、掛川へと旅立って行った。
歌会始の日から二日後のことだ。
その日はとても寒い日で、よく晴れていたのだけど、細かな雪が空に舞っていた。後でお景殿から、それは風花というのだと教えてもらった。雪でできた小さな花が、風に吹かれて舞っている。そう思うと何とも風情があっていい。
若さまの出発前、姫は別れを惜しんで、何度も、何度も、若さまの素襖のすそを掴んでは、若さまに窘められていた。
若さまたちが出発した後も、姫は門前で見えなくなるまで手を振っていた。
もう会えなくなる訳でもないのに大げさだな、と思ったけれど、遠中殿も、常盤殿も、お景殿も、何も言わない。いつものことなのかな。けど、重くない?
今日は、さらに二日が経っている。
やることのない僕は、またも部屋でゴロンと寝ころんでいた。今日は、昨日や一昨日よりも、少し暖かい。柔らかい光が、障子を越して部屋を包んでいる。
「セイ、ちょっといいかしら?」
襖の外から姫の声がした。
「いいよ。どうしたの?」
襖が開き姫が現れた。灰白色の地に薄紅梅の華を配した小袖と、濃紅の袴、という出で立ちだ。屋敷にいるときは小袖に帯を締めていることが多いから、今日は、どこかに行くのかな。その姫が僕を見て言う。
「相変わらず、いつも寝ころんでいるのね」
「うん。なんとなく、こうしていると落ち着くから」
僕は、ぐっと伸びをして答えた。
「そう。猫みたいだわね。それよりセイ、時間があるでしょ? 今日は暖かいから町に遊びに行きましょ。行きたいお店もあるし、セイに見せたいものもあるのよ。ね?」
どこかに行くという僕の予想は、見事に的中した。
「僕に見せたいもの?」
何だろう? 僕はぱっと起き上がって尋ねる。
「ええ、見せたいものよ。けれど、それが何かは見てからのお楽しみ」
「うん。分かった。何だろう? 楽しみだな」
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お読みいただき、ありがとうございます。
夜雨雷鳴と申します。
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誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?
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