4章 世の理、人の理 4 糸を引く者(3)
「うむ。そうだな。それではまず、北条家についてだ。北条家は駿河の西の相模、伊豆、武蔵の三ヶ国を領有しておる。本拠地は相模の小田原だな。古くは今川家の一門衆で、北条家の初代は今川家の軍師をしていた。その後、独自の領国を持つようになっても同盟関係が続いた。まぁ、一度仲違いをしたのだが、今は元に戻っておる」
「付き合いが長いとケンカすることもあるよね」
「ケンカ、か。そうであるのかもしれぬな。だいたい些細な意地の張り合いから関係がこじれるものだ」
「どこの国も変わらないね」
「うむ。では続けよう。北条家の当主は氏政様と言う。昨年の暮れ、つい二十日と少し前に家督を御継ぎになられた。御年は二十二であられる。太守様が今川家を代表して家督継承の儀式に御臨席なされた。聡明な御方であったと仰っていたな。前当主は氏康様。その御前様は太守様の姉だ。この御二方の御息女が今川家に嫁いだ御前様だ」
「御息女?」
「貴人の娘のことだ」
「御前様がたくさんいて混乱しちゃうけど、北条家の前当主の娘さんが御屋形様のお嫁さんになったんだよね」
「そうだ。同盟を結び直すにあたってご婚約が決まり、そして、確か八歳でご結婚成された。氏康様の御前様は寿桂尼様の御息女、御屋形様の伯母君であられるから、御屋形様と御前様は従兄妹同士となるな」
「近い関係だったんだね。それにしても八歳で結婚は心細かったんじゃないかな」
「うむ。それもあって、御前様の兄君も、ここ駿府に居られる。氏規様と言ってな、妹のためについて来られた。利発なお方で太守様にたいそう気に入られた。北条家の許しを得て、今は関口家の養子となっている。関口家は今川御一家衆の一つで、ちょうど跡取りとなる男子がおらなかったのだ」
「お兄さんもいるから御前様は少しは心細さが和らいだかもね」
「そうであってほしいな。それでは次に武田家だな。武田家は駿河の北の甲斐と信濃を領有しておる。本拠地は甲斐の甲府だ。当主は信玄様と呼ばれておる。その御嫡男、義信様に御屋形様の妹君、お菊様が嫁入しておいでだ。御年は御屋形様と同じく二十三。御屋形様の亡き母は信玄様の妹君であるから、義信様とお菊様は、これまた従兄妹同士になる」
「同盟するには結婚が必要なの?」
「必ずする訳でもないが、することも多いな。目に見える同盟の証が欲しかろう。ついでに言えば、北条家と武田家も同盟を組んでおる。武田家の御息女が、北条家に嫁入しておる。結果、三ヶ国の大名は皆、義兄弟だ。これをまとめて駿相甲三国同盟と言う。それぞれにとって、この同盟は計り知れない利益となっておる」
「三ヶ国とも外交上手なんだね」
「まぁ、色々あったのだが、結果を見ればそうかもしれぬ」
若さまは決まりが悪そうに低く笑った。僕にはそう見えた。
お読みいただき、ありがとうございます。
夜雨雷鳴と申します。
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誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?
では、次のエピソードにて、お待ちしております。




