4章 世の理、人の理 3 脱獄(2)
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茂吉が逃亡したその夜から半日前。
セイの部屋には三人の人物が集まっていた。セイ、志麻、泰朝である。
「セイに頼まれた物、集まったわよ」
「もうできたの。すごいや。ありがとう」
「鳩の羽根に菖蒲、そして蜘蛛ね」
そう言って姫は一つ一つを手前に置いていった。
くすんだ青紫色の羽根。これは鳩の羽根。
暗い灰みの黄赤色の球根。これは菖蒲。
薄い紙でできた箱にうっすらと黒い影が透けて見える。これは蜘蛛だね。
「菖蒲はこの季節だから球根しかなかったけれど、よかったのかしら?」
「うん。生気さえあれば花でも球根でも大丈夫だよ」
僕は菖蒲の球根を手に取って確かめた。微かに魔力を通じると、生気が感じられる。
「では、セイの取って置きとは何か、そろそろ話してもらおうかしら」
「いいよ。これはね、追跡の魔法の触媒なんだ」
「追跡の魔法の触媒?」
「うん、相手に追跡の魔法をかけると、この鳩の羽根が追尾の鳩羽という魔法の道具になるんだ。ずっと相手のいる方向を指し示すんだよ。この三つは、その魔法に必要なんだ」
「へぇ、便利ね」
「でしょ。それでね、魔法をかけた人を釈放して、仲間のところに行かないか試せないかなって思ったんだ」
「なるほど。セイ、お前さん、面白いことを考えたな」
若さまに褒められて、なんだか無性に嬉しい。
「よし、セイ、確認するぞ。まずは距離だ。逃げたものが遠くまで行くと、魔法が切れたりするのか?」
「大丈夫だよ。どこまで行っても切れることはないから」
「ではもう一つ、時間だ。いつまで魔法は持つのだ?」
「どのくらい魔力を使うかによるけど、少なくとも三ヵ月くらいは持つよ。もちろん、解呪されたら切れるんだけど、こちらに解呪できる人はいないでしょ?」
「おらんな。三ヵ月もあれば十分だな。よし、やるぞ」
「兄さま、少し待って下さらない? 単に釈放をしては警戒されるわ」
「そうれはそうだが……。志麻、何か案があるようだな」
「ねぇ、セイ。相手を気絶させるか、眠らせる魔法ってあるかしら?」
「気絶させるなら、電撃の魔法の出力を絞ればできるんじゃないかな? 眠らせるなら、誘眠の魔法があるよ」
「その誘眠の魔法はどのくらい持つのかしら? 揺さぶっても起きない?」
「揺さぶったり大きな音を立てれば起きちゃうよ。単に寝ているだけだから。昏睡の魔法をさらに上掛けすれば何をしても起きないけど、こっちは触媒が必要になるよ」
「何が必要なのかしら」
「銀だね。数人分でしょ。だから小指の先ぐらいは必要になるかな。高価だけどいいのかな?」
姫は若さまの方に視線を向けて聞いた。
「と、言うことだけれど、兄さま、用意できまして?」
「用意はできるが、作戦次第だな。まず、そちらを聞かせてもらおうか」
「はい、まず、賊を釈放することは普通に考えてあり得ないわ。それは賊自身も分かっていること。単に釈放したら、どんな愚か者でも何かあると感ずくものよ。だから、賊には自力で逃げた、と思わせないといけないわ」
「うむ。それはそうであるな。して?」
若さまは深く頷いて先を促した。
「うちの牢の錠は完全に押し込まないと掛からないわよね。中途半端だと、引っ張れば取れてしまう。だから、最後まで押し込まず、中途半端に差し入れたままにしておくの。その上で牢の見張りが居眠りをしていたら?」
「囚人どもは逃げられないか、と、あちこちを触って確かめるだろうな。まず第一は錠だ。なるほど、それで標的以外は眠らせるか気絶させるのだな」
「ええ、四人も一度に出られてしまえば、何をするか分からないわ。一人であれば、最悪、想定外のことが起きても対応できるし」
「牢から出るのはよいが、その後はどうするのだ? 夜であるから門は閉められておるぞ」
「入ってきた時と同様に、自分で塀と堀を越えて出て行ってもらうわ。逃げそうな場所にいくつか長槍を置いておけば、勝手に発見して、勝手に脱出するはずだわ」
「よし、志麻、いい考えだな。それでやってみようか」
若さまと姫は同時に頷くと、これまた同時に僕の方を向いた。
「小指の先ほどの銀だな。セイ、やってくれるか?」
「うん、もちろん。四人を誘眠の魔法で寝かせて、標的以外の三人に昏睡の魔法を掛ければいいんだよね?」
「そうだ。よし、準備に取りかかるぞ」
「ええ、今夜からは追跡ね。どう変装しようかしら? 楽しみだわ」
お読みいただき、ありがとうございます。
夜雨雷鳴と申します。
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誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?
では、次のエピソードにて、お待ちしております。




