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4章 世の理、人の理 3 脱獄(2)

  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 茂吉(もきち)が逃亡したその夜から半日前。

 セイの部屋には三人の人物が集まっていた。セイ、志麻(しま)泰朝(やすとも)である。


「セイに頼まれた物、集まったわよ」

「もうできたの。すごいや。ありがとう」


(はと)の羽根に菖蒲(しょうぶ)、そして蜘蛛(くも)ね」

 そう言って姫は一つ一つを手前に置いていった。


 くすんだ青紫色の羽根。これは(はと)の羽根。

 暗い(はい)みの黄赤色の球根。これは菖蒲(しょうぶ)

 薄い紙でできた箱にうっすらと黒い影が透けて見える。これは蜘蛛(くも)だね。


菖蒲(しょうぶ)はこの季節だから球根しかなかったけれど、よかったのかしら?」

「うん。生気さえあれば花でも球根でも大丈夫だよ」


 僕は菖蒲(しょうぶ)の球根を手に取って確かめた。(かす)かに魔力を通じると、生気が感じられる。


「では、セイの()()()()()とは何か、そろそろ話してもらおうかしら」

「いいよ。これはね、追跡の魔法の触媒なんだ」


「追跡の魔法の触媒?」

「うん、相手に追跡の魔法をかけると、この(はと)の羽根が追尾の鳩羽(はとば)という魔法の道具になるんだ。ずっと相手のいる方向を指し示すんだよ。この三つは、その魔法に必要なんだ」

「へぇ、便利ね」


「でしょ。それでね、魔法をかけた人を釈放して、仲間のところに行かないか試せないかなって思ったんだ」

「なるほど。セイ、お前さん、面白いことを考えたな」

 若さまに褒められて、なんだか無性に(うれ)しい。


「よし、セイ、確認するぞ。まずは距離だ。逃げたものが遠くまで行くと、魔法が切れたりするのか?」

「大丈夫だよ。どこまで行っても切れることはないから」


「ではもう一つ、時間だ。いつまで魔法は持つのだ?」

「どのくらい魔力を使うかによるけど、少なくとも三ヵ月くらいは持つよ。もちろん、解呪されたら切れるんだけど、こちらに解呪できる人はいないでしょ?」


「おらんな。三ヵ月もあれば十分だな。よし、やるぞ」

(にい)さま、少し待って下さらない? 単に釈放をしては警戒されるわ」


「そうれはそうだが……。志麻(しま)、何か案があるようだな」


「ねぇ、セイ。相手を気絶させるか、眠らせる魔法ってあるかしら?」

「気絶させるなら、電撃の魔法の出力を絞ればできるんじゃないかな? 眠らせるなら、誘眠の魔法があるよ」


「その誘眠の魔法はどのくらい持つのかしら? 揺さぶっても起きない?」

「揺さぶったり大きな音を立てれば起きちゃうよ。単に寝ているだけだから。昏睡(こんすい)の魔法をさらに上掛けすれば何をしても起きないけど、こっちは触媒が必要になるよ」


「何が必要なのかしら」

「銀だね。数人分でしょ。だから小指の先ぐらいは必要になるかな。高価だけどいいのかな?」


 姫は若さまの方に視線を向けて聞いた。

「と、言うことだけれど、(にい)さま、用意できまして?」


「用意はできるが、作戦次第(しだい)だな。まず、そちらを聞かせてもらおうか」


「はい、まず、賊を釈放することは普通に考えてあり得ないわ。それは賊自身も分かっていること。単に釈放したら、どんな愚か者でも何かあると感ずくものよ。だから、賊には自力で逃げた、と思わせないといけないわ」


「うむ。それはそうであるな。して?」

 若さまは深く(うなづ)いて先を促した。


「うちの(ろう)の錠は完全に押し込まないと掛からないわよね。中途半端だと、引っ張れば取れてしまう。だから、最後まで押し込まず、中途半端に差し入れたままにしておくの。その上で(ろう)の見張りが居眠りをしていたら?」


「囚人どもは逃げられないか、と、あちこちを触って確かめるだろうな。まず第一は錠だ。なるほど、それで標的以外は眠らせるか気絶させるのだな」

「ええ、四人も一度に出られてしまえば、何をするか分からないわ。一人であれば、最悪、想定外のことが起きても対応できるし」


(ろう)から出るのはよいが、その後はどうするのだ? 夜であるから門は閉められておるぞ」

「入ってきた時と同様に、自分で塀と堀を越えて出て行ってもらうわ。逃げそうな場所にいくつか長槍(ながやり)を置いておけば、勝手に発見して、勝手に脱出するはずだわ」


「よし、志麻(しま)、いい考えだな。それでやってみようか」

 若さまと姫は同時に(うなづ)くと、これまた同時に僕の方を向いた。


「小指の先ほどの銀だな。セイ、やってくれるか?」

「うん、もちろん。四人を誘眠の魔法で寝かせて、標的以外の三人に昏睡(こんすい)の魔法を掛ければいいんだよね?」


「そうだ。よし、準備に取りかかるぞ」

「ええ、今夜からは追跡ね。どう変装しようかしら? 楽しみだわ」


 お読みいただき、ありがとうございます。


 夜雨雷鳴と申します。


 応援、感想など頂けたら嬉しいです。画面の前で滝のような涙を流して喜びます。もしかしたら、椅子の上でクルクル舞い踊るかもしれません。


 誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?


 では、次のエピソードにて、お待ちしております。

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