3章 夜襲 3 志麻の国、セイの国(2)
「僕の国かぁ。そうだなぁ。名前はガシュン王国と言うんだけれど、普通は単に王国と言うかな。ヒメは知っている?」
「聞いたことはないわね」
ヒメは申し訳なさそうに首を左右に振った。
「そうかぁ。ところで、ここは何ていう国なの?」
「駿河の国だわ。天子様の知らしめす国という意味ならば、日本だとか、大和かしら。葦原の中つ国なんて言い方もあるわね」
「やっぱりそうかぁ……。聞いたこともないや」
僕の知らない国であろうことは、予想ができていた。初めて見るものがあまりにも多い。それでも、はっきりと手掛かりがないと分かると、やはりがっかりする。これでは王国に帰るのに苦労しそうだ。東に向かえばよいのか、西に向かえばよいのか、それすら全く見当がつかない。
「セイ、ごめんなさい。力になれなくて」
僕があまりにも長く沈黙してしまったために、ヒメに要らぬ心配をかけてしまったようだ。
「ヒメには本当にいいようにしてもらっているよ。これで謝られちゃったら、僕はどうしていいのかわからなくなっちゃう」
「そう……、でも、困ったことがあったら遠慮なく言ってよ」
「うん、そうする。ありがとう」
「ええ」
「えっと、何の話をしてたんだっけ? えーと、王国かぁ。話を元に戻すと、王国の中央には大きな河が流れていて、穀物がよく穫れる、かな。あと、瑠璃と翡翠の鉱山で有名だよ」
「瑠璃と翡翠かぁ、素敵ね。セイの国は豊かなのね」
「どうだろう? 鉱山の利益は王さまのものだから、王さま次第って言ってた」
これは受け売り。僕の出来すぎる弟が言ってた。
「民に施しを与えてくれる王様か、ケチな王様かってこと?」
「そういうこと」
弟が三十分かけて説明してくれたことを要約すると、たぶん、そんなところだ。
「それでね、普通の年ならば、まずます生活できるから、王国の人間は温和だとも言われるかな」
「衣食足りて礼節を知る、というところかしら」
「そう言う言葉があるんだね。多分そう。あと、田舎に行けば特にそうなんだけど、余所者への警戒心が強いって言われたりするね」
「セイはそんな感じしないから、都会の人間でしょう?」
「半分当たり、半分外れだよ。元々は田舎にいたんだけど、僕は魔法使いの素質があったからね。王都の魔法部隊に招集されたんだ。だから、半分地方の人間で、半分王都の人間なんだよ」
「もしかしてセイ、故郷では偉い人だった?」
「んー。一応、準貴族」
「あら、すごいじゃない」
「魔法使いは全員、準貴族になるんだ。けど、部隊の指揮官になるにも、王宮で出世するにしても、準貴族じゃだめ。貴族じゃないと。ここの差は大きいんだ。こちらと違って実力があっても家柄が何よりも優先だから」
「あら、こちらでも家柄は重要よ」
「そうなの?」
「家柄はある程度の求心力になるわ。家柄に似合う教養のない主人は、逆に馬鹿にされるけどね」
「家柄があっても大変だね」
「ええ、馬鹿にされるだけならまだマシよ。国が乱れてからは、家柄があっても無能な主人を家臣が倒して、そして領国を乗っ取ったりしているわ。これを、下剋上と言うわ。それでも、下剋上をする家来に全く家柄がないってことはないわね」
「もしかして、今朝、ここが襲われたのも下剋上なの?」
「それはないわ。うち、朝比奈家は今川家に仕える身だから、うちを倒しても主人になれないわ」
「違うんだ。そうだ、今度はヒメの家のことを教えてよ」
お読みいただき、ありがとうございます。
夜雨雷鳴と申します。
応援、感想など頂けたら嬉しいです。画面の前で滝のような涙を流して喜びます。もしかしたら、椅子の上でクルクル舞い踊るかもしれません。
誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?
では、次のエピソードにて、お待ちしております。