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3章 夜襲 2 死ぬということ(2)

  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 セイは悶々(もんもん)として部屋の隅の一点を見つめていた。


 部屋は行灯(あんどん)の淡い光を受け、漆黒の闇を(かろ)うじて(まぬか)れている。ただ部屋の隅のその一点だけは光が届かず、深い深い闇の(うつ)ろとなっている。


 体は思うように動かない。座れるようになってから随分と経つというのに、(いま)()いずることが精一杯だ。

 ヒメの家族に会ってからというもの、故郷のことをあれやこれやと考えてしまう。日が落ち、夜になれば猶更(なおさら)だ。


 そういう訳で、セイは長い長い夜を一人過ごしていた。いつもであれば、静かな夜がずっと続くはずであった。ところが、

「*%#&$!」

 突如、怒声が発せられた。外からではない。この建物の中からだ。


 声は……ヒメの兄だ。


 こんな真夜中に、しかも(はげ)しく敵意に満ちた声色。尋常ではないことが起きたのは確かだ。


 セイは、力を振り絞って寝床から体を起こした。すぐさま左手の引き戸を凝視する。

 建物の中に続くその引き戸、何かあれば、凶事はそこから訪れるはずだ。


 ()たして予想は的中した。引き戸が静かに、そして細く開いたのだ。


 セイは、芝居(しばい)を見ているかのように感じていた。焦りも恐怖もない。現実感に乏しく、心も動かない。


 引き戸が大きく開けられ、二人の男が現れた。どちらも黒く闇に溶け込む服を着ている。こちらの風習はわからない。けれど、少なくとも災いを運んできた者であることは明らかだ。二人とも寒々とした(うつ)ろな目をしてる。


 男たちは何も言わずに部屋に踏み込んだ。

 一人の男が腰の刀に手をかけると、音もたてずに刀を引き抜いた。もう一人の男もそれに(なら)う。


 行灯(あんどん)の光を刃が受け、暗闇の中に細い月のように浮かび上がった。


 理性は、逃げろ、逃げろ、と警告している。その一方で同じ理性が、その体で逃げられる訳がない、と反論する。心は何処(どこ)かに忘れてきてしまったかのように、全く沈黙したままだ。


 ゆらゆらと揺れた白刃(はくじん)が高く掲げられ、僕を見下ろした。


――僕はここで死ぬのか。


 セイは思った。ただ思った。


 体がなかなか回復しないのも、どこかで心が折れていたから、なのかもしれない。

 胸の奥深くに隠れていた諦めの心が、目の前の兇賊(きょうぞく)によって(あら)わにされた。死んだ心では、今、肉体が死を(まぬか)れても、実質死んでいるのと変わらない。


 セイは静かに目を閉じた。

 これで終わりだ。


 その時、遠くで声がした。

 女の人の叫び声だ。


……!


 心に浮かんだのはヒメの顔だ。叫び声は遠く、(かす)かで、本当にヒメの声だったのか、どういう状態なのかも分からない。けれどセイは確信した。ヒメだと。


 同時に故郷の惨劇の場面が、次々と脳裏に(よみがえ)る。


 このままでは……。


 心に火が灯る。


――いけない。嫌だ。許せない。させない。


 セイは、カッ、と目を見開いた。


 兇賊(きょうぞく)は、もうずいぶん近づいていた。あと少しで刀が届く。

 時間がない。

 魔力回廊に魔力を注ぎ込む。


 四肢が引き裂け、脳髄が爆発しそうな激痛が全身を駆ける。


「うぉぉぉぉぉぉ……」

 意識が飛びそうになる。それを気合で押さえつけ、さらに魔力を注ぎ込んだ。魔力回廊からあふれ出した魔力が体の表面を伝い、バチバチと火花を散らす。


――まだだ、もっともっと!


 全開まで魔力を注ぎ込む。魔封じにかかる圧が高まり、魔封じの存在が揺らぎ始めた。


「うぁぁぁぁぁぁ……!」

 頭の中で大綱(おおづな)が引きちぎられるような音が鳴り響く。それと同時に、全身という全身、細胞という細胞に魔力が染み渡り、急速に回転し始めた。


 解けた!


 お読みいただき、ありがとうございます。


 夜雨雷鳴と申します。


 応援、感想など頂けたら嬉しいです。画面の前で滝のような涙を流して喜びます。もしかしたら、椅子の上でクルクル舞い踊るかもしれません。


 誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?


 では、次のエピソードにて、お待ちしております。

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