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3章 夜襲 1 堕ちる男(2)

  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 四半時(しはんとき)(約三十分)が過ぎ、月は地平線の下へと姿を消した。


 元締めがかみ殺したあの声で、時間だ、と告げると、男たちはおもむろに動き出した。茂吉(もきち)も後に続く。


 屋敷は水堀と塀に囲まれ、時折、警備が巡回している。

 その警備の松明(たいまつ)に照らされぬよう間隙を縫い、茂吉(もきち)たちは屋敷の中に侵入する。竹竿(たけざお)一本で水堀を渡り、鍵縄でスルスルと塀を乗り越える。これを星明りしかない暗闇の中で行うのだ。


 屋敷の敷地には所々に松明(たいまつ)が置かれている。その光の影を縫うように、茂吉(もきち)たちが奥へ奥へと進んでいく。目指すは奥の二棟。そこに備中守(びっちゅうのかみ)とその息子の左京亮(さきょうのすけ)、女房と娘がいると調べはついていた。


 誘導は完璧だった。全く見つからずに目標の二棟が見えてきた。

 茂吉(もきち)たちは目標にたどり着くと、二手に分かれて入り口に取り付いた。ちょうど渡り廊下を挟んで反対同士だ。


 ここで、茂吉(もきち)たちは懐から白い布を取り出し、それを両腕に巻き結んでいく。闇夜の戦闘では敵味方の区別がつかない。目立つ白い布をしているのが味方、していないのが敵だ。一人仕事ならしないが、多人数での仕事ではこうするのだ。


 さて、固く閉じられた戸を開けるには、それなりの技術が必要だ。つまり戸をこじ開ける専門家の出番だ。今度の仕事には名の知れた仕事師が参加している。


 ほどなくして、戸をこじ開けることに成功した。反対側の組も開けられたようだ。合図を送り合い同時に建物に侵入する。


 ここからは時間が勝負だ。素早く殺して素早く引き上げる。そうしないと家臣どもが集まって、やっかいなことになる。


 やっと俺の出番だ。親父の備中守(びっちゅうのかみ)を殺すのが俺の仕事だ。


 茂吉(もきち)は仲間を伴い、入って左手の(ふすま)を静かに開け、部屋の中に入った。

 息を殺して慎重に見まわす。


 誰もいない。


 この次の部屋が備中守(びっちゅうのかみ)の寝所だ。さて、行こうと(ふすま)に手をかけた時だった。


「なにやつ!」


 少し遠くから怒声が聞こえた。別行動している仲間が、左京亮(さきょうのすけ)を見つけたようだ。

 左京亮(さきょうのすけ)はこれで死んだ。俺は親父の方を早く()ろう。


 舌なめずりをして隣の(ふすま)を静かに、そして細く開ける。(ほの)かに光が漏れ出てきた。灯りがあるということは人がいるということだ。


 自分に付いてきた男と視線で合図を送り合うと、スッと(ふすま)を開け放った。


 行灯(あんどん)の弱い光に照らされて、人が寝床に座っているのが判る。しかし顔が判らない。というのも顔面が包帯で覆われているからだ。

 これが備中守(びっちゅうのかみ)か、と思った時、その者が声を発した。


 何と言ったのか分からない。今まで聞いたこともない言葉だ。だが、それ以上に問題なのは声が若過ぎるのだ。まだガキのようにも聞こえる。備中守(びっちゅうのかみ)は還暦を過ぎている。あり得ない。


 くそっ、情報が間違ってんじゃねぇか。

 舌打ちをして刀に手をかける。標的ではないが騒がれたらめんどくせぇ。


 久々の殺しに興奮してきた。胸の内に充実したものが込み上げる。俺が殺す側で、相手は殺される側。世の中にはこの二つしかねぇ。


 抜き放った刀を上段に構える。


 さぁ、お楽しみの始まりだ。

 お読みいただき、ありがとうございます。


 夜雨雷鳴と申します。


 応援、感想など頂けたら嬉しいです。画面の前で滝のような涙を流して喜びます。もしかしたら、椅子の上でクルクル舞い踊るかもしれません。


 誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?


 では、次のエピソードにて、お待ちしております。

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