1章 出会い 3 お師匠(6)
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誰かに、ペシッ、ペシッ、とおでこを叩かれ、志麻は目を覚ました。
――きっとお景ね。いくら何でもひどい起こし方だわ。あぁ、もう少し寝させて……。
また、ペシッ、ペシッ、とおでこを叩かれる。
――あれ? わたし、起きないといけない理由があった……。えーと、あっ!
志麻は勢いよく飛び起きた。
辺りはもう明るくなっている。
いや、昨日までいた部屋ではない。前も、後ろも、右も、左も、上も、下も、何もない空間が続いている。
「やっと起きたか」
志麻は声のした方を見て飛びすさった。
白い蛇がしゃべっている。
「飛びのくとは失礼な」
そう言った白蛇には五色の文様があり、金の後光が射している。目は全てを吸い込むような不思議な色合いだ。
「へ、へ、蛇がしゃべった!?」
「ほう、姫には我が蛇に見えるか」
白蛇は悠然とした声で言った。
志麻は、カクカクと首を縦に振る。
「そうか、ここは長慶寺ゆえ、白蛇となったのであろう。まぁ、姿かたちなぞ些細なこと。問題なかろうて」
この白蛇には表情がない。否、むしろ能面のようにどの表情にも見え、見る者を惑わす。
志麻には白蛇の表情が読み取れない。表情がないとも言えるかもしれない。喜怒哀楽どれにでも取れそうで、どれでもないような印象を受ける。
「あのう、ここはどこなのでしょうか」
志麻は恐る恐る尋ねた。
「夢の中だな」
さも当然のように、白蛇が答えた。
夢の中……。薄々そうだとは思っていた。自分の理解が当たっていて志麻は落ち着きを取り戻した。後から考えてみれば自分の図太さに驚く。
「では白蛇さんは、わたしが夢の中で創造した存在なのね。自分で作ったものに怯えるなんて」
そう言って、志麻は自分に呆れたように笑った。
「否、我は姫によって作られたものではない」
白蛇はあくまで鷹揚とした声で言った。
「では、あなたは何者なのですか?」
「我は我だ。それ以上でもそれ以下でもない。そもそもこの夢の空間も、姫ではなく我が作っている」
「えっ、そうなのですか。何のために?」
「今日の夜半に行くと、恵進を通して伝えてあったろう」
「ええ! では、あなたが恵進さまの兄さんで、師を買って出てくれた……」
「そうだな。なのになかなか寝ないので、随分待たされてしまった。終いには睡魔の術を使ったが、頑強に抵抗して手こずった」
ある時間から急に睡魔に襲われたのは、そのためだったのか。あれほど頑張ったわたしの努力って。
お読みいただき、ありがとうございます。
夜雨雷鳴と申します。
応援、感想など頂けたら嬉しいです。画面の前で滝のような涙を流して喜びます。もしかしたら、椅子の上でクルクル舞い踊るかもしれません。
誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?
では、次のエピソードにて、お待ちしております。