1章 出会い 3 お師匠(5)
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遅い……。まだ、師が来ない。
確かに夜半と、そもそも晩い時間を指定されていたのだけれど、もうすでに子の刻(午前零時)をとうに過ぎている。
「姫さま、今日はもういらっしゃらないようですから、お休みになられたらいかがでしょう」
お景が重いまぶたを必死に持ち上げて言った。
「そうねぇ、うーん、もう少し待つことにするわ。師がいらっしゃるのに、初めて会う弟子が寝て待っていた、となっては末代までの恥だわ。師も呆れて帰ってしまうかもしれないし、ね」
志麻は火鉢の炭を突つきながら答えた。
十一月も下旬となると、いくら温かい駿河といえ、夜の冷え込みは体に応える。
「わかりました、姫さま。もう少し待ちましょう」
「お景、無理して付き合わなくてもいいわよ」
懸命に眠気と戦うお景に、今日、何度目かの言葉を掛けた。
「いえ、お供します」
お景の言葉は、眠気で呂律が怪しくなりつつある。
それから一時(二時間)が経った。
お景はすでに体を横に崩し、微かな寝息を立てている。
志麻は辛うじて意識を保っていたけれど、今にも意識は坂を転げ落ち、深い眠りの奈落に落ちそうである。
――眠ってはダメよ。
必死に睡魔に抗う。
――せっかく待ち望んだ師を得る機会なのだから。
気持ちとは裏腹に、眠気は強まるばかりである。
――志麻、頑張るのよ。あなたには果たしたい夢があるのだから。
そう、心の中で叫びながらも、志麻の意識は漆黒の眠りの中に滑り落ちていった。
すでに寅の刻(午前四時)に達していた。
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お読みいただき、ありがとうございます。
夜雨雷鳴と申します。
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誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?
では、次のエピソードにて、お待ちしております。