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1章 出会い 3 お師匠(2)

  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 葉梨館(はなしやかた)は一辺一(ちょう)ほどの方形の館で、その門前には町が形成され、かつての栄華を物語る。遍照光寺(へんしょうこうじ)はその葉梨館(はなしやかた)の西の奥、山裾に挟まれた所にあった。


 遍照光寺(へんしょうこうじ)に着くと、志麻(しま)は使いの者とともに本堂に通された。

 対応に出てきたのは住職である恵進(えしん)で、志麻(しま)は小躍りしたいほど密かに喜んだ。


 互いの紹介と時節の挨拶に続き、先に志麻(しま)の用事を済ませたいと、使いの者が承然(しょうぜん)からの手紙を恵進(えしん)に渡した。


 恵進(えしん)恰幅(かっぷく)の良い四十過ぎの男で、大きい四角い顔と太い首、ゴツゴツした指が相まって(いわお)のような印象を与える。


 恵進(えしん)は手紙を読み終わると、んー、と(うな)り、しばらく黙りこくったのち、口を開いた。


「あれらの書は拙僧の兄弟子が書かれたもので、申し訳ないが外に見せておりません。承然(しょうぜん)様からのご紹介ではありますが、拙僧の一存では決めかねます」


 断られてしまった。しかし、それも想定の内。完全否定ではないことが(すく)いだ。まだ翻意の機会はありそうだ。


「突然の訪問に無理なお願いをして、申し訳ございません。わたくしは、たびたびこの葉梨郷(はなしごう)を訪れています。また貴院に参ってもよろしいでしょうか」

「何をおっしゃるか、姫様よ。本院は今川(いまがわ)家と御家来衆の武運長久(ぶうんちょうきゅう)を祈願して建てられたもの。朝比奈(あさひな)家の姫様が本院にお越しになるのに、何の差し障りがございましょうや」


「ありがたいお言葉です。また寄らせていただきます」

「いつでもお待ちしております。本院には八幡宮(はちまんぐう)もございますれば、どうぞそちらにも足をお運びください」


 あっ、これは今から寺同士の話し合いをするので、部外者のわたしには席を外してほしいという事かな。


「はい、ではこれにて失礼して、早速参拝したいと思います」


 志麻(しま)は一礼して席を立った。


 本堂より出ると南の方角に鳥居(とりい)が見えた。すぐにそれが八幡宮(はちまんぐう)だと分かったので歩きはじめる。

 鳥居(とりい)の先の朱色に塗られた建物に、大きな注連縄(しめなわ)が掛かっている。(まこと)に立派なものである。

 参拝を済ませて鳥居(とりい)より出た。


 さて、遍照光寺(へんしょうこうじ)を訪れる許可は得たけれど、どうやって僧たちの信頼を勝ち取ろうかしら。

 恵進(えしん)さまと使いの者との相談も、まだしばらくは掛かるわね。境内(けいだい)を散策しながら戦略を練るのも良いかしら。


 もと来た道を進めば本堂に戻るけれど、途中で細い道が枝分かれしている道もある。その道は寺の背にある山裾に続いている。


 何があるのかしら?


 志麻(しま)は、何気(なにげ)なくそちらの方に歩みを進めた。

 細い道といえど砂利が敷かれ、しっかりと整えられている。なので、ただ山に向かう道ではないわね。


 二、三度曲がった道を抜けると、少し広い空間に出る。そこに、四基の五輪塔(ごりんとう)と一基の無縫塔(むほうとう)志麻(しま)を待っていた。

 ここも砂利がきれいに整えられている。掃除もきちんと行き届いており、墓前には香花(こうばな)(ささ)げられてある。


 誰のお墓かしら。ここにあるからには今川(いまがわ)家の人間の(はず)だわね。すると(おの)ずと絞られる。


 ともかくも目を閉じ、念仏を唱えて祈った。


――南無大師(なむだいし)遍照金剛(へんじょうこんごう)


 お読みいただき、ありがとうございます。


 夜雨雷鳴と申します。


 応援、感想など頂けたら嬉しいです。画面の前で滝のような涙を流して喜びます。もしかしたら、椅子の上でクルクル舞い踊るかもしれません。


 誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?


 では、次のエピソードにて、お待ちしております。

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