表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/143

7章 西へ 5 志麻、赤坂御位で飛ぶ(3)

「おい、セイ。そろそろ俺のことも思い出せ」

 下から、むすっとした声が掛けられた。すっかり忘れていた。もちろん、源太(げんた)だ。


「あっ、源太(げんた)。風景はどう? 遠くまで、よく見えるでしょ?」

「はぁ? 何が『あっ』だ。風景なんてどうでもいいんだ! 何だ、このザマは。お前にプラプラと宙吊(ちゅうづ)りにされて、何ともみっともない。こんな姿を見れたら末代までの恥だ!」


「あれ? 源太(げんた)、怒ってる?」

「そうだ。これが怒らずに、いられるか。けどよう、セイ、俺が一番怒ってるのは、お前がこのことを隠してたってことだ。俺たちは、ダチじゃなかったのかよ!」


 うっ……。源太(げんた)、すごく怒っている。源太(げんた)の言っていることに、反論できるわけもない。僕も源太(げんた)は友達だと思っているし、その友達に隠し事をされたら、怒るかはともかくショックを受けることは疑いようもない。


「ごめん」

「お前、俺の気持ち解るだろ?」

「うん……」

「きっちり、聞かしてもらうからな」


 僕が、何から説明しようか逡巡(しゅんじゅん)し、口を開こうとしたその矢先を、源太(げんた)が遮った。


「やっぱり、今はいい。この戦いが終わってからでいい。その方が、俺は死ねねぇし、お前も死ねねぇしな。それに、こんな無様な格好じゃぁ、聞くに聞けねぇ」

「うん。わかった」


 いつの間にか、源太(げんた)の声からは怒気が抜けている。じゃぁ、今のは、源太(げんた)なりの願掛けなのかな。この約束を(たが)えれば、僕たちは友達でなくなってしまう。だから、決して死ねない。生きて、僕は源太(げんた)に話をしなくちゃいけない。たぶん、そういう意味なんだと思う。


「けど、一つだけ教えてくれ。何の目的で道場に来たんだ? こんな事できる奴に、必要じゃないだろ」


 そう思うのは無理もないよね。姫も御屋形(おやかた)様も、初めの反応はそうだった。源太(げんた)も、そう反応するのが普通かな。あっ、もしかして、本当は勝てるのに弱いふりをして遊んでいた、と疑われたのかも。もちろんそんなことを言えば、源太(げんた)にまた怒られてしまうから言わないけど。


御屋形(おやかた)様から、武芸を磨いた方がいい、と勧められたんだ。魔法は万能ではないから。姫にはすぐに弱点を見抜かれて、いいようにやられちゃったんだよね。それで二人から、魔法に依らずに自分を守る武芸を身に付けなさいって」


「手を抜いていたって訳ではないんだな」

「うん。一度も手を抜いたことは無いよ」


「そうか、ならいい。うん。姫様にいいようにやられたか。いいぞ」

 源太(げんた)はそう言って、ガハハと笑い出した。一体、何がおかしいのか、分かんない。


「話は付いたようね。ところでセイ、風景が先ほどから変わらないのだけれど、前に進んでいるのかしら?」


 あっ! 姫に風景を見せるのと源太(げんた)との話で、すっかり前進するのを忘れていた。ただ、宙に浮かんでいただけなのだ。


「じゃ、一気に速度を上げていくよ。しっかり(つか)まっていてね」


 最初は滑るように動きだすと、ぐんぐんと速度を増していく。人の走る速度を超え、馬の走る速度を超え、鳥の飛ぶ速度をも超える。


 峰を越え、谷を越え、幾筋も走る尾根を飛び越えれば、水田に覆われる台地に入った。


「あれが岡崎(おかざき)城のはずだわ」


 右手の川向うに、水堀に囲まれた城が見えた。駿府構(すんぷがまえ)より数段戦闘向きの、ごつごつとした(たたず)まいである。


 城の先には、(あし)の茂る湿地帯が大河に沿って横たわり、さらに先には、また水田と村々が見える。


「この方角で、あってる?」

 そうねぇ、と姫は応じると、しばらく黙った。今、必死に考えているのかな。地上とは違い、上空では他の旅人に道を尋ねることもできない。僕たち三人ともが遠江より西に行ったことなどない。一度間違えてしまえば確認のしようもなく、思ってもみないところに着いて初めて間違いに気づくことになるんだよね。


「少し、進路を左手に変えま……」


「ん? どうしたの?」

「セイ、前を見て。あそこ、雲が滝のようになっているわ!」


 前方の遠く少し右手に、雲海から滝のように雲が下っている異様な光景が目に入った。よく見れば、雲が地上に下っているのではなく、密度の濃い雨がそこだけに降り注いでいるようだ。


「姫! どうするの?」

「ええい、あそこに向かってちょうだい。きっと何かあるはずだわ」


 進路を変え進むうちに雲の滝は徐々に薄れ、そして消え去った。雲の滝の跡にはポカンと穴が開き、天の青が顔を(のぞ)かせている。


 高度を下げるよう姫に乞われ、急勾配で高度を下げる。高速な上に急勾配では、慣れない二人には、ただ落下しているような体感になっているはず。ちらりと見た源太(げんた)は、声を上げじと歯を食いしばっている。


「人だわ。丘の上。大勢いる……、見つけた。塗輿(ぬりごし)だわ! セイ、あそこの、いえ、その手前の谷の斜面に降りてちょうだい」


 僕の目にも、朱塗りの輿(こし)が認められた。まさしく、駿府(すんぷ)の通りで見送った、あの塗輿(ぬりごし)だ。

 うん、と答えて斜面に進路を変え、隠形(おんぎょう)の魔法をかけた。


「今から作戦を言うわ。必ず助けるわよ」



 お読みいただき、ありがとうございます。


 夜雨雷鳴と申します。


 応援、感想など頂けたら嬉しいです。画面の前で滝のような涙を流して喜びます。もしかしたら、椅子の上でクルクル舞い踊るかもしれません。


 誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?


 では、次のエピソードにて、お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ