7章 西へ 3 志麻、見附で負ける(1)
3 志麻、見附で負ける
「大きな町だね」
セイは町の入口に立ち、目の前に広がる町並みを見渡しながら、隣の志麻に言った。
「ええ、ここは見附よ」
遠江国見附は古くは遠江の国府が置かれ、古来より栄えし町である。掛川から西に二里のこの見附は、町を貫く東海道により陸運と結び付き、町まで伸びる大の浦という入り江により水運とも結び付いている。今川氏の遠江支配の中心が掛川城と高天神城であるならば、見附は遠江の経済の中心であるとされてきたのだそうだ。
そういう町の歴史も楽しいのだけれど、大きな町の方が小さな町よりも食事の質が期待できる。これは王国での経験則だ。こちらの世界に来ても、条件反射で期待してしまうのは仕方のないことだよね。
「掛川の町と大して変わらんな」
見附の町を見て喜んでいる僕と比べ、冷めた声の源太には、がっかりさせるものがあったみたい。余談だけど、源太は昨日の駆け足が堪えたらしく、甲冑は胴を残して夕凪に預けていた。
「そうねぇ、遠州一の町だと聞いたけれど、ちょっと拍子抜けね」
姫も同様の感想を抱いたのか、頷いて同調した。
「昔、俺の親父が立ち寄った時には、商人で溢れかえるほどの賑わいだったと言っていた。駿府には及ばずとも、遠江では群を抜いて一番だったそうだ」
「わたしも父さまから、掛川を見附のような大きい町にしたいと聞いたことがあるわ」
二人が二人とも勘違いをするとは思えない。ということは、何かがある。または、何かがあった、ということだよね。
「ねぇ、じゃぁどうして賑わいがないのか、ちょっと人を捕まえて聞いてみない?」
僕の提案に、姫はニコリとほほ笑む。
「そうしましょうか。少し早いけれど、どこかのお店に入って軽く食事をとりながら聞いてみましょう」
源太が僕の肩を何度も叩きながら、ガハハ、と声を上げて笑った。
「セイ、姫様はお前のことを全てお見通しだな」
「ちょっと、お見通しって何のことさ?」
僕は源太の手を、ひょい、と避けて聞いた。
「そりゃあ、食うのが目的で、話を聞くのが手段ってことだろ」
うっ……、それを言われては、ぐうの音も出ない。
「姫、そうなの?」
恥ずかしくて耳が熱くなるのを感じながら、僕は姫に問いかけた。
「ええ、まぁ。セイは食べている時が一番幸せそうだから、ね」
姫が気まずそうに答え、源太がもう一度大きく、ガハハ、と笑い声をあげた。
「そんなに顔に出る?」
「まぁ、分かりやすい方かしら。だけど、もうわたしも源太も知っていることだから、無理して隠すことないわよ」
うん、と答えた時にも、まだ、源太は笑っている。姫の優しい心遣いに比べて、源太の細やかさの欠けっぷりはどうにかならないのか、とセイは心の中で愚痴った。
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夜雨雷鳴と申します。
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では、次のエピソードにて、お待ちしております。




