7章 西へ 2 志麻、大井川で後悔する(1)
2 志麻、大井川で後悔する
薄明りの中で目を覚まし、そこに宿屋の天井が見えると、やっぱりか、と志麻は少し落胆した。
お師匠から言われていたのだから分かっていた。けれど、お師匠の助言抜きでやらねばならないのだ、と改めて実感する。
志麻は、そっと左脇腹に手を添えた。そこには、お守り代わりに持って行け、と言われた注釈書の一丁目が、折りたたまれて入れられている。寝ている間も手放すことはできない。
火の入った竈の匂いが微かにする。朝食の準備が始まった頃なのだろう。
志麻は、グッと伸びをすると起き上がった。一日の始めと終わりは、日課となっている夕凪の世話をするのだ。特に今は重い荷物を背負っての旅である。しっかりと世話をしてやりたい。
厩に行くと、夕凪がむくりを顔を上げわたしを認めた。そして、嬉しそうに前掻きをして出迎えた。
藁で体をこすり、櫛で毛を梳いていく。背中や首を重点的に、お腹はテキパキと短めに。
「あっ、姫、ここにいた」
しばらくすると、セイと源太がやってきた。
「おはよう。よく眠れた?」
うん、という返事と、はい、という返事が重なる。
「夕凪のお世話? 僕も手伝うよ」
セイは興味津々といった様子だ。
「そう、じゃぁ夕凪にお水を貰って来てちょうだい。それとこれ」
懐から何枚かの銭を取り出してセイに渡す。
「おからは別売りだそうだから、それで買って来てちょうだい」
「おから? おからって何?」
源太が驚いたようにセイに振り向いた。
「セイ、お前、おからを知らないのか?」
「んー、僕の生まれたところにはなかったから」
源太は、あー、といった具合に口を半開きにして、何度も頷く。
「そうか、セイは遠くの生まれだったな。日本も広いし、おからのない地方だって、まぁ、あるのか」
「じゃぁ、おからがどれなのか、源太に教えてもらってちょうだい。二人が帰って来たら、二人にも梳いてもらうわ。食事の準備をして毛を梳けば、きっと夕凪はあなたたちのことを信頼できる仲間だと思うわよ」
二人は帰って来ると、セイは恐る恐るといった感じで、源太は慣れた手つきで梳いた。夕凪は二人ともにべろべろ舐めていたから、二人は信頼を得られたようだ。
ちょうどその頃には、わたしたちの朝食の準備ができていた。わたしたちも食事をとり、二日目の旅が始まった。
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夜雨雷鳴と申します。
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