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辺境伯様

 ……ふう。

 これで最後。

 あと一人。

 ダイオには手間をかけさせた。

 こんなことに時間を割かせるのは申し訳ないけれど、ダイオには近くにいてほしい。

 そんな私のワガママに付き合ってもらっている。


 「失礼します」

 ダイオが来てくれた。

 自然と背中が伸びる。

 さぁあと一人。


 ……。

 …………。

 ………………。

 どうしよう。

 いっさい分からない。

 感情が分からない。


 「お会いできてとても光栄です。お時間いただきありがとうございます」


 そういってふわっと笑われたけれど。


 声と口元は笑っているけれど、眼が笑ってない。

 

 「弟は失礼ありませんでしたか?」

 「問題なく。とても丁寧に接してくださいました。いい子だと思いました」

 「ふふふっ。ありがとうございます」

 「私が彼の年ぐらいのとき、同じようにできたかと問われたら、そうできた。と答える自信はないですね」

 ……と謙遜されているが、それも声にのっているだけ。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 それだけ。


 ……ほんとうに分からない。

 感情が見えないなんて初めて。

 それを顔に出さないけれど、声にのらないように。


 「お会いできてとても嬉しいです」


 その言葉も本心か分からない。

 手紙で感じたのは、とても優秀な方で隙がないと思ったのだけれど。

 感情は分からないけれど、嘘ではない。

 と思う。

 言葉に重みはある。

 感情が分からないことがなかったから、どうしていいか……。


 「お会いするに当たって、とても考えました。突然のことで驚かれるだろうし、断られるかもしれないし。執事に相談しました。言葉足らずではないか。こちらの真意が伝わるのか。と」

 「真意……ですか?」

 「ええ。あなたに失礼なことはしたくなかったので」

 ……。

 これも本心?

 「ふふふっ」

 笑うしかない。

 不自然にならないように。

 「執事にいつも言わています。足りないところがあると。正しく伝わらないと。……まぁそれでも先回りして全て私の思うようにしてくれる執事なので。それに馴れてしまうと」

 ……執事自慢をされている?

 心なしか、楽しそうに見えるけれど、感情としては見えていない。


 結局お話したことは、執事の事と弟の事。

 といっても、自慢話のようなもの。

 私に会いたかった理由もなく。

 ……何がしたかったのか分からなかった。


 お帰りになって、ダイオと二人でお茶をして。


 ゆっくりと整理する。


 失礼はなかった。

 あの一件を話題にされずに。

 お茶とお菓子を楽しんだ。

 それだけ。

 

 ダイオの言うように、他の二人とは違う。

 でもだからといって、なにもない。

 違うだけ。

 感情が分からなくてそれがどうした。ということ。

 お父様だって私に見えないようにしているのだから。そういう方がいてもおかしくない。

 そんなことにいちいち動揺してはいけない。

 これから、もっとたくさんの方と出会う。

 そもそも視覚情報に感情が明確に見えること事態ありえない。

 だから、人は声や表情、仕草から読み取る。そして、それは偽ることができるもの。

 正確に、明確に分かること事態、特別なこと。

 それに頼りすぎてはいけない。


 「おかえりなさい。二人とも。お疲れ様でした。しっかり休むように」

 お父様が優しく私たちの頭を撫でてくださった。

 

 暖かくて、優しい手。

 

 それから分かることは、私たちを心配し、想ってくれていること。


 例え見えなくても、分かるのだから。

 次はちゃんと知りたい。


 ……あ……。

 次と考えてしまったけれど、どうして?


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