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伯爵家

 デュランタ家のご令嬢から、返事がきた。

 会いたいというこちらの要望を聞いてくれるとは……。

 断られると思ったんだけど、運が良かった。

 あの一件で、興味をもったが、興味本位で近づいていい存在ではないとなんとなく感じていた。


 ……ここが予定の場所か。


 指定された場所は、隠れ家のような店。

 個室だけのお店のはず。

 聞かれたくない、見られたくない話にはぴったりの場所か。

 周りに人はいない。

 少し離れたところで馬車を止めて、歩いていく。

 ……入り口にいるのは……。


 「お待ちしておりました。バーベナ様。遠いところ、ありがとうございます」

 妹よりは年上か。

 俺よりは小さい、これからが期待といったところか。

 「ああ。こちらこそ時間を割いてもらい感謝する。君は?」

 「ご挨拶が遅れ大変失礼いたしました。ダイオプテープ•デュランタと申します」

 ……弟か。

 確かに似ている。

 「弟君が出迎えか」

 「姉はなかで待っております」

 そういって、にこりと笑って俺をうながした。

 連れていってくれた部屋は奥の部屋。

 店のなかはモノクロで統一されていて、とても落ち着きのある店。


 ……店員にもすれ違わなかったが……。


 「こちらになります」

 ドアを開けてくれた。

 「お待ちしておりました」


 窓からはいる光に照らされて。

 深い青色の豊かな髪が、ふわりとまった。


 「スフェーン•デュランタと申します」


 小鳥のさえずりのような声。


 「……バーベナ•シマリナイトです」

 「姉様」

 音もなくそばにより、椅子を引く姿も、される姿も。どちらも美しい。

 無駄のない動き。

 「……失礼する」


 正面に向き合って座って……。


 「では僕は失礼します。姉様、ドアの向こうにおりますので、いつでもお声かけください」

 「ありがとう、ダイオ」

 

 ふわりと笑いあう二人に眼を奪われた。


 「ふふふっ。弟なのですが、失礼はありませんでしたか?」

 笑い、動くそれに合わせて、髪が揺れる。

 「……ああ。問題なかった。とても良くできた弟君だね。俺にも妹がいるが、あそこまでできるかと問われると不安だな」

 肩をすくめる俺に、ふふっと笑う。


 ……思っていたより幼い?

 服も装飾も鮮やかな大振りのもの。

 話に聞いていた限りだが、表情に乏しく、感情的になったあの時が、かなりざわついたと聞いたが。


 「このお店。お気に入りなんです。この紅茶。いつもおまかせなのですが、お菓子に合わせて、とても深い味わいのもので。同じように淹れたくてもなかなかできなくて」

 うれしそうに、紅茶を楽しまれている。


 今一度よく見ることにした。


 話にきいていた彼女は、無表情で感情というものがない。

 そのことを愚痴のように話していたと聞いている。

 見た目は美しい。

 青い髪。

 少し緑がかった瞳。

 小鳥のように愛らしい声。

 少し大袈裟な表情。

 どこが、無表情なのだろうか。

 式典で見せた冷たさも、過激さもない。

 そんなもの感じられない。

 とても愛らしく、聡明な令嬢だ。


 「実際に、私はどのように見えますか?」


 え?


 「ふふふっ。式典でのことをご存じでしたので。どのような印象だったのかと」


 声が弾んでいる。


 「……聞いていた人物像とは異なるように感じている。年相応に見えるが」

 「それはよかったです」

 笑うと必ず首を傾ける。

 彼女が体を動かせば、髪が揺れる。


 ……どうしても髪に眼がいってしまう。


 青色など珍しくないが、なぜか特別に見える。


 ……。

 結局、何を話したのだろうか。

 とりとめのない話しかしていない。

 妹の話をして、弟の話をされた。

 その時はより一層、表情豊かだった。

 それだけ、思いがあるのだろう。


 どこにでもいる令嬢だ。

 同じ、伯爵家が手を伸ばすような存在ではないというと語弊があるが、そういう存在。

 確かに、見目麗しい。

 聡明さもある。

 だがそれまでだ。

 ……どうしてあの家は婚約の話を持っていったんだ?

 弟にも近づいたというし。

 少し話して、姉の目線で聞いても、特別な子とは思わなかった。

 どこにでもいる姉弟だ。


 話をしたら分かるかと思ったが……。


 「無駄足だったな」


 ……髪はとても惹かれたが、それだけだ。

 それだって、店の色合いのせいだろう。

 モノクロのなかで、光に反射した色はどうしたって光って見える。

 そのせいだ。

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