決戦に向けて
お会いする前に。
何事も準備が必要。
さて。
どこのどなたなのかしら。
眼を大きく開く。
使用されている用紙もインクも一級品。
あの人から一度だけいただいた手紙とは雲泥の差。
文字から分かることとして。
辺境伯はとても丁寧な方。
字の一つ一つの大きさが統一されている。
公爵家は、少しおおざっぱ。
走り書きとまではいかなくても、少し近い。
伯爵家は、感情豊かな方。
言葉に合わせて、字の大きさが変わっている。
お父様いわく。
みなさんすでに婚約者がいてもおかしくない年齢とか。
問題があるのか、断り続けているのか。
問題があれば、噂として耳にはいるはず。
それがないのであれば、純粋に断っているのか。
私のつてを使ったとして。
どこまで調べられるかしら。
変に聞き回るのは目立ってしまうし、相手によい印象を与えない。
こちらはすでに白紙という失敗をしている。
綺麗な失敗。
お父様は私の思うようにしていいとおっしゃってくださるけれど。
ダイオは、手紙の相手が問題ないのか気がかりのようで。
「調べます」
「目立たないように出来る?」
「出来るよ。姉様のためなら」
「ふふふ。ありがとう」
こちらはこちらで、手紙を送り、日程を合わせる。
かわいい弟が私のために調べてくれた情報をもとに。
三人とお会いする日を決まった。
それぞれの方に合わせて、服、装飾品も全部整えた。
辺境伯には、統一感のあるものを。髪色に合わせて、落ち着いたものを。三人のなかで一番年上の方だから、こちらも落ち着きのあるものを。
公爵家には、動きやすさを重視して、装飾は最低限。布の質はよいものにして、上品さを。
伯爵家には、明るい色合いのもので、顔色がよく見える色のものを。三人のなかで一番年下。こちらが年相応に見えるように少し幼く。
お会いする場所は気密性の高い場所。
学園長に教えていただいた場所。
あれから、私たち姉弟のことを気にかけてくださって、今回のことを相談したら教えてくださった。
とてもよい場所。
一度ダイオを一緒に訪れたけれど、とてもよい場所だった。静かでとても穏やかな空気。
私の好きな場所。
通いたい場所だわ。
ダイオが調べた内容としては、お三方とも特別問題がある方ではない様子。
伯爵家は私より2歳年上でダイオよりも年下の年の離れた妹がおられる。
武道に秀でておられる方のよう。
まっすぐで実直な方だとか。
公爵家は、私より4歳年上の次男の方。
長男を支えようと勉学に励まれている方。
辺境伯は5歳年上でこれまでの婚約の話を全て断られている。
落ち着きのある上品な方。めったに北の領地から出てこられないらしい。
「姉様」
「どうしたのダイオ?」
「姉様が選ばれる方であれば、僕は歓迎いたします。ですが、もし。その方が姉様を傷つけた場合」
私の手をしっかりと握って。
「誰であっても、容赦しません」
……こんなにも大きくなったのね。
握られた手は思っていたよりも大きくて、力強い。
ふふふ。
「ありがとう。大丈夫よ。ダイオが怒る前に、私が見切りをつけて離れていくわ。もし私が帰ってきたら、迎えてくれる?」
「もちろんです。迎えない理由などありません! 姉様、絶対ですよ? 無理だと思ったら見切りをつけてくださいね?」
「ふふふ。ありがとう。大丈夫よ。心配しないで」
「……二人とも」
お父様がダイオの肩に手を置かれた。
「ただ手紙をくれた相手に会うだけだ。これで婚約が決定するわけではない。スフェーン」
いつもの穏やかな笑みを私に向けてくださっている。
「ダイオのいうように、スフェーンがいいと思う人を選ぶといい。失礼があれば、容赦はしなくていいから。君がバカにされるいわれなどないのだから」
「はい。お父様」
私は愛されている。
今回の件で、使用人たちも心を痛めていた。
仕えている家の問題は自分たちの雇用にも影響するから。
という考えも頭をよぎったけれど、
それはきっとない。
私にとって使用人のみんなは、守りたい存在で、
みんな私を愛してくれている。
だからこそ。
お父様とダイオがいうように。
もし。
お三方が、同情や興味本位できているのなら。
我が家を愚弄するようならば。
一切の手加減はしない。
だまっているのは、私らしくない。