見られていた
「大変ご迷惑をおかけいたしました。申し訳ありません」
ダイオと一緒に学園長のお部屋にいった。
放課後お時間をいただき、お邪魔すると、学園長と記念式を取り仕切っておられた先生。
「君たちが謝ることはないよ。さあ。頭をあげて。かけるといい」
とても優しい笑みを浮かべておられた。
「学園創立250周年記念式典で大変失礼いたしました。王子もおられたはずですが……」
「ああ。問題ない。陛下に報告はされるとのことだったが、君たちに処罰は望まないと。君たちのことは気にされていたからね」
学園長がふんわり笑ってくださった。
「弟が止めてくれなかったら、私……もっと失礼なことを……」
ダイオの手を握る。
「大丈夫。君たちは何も悪くないよ」
先生がお茶を淹れてくださった。
「顔をあげてください。堂々としてください」
「……ありがとうございます」
「……ここでの話は他言無用でお願いしたいのだが」
苦しそうな声で学園長が先生と目を合わせている。
「はい。……なんでしょうか」
戸惑いと、不安と、怒りと。
感情が混ざっている。
「君たちが帰った後。私が聞いたのですが」
先生が話始められた。
「姉がだめなら、弟を……。君たちのところに、再度婚約の話が来ていますか?」
「……そんな話を会場で?」
ダイオの絞り出した声。
「はい。……事情を聞こうと近づいたら、そんな話を……。まだ兄のほうの婚約の話も片付いていない状態で、次の話をしていたのも驚きましたが。その話をあの場でしていたこと、それも弟に新たな婚約の話とは……信じられなくて」
誰が聞いているかわかないような場所で……。
本当にどこまでも……。
「……ここだけの話でお願いいたします」
繋いだ手に力が入る。
「その話は、こちらに来ました。弟に、妹さんとを。……お断りいたしました」
「そうか……」
学園長も先生も安堵の表情をされている。
「君たちが望むのなら、この学園に引き続き通ってほしい。守れなかった我々が言えることではないが……」
「私も残りたいです」
「僕も。姉と一緒に」
「お父様とお母様の学園でもあります。……ここにはお母様の思い出がありますから」
「……君たちのご両親もここの卒業生か。ありがとう」
「あちらについてですが。王子が、他校への転校を提案されました。同じ卒業生になることを望まないと」
「私としても、あのような生徒が卒業生として名を連ねるのは避けたい」
「学園長」
いさめる先生。
「あ……」
「引き続きよろしくお願いいたします」
聞かなかった態度をとる。
「よろしくお願いします」
「無事学園長ともお話ができたし」
「そうですね。……どこまでもすごい家でしたね」
苦笑いのダイオ。
「残りの学園生活を楽しみましょう。お父様とお母様の大切な場所だから」
……。
その様子を見られていたのか。
三通の手紙。
北の国境を守っている辺境伯からのものも、伯爵家からのものも、公爵家からのものも。
どれも統一して記念式典でのことと、学園長への謝罪に言った話と。
それぞれが持たれている情報網からのものと考えられる、転校の件と。
あの後、確かに二人そろって転校されたけれど。
……どうしようかな。
「姉様……。大丈夫ですか?」
「ダイオ」
お茶を淹れてくれた。
「どの手紙もあの一件の事ばかり。そのうえで、私と会って話がしてみたいと」
「……どれも名家ですね」
蝋には家紋。
それだけでどの家かわかるぐらいには、有名な家。
「何がしたいのかわからないけれど」
「スフェーンの婚約の話が来ているが、断っているのも知っているのだろう」
「お父様には本当のお手数をおかけしています」
「かまわない。スフェーンの想いが大切だし、その選択はいつだって正しいから」
手紙を見比べる。
「辺境伯はご本人かな。確かお若くして家をつがれたと聞いている。残りはそれぞれ年のちかいご子息がいたはずだ。そこからかな」
会いたいということは学生ではないのかしら。
残念ながら関わりのない家だし、学園でも耳にした覚えのない家。
「どの手紙も私に会いたいようですが、どうしましょうか」
「まとめて会うというのはどうだろう」
「それが楽ではありますよね」
「お父様に姉様……。楽というのはどうかと思いますよ」
「あら。面倒じゃない。わざわざバラバラに時間さくのは」
「目上の方ですよ? 面倒というのは……」
表情が悪い。
真面目ないい子。
この子の前ではよくないだろうけれど、どうしても本心が出てしまう。
「三日間連続で会う日程を考えます。あちらの予定次第ですが」
「会うのかい?」
「ええ。お考えを知りたいですし」
【学園創立記念式典では大変な思いをされましたね。】
【あなたのような優秀な方がどうしてあのような眼に合わなければならなかったのか不思議です。】
【あなたはとても強く、たくましい女性だと思いました。】
【ぜひ一度会ってお話したいと思い、手紙を出させていただきました。
お時間をいただけませんか。】
……どんな方が来るのかしら。
誰であってもどうでもいいのだけれど。
この眼で見える感情は嘘をつかない。
同じようにこの家を利用するなら。
絶対に。
許さない。