表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/27

気分が悪い

 「よかったのですか。姉様」

 不安そうに私を見ているダイオににっこりとほほ笑む。

 「問題ないわ。どうして、私に敵意を持っている人に笑ったり、感情を向けるなんて面倒だし。婚約者としてすることはしていたのだから」

 私に非はない。

 相手からすれば、にこりともしない彼女だったろうけれど。

 この婚約白紙も想定済み。

 興味のない相手と家のために結婚するほど、言うことを聞く人ではないし、

 そうそうにお目当ての令嬢も近くにいたから、

すぐにいくだろうなとは思っていた。

 「まってくれ! 話は終わってない!」

 どたどたと追いかけてくる音がする。


 ……もっと優雅にうごけないのだろうか。

 同じ貴族として恥ずかしい。

 見られているという感覚が足りていない。


 「勝手に話を進めるな! まだ終わって」

 「終わりましたよ」

 かかとをあえて鳴らして振り返る。

 「このようなたくさんの方がおられる場所。そこで、これ以上どのように私を陥れるのですか?」

 つかまれているすそから、ダイオの震えが伝わってくる。

 「陥れる? 自分が被害者のような態度をとるな」

 「被害者でしょう」

 「……は?」

 ざわつく周りなど置いていく。

 普段はおとなしく、静かにしている私が、こんなにも感情を出しているのをみて戸惑っている。

 「この婚約はそちらからの話。私はあなたのご両親とも何度もお会いしていました」

 もう少し待ってね。

 「ですが、そちらが私の父に会っている姿は見たことがありません。弟にも。かわりにそちらの令嬢のご両親とはよくご一緒されていましたね。贈り物もあったはず」

 令嬢は小さく側にいる。

 「私がなにかしましたか?」


 ……かわいらしい。

 小さくて、守りたくなる。

 そんなふりをしている。

 見えている。

 私を馬鹿にしている感情が。


 「楽しかったですか? 下位のものに言うことを聞かせて」

 王様のようにふるまっていたことは耳に入っている。

 「同じ男爵でも態度が違うとぼやいていたとか。私があなたが他の方を慕っていることを知っているうえで。学園で。とても仲睦まじく」

 やっと私をまともに見た。

 「かわいらしい令嬢。あなたに媚びる大人。さぞ、居心地がよかったのでしょうね。

入り浸っていたとか」

 笑みを深める。

 「両親から言われていなかったのですか? 婚約者をないがしろにするなと。それともそれを許していたのでしょうか。だとしたら、一家そろって何を考えているのか」

 一歩近づこうとするのをダイオが私を引っ張って間に入る。

 「それ以上はいけません。祝いの場です。それ以上は」

 私に振り返り、厳しい目を向ける。

 「……そうね。あなたの言う通りだわ。ありがとう止めてくれて」

 「なんの意味もないことですから」

 冷たい声で私の手をとり。

 「お騒がせしてしまい大変申し訳ありません。我々はこれで失礼いたします」

 キレイな動きで。

 「帰りましょう」


 今度こそ、その場の空気を片付けずに。


 次の日。

 ひどい顔で両親がやってきた。

 私は昨日の騒動もあるから参加しないことにした。

 私としては。

 「さて。着替えて」

 メイドから服を借りて。

 「お茶は私が運ぶわ」

 「承知いたしました」

 客間の前で受け取り、息を吐く。

 みんなをみて学んだ動き。

 ゆっくりと音もなく部屋にはいり、カップを置く。

 ……私に一瞥することなく。

 「どのような御用でしょうか」

 お父様の声がとても厳しい。

 ダイオも顔色が悪かったけれど、私を見て、少しだけ血が戻った。

 「この度は大変……」

 謝罪から始まって。

 グダグダと話ながら。

 机の上には書類と宝石の山。

 ……この書類、前も見た気がする。

 さっと目を通した限り、私との婚約の際にも出してきていた、

 いわゆる利点がまとめられている。

 要は、今回の件はあちらの非として、謝罪の宝石。

 でも、引き続き関係は築いていたいと。

 で。

 「娘を嫁に……か」

 これも想定通り。


 「ダイオ。お願いがあるの」

 「なんですか?」

 「もし、婚約に関して、あちらが仕掛けてきたとき。私は失礼な態度をとるわ。

 それを止めてほしいの」

 「姉様を?」

 「ええ」

 戸惑っているダイオに、にっこりと笑う。

 「感情的になる私を厳しく止めて。次期当主として、家にとって良くない態度の私をいさめて」

 「でっでも!」

 「上の者に失礼な態度をとるの。止めるは当たり前。そして、私に対して、厳しい態度を貫いて」

 「そんな……」

 首を細かく横に振る。

 ……。

 涙目で私を見つめるダイオには、不安と苦しみの感情で埋まっている。


 ……ダイオが生まれて間もなく。

 お母様は産後の状態が悪く、そのまま亡くなった。

 ダイオはお母様を知らない。

 私もかろうじて記憶にあるけれど、五歳までの記憶。

 周りは、私がお母様によく似ていると言ってくれる。

 それが嬉しかった。

 私達の事だけを見ることはお父様にはできなかったから、弟の側に私はいつもいた。

 寂しくないように。

 私にはあるお母様の記憶がこの子にはないのだから。

 母親代わりとは思ってない。

 お母様の代わりなどありえない。

 それでも。

 お母様に托された。

 仲良く大きくなってほしいと。

 ダイオは本当にいい子で。

 一生懸命頑張っている。

 他とは違う私が、生きていけるように。


 「姉の態度はよくないものでした。とても失礼な態度をとりました」

 ダイオの声はとても静か。

 「そちらに非があったとしても。もっと違う態度がとれたでしょう。そんな家とまだ関係を紡ぎたいと。ご令嬢をこちらにと……」

 お父様はただ険しい顔をされている。

 何を考えているのか見定めている目。

 「お断りします」

 ダイオが机をたたいた。

 ……え?

 「何がしたいのかわかりません」

 「で……ですから……」

 「ここにいろいろと書いてありますが、だから何だと? 利点等どうでもいい」

 一転した空気に戸惑っている。

 「姉に対し、失礼な態度をとったのはそちらです。姉から婚約者を奪った方が義理とはいえ兄の配偶者として、今後会う可能性があるのでしょう? そちらについて何もおっしゃっていませんが、どうされる予定なのですか? 嫁として、受け入れるのですか? 同じ男爵です。そちらとしては対して変わらないのかもしれませんが、義姉として接するのなどできません」

 「そっそれは……」

 「それに、いろいろと説明されていましたが、どれも姉の婚約の話をされた時と大差ない。宝石もいりません。全部持って帰ってください。こちらに対して、なんの誠意も感じられません。まだ、白紙の原因となって令嬢とのことも決まっていないのに、すぐにこちらに来るなど。両天秤ですか? だとしたら、どちらに対しても失礼ではありませんか」

 ……はあ。

 「そういうことです。お引き取りを」

 お父様もとても厳しい。


 ……。

 残ったカップを片付けようと手を伸ばすと。

 「姉様。お座りください」

 ダイオが私に近づいてきた。

 終始私は客間にいた。

 お茶を淹れ直したりもしていた。

 「気づかれませんでしたね。あんなにも近くにいたのに」

 とても冷めた目をしている。

 「満足に顔を見られた記憶がなかったから、気づかれない可能性もあったわ」

 お父様の前に腰かける。

 「ダイオの嫁にとは……。どこまでもつながりを持ちたいという様子だったが」

 「この家の血が欲しいのでしょう」

 「言っていたな。どこで手に入れた情報かわからないが、スフェーンが特別であると知っていたのか」

 「それを、息子には伝えてなかったようですが」

 伝えていればきっと重要性を説いて、白紙にはさせなかっただろう。

 下手に伝えて、気味が悪いと感じさせたくなかったのかもしれないけれど。

 「この家の血を取り入れて、自分の家にも、姉様のような存在を生みたかったと?」

 「そうだと思うわ。出なければ、白紙になった時点で、ダイオに行くなんて考えにくい」

 「……どこまでも。気分の悪い家ですね」

 嫌悪が前面に出ている。


 ダイオは私が感情が見えることを気にしていない。

 いつだってまっすぐに感情豊かに。

 お父様は自分を律して、感情を抑えている。

 ……私は愛されている。


 「どうする? 引き続き学園に通うか? あの二人と同じ場所に通ってほしくないのが、

私の気持ちだが」

 「お父様……。私が悪いわけではありませんし。学園にも謝罪に行きたいですし」

 「ついていこう」

 「いえ。ダイオ。一緒に来てくれる?」

 「僕ですか?」

 「家としての問題は解決しました。あとは子ども同士の問題です」

 「……わかった。ダイオ。スフェーンを頼むよ」

 「はい。お父様」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ