私の答えは。
ダイオの不信感はもっともだ。
この子には話していない。
お父様もダイオには伝えていないようす。
この家との繋がりは。
当主となるこの子はいつか知るべきことだけれど、まだ早い。
そう思っていたけれど。
「姉様……」
弱々しく私を見上げるダイオ。
そっと手を取った。
「……大きいわね」
「……え……」
「それにとてもあたたかい」
「スフェーン」
「私は、いつかこの家を出る身。出た先で、この家の繁栄に尽くす。そのために、この持つ力を使う。これまで同様、あなたの姉として。お父様の娘として。恥じないように。……愛してる。心から。だから」
私の心は決まっている。
これまでの「私」がそうしてきたように。
頭では。
理性では。
断るべきだと声がする。
私たちの始まりだとしても。
父がそこにいたとしても。
今の私に必要なのは、この子の幸せ。
この家の幸せ。
そこである必要はない。
違う条件の家を探す。
それだけでいい。
時間がかかったとしても。
この家を選ばない選択がきっと正しい。
だけど。
心がそれをとめる。
どうしようもなく、惹かれる。
どうしようもなく、手を伸ばしたくなる。
どうしようもなく、手を掴みたくなる。
何の根拠もない。
ただの感情。
ただの願い。
「お父様。ダイオ。……私は……」
ことわる。
たったその4文字が言えない。
声に出ない。
私は。
目を閉じて息を整える。
ああ。
ここで浮かぶのは。
「あの家に。辺境伯家にまいります」
「私たち」のお父様の顔。
ダイオの目が大きく見開かれていく。
「……どうして? あちらにいる間に何かお話されたんですか? こちらに来ている時間もあったと思います。姉様と一緒に過ごされた時間はあったのですか?」
「その選択をした理由は聞かない」
「お父様!?」
「スフェーンがその選択をしたことに後悔がないのなら。幸せになると約束してくれるなら。スフェーンが嫌だと感じたら帰ってくると約束してくれるなら。愛されていないと感じたら帰ってくると約束してくれるなら。……スフェーンの選択に」
ここで言葉をとめられた。
……私は愛されている。
愛され続けることが、お父様の願い。
これまでの変わった子の人生を考えれば、そうあり続けるのはとても難しい。
だからこそ、それを願う。
自分が愛しているものには、幸せになってほしい。
それは、私も同じ。
お父様も、ダイオも。
幸せであってほしい。
愛されていてほしい。
「お約束します。私は愛されるためにいくのです」
「いやです……。嫌です! 姉様! 納得できません。どうしてですか? 受けたとしても、すぐには話はまとめることなどできないはずです。我が家とあちらでは繋がりがありません。憶測が勝手に飛び交います。姉様の婚約白紙から時間もあまりたっていません。……姉様が悪く言われないか……」
「ダイオ。確かにお話した時間はとても少ないわ。そしてつながりも分かりやすいものはない。心配をしてくれてありがとう」
実際、辺境伯様とは顔は合わせていたけれど、お話はさほどしていない。
でもそれが気にならないぐらいには、居心地がよかった。
困らなかった。
お茶会とはまた違った空気感だった。
それに。
あそこなら。
私は、感情を気にしなくていい。
「ダイオ。私は後悔しない。後悔させない。あなたがお父様の跡をついで、この家を守っていく。つなげていくように、私もこの家を守るの。そのための選択だと思っている。大丈夫。私は愛される」
抱きしめる。
「心配してくれてありがとう。あなたの姉として、恥ずかしくないように。あなたが誇りに思ってくれるように頑張るわ」
「……絶対ですよ? 約束ですよ……? そうならなかったら、姉様を引きづってでも連れて帰りますからね。いいですね?」
「ふふふっ。ええ。そうね。そうならないように頑張るわ」
「スフェーン」
「お父様……」
「愛している。愛されることをけして諦めないでほしい。それは約束してくれるか?」
「ええ。けして。私は諦めません」
だって。
そうしなければ。
「私たち」が浮かばれない。
愛されているのか問うた時、私は愛されていると自信を持っていた。
それは今も変わらない。
そして、その答えで、確かに感じた。
確かにこの目で視た。
あの答えは真実で。
それを喜ばれていた。
私がそうであるように。
「私たち」のお父様もまた、愛されている。
それが私がこの道を選んだ理由だ。
ストンと自分の中で納得した。
惹かれた理由。
お父様もダイオも納得してくださった。
あとするべきことは……。
……私たちのことをどこまでダイオに伝えようかしら。
嫁ぐとなると、関わりは増える。
隠すことではないけれど、当主となるこの子には伝えておくべきなのは理解しているけれど。
ためらってしまう。
私が姉でなければ。
生まれていなければ。
知らないままでいられたことだから。
当主として知っていることはあっても、それはお父様と同じぐらいの知識のはず。
お父様からいつかは聞くこと。
私から言っても?
お父様と目があって、お父様は静かに頷かれた。
……承知いたしました。お父様。
「ダイオプテープ。あなたにお話いたします。私と辺境伯の家との関係を。……いえ。我が家の始まりを」
「……聞いてもいいことなのですか?」
声が震えている。
「まだ当主として引き継いでいませんし、未熟です」
うつむくダイオにお父様の優しい手が、頭を撫でた。
「何をもって成熟とするかの話しになってしまうが、ダイオには伝えておくよ。弟として、姉のことをちゃんと知っていてほしい」




