表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/27

お断り

 ……どこまでも読み続けられる。

 するすると文字が頭に入ってくる。

 本を読むのは好きだし、文字を読むのも苦ではないけれど、それでもこれだけのものを読むのは疲れるし、頭に入らないと思っていたけれど。


 「驚くほどに残っている」


 頭から消えない。

 山のように読んだのに。

 次々と本が手元にやってくる。

 その本すべてに私たちの人生がある。

 一冊一冊が重たい。

 

 「……読めば読むほどわからない」


 どうして私なの?

 どうして今なの?


 「全てはこの中にあるの?」


 私の疑問の答えが?

 ……あると思う。

 そう直感している。

 でもそこにたどり着くことが正しいのかわからない。

 

 「……帰らないと」


 どのくらい滞在していたのかしら。

 もう時間感覚がない。

 不思議と眠くならなかった。

 睡眠はとったけれど……という程度。


 「お送りいたします。ひとつ。よろしいでしょうか」

 「はい」

 馬車が用意され、乗り込むと。

 「こちらに来られてから、まだ1ヶ月にございます。どうかお日付をお間違えのないように」


 え?


 ……声に出さなかったことを褒めよう。

 顔に出さなかったことを褒めよう。

 

 「……承知しました」


 体感としてはもっと日が過ぎていると思っていたけれど。

 「あの部屋だけ時間の流れが違うのです。調べものをすると、いつまでも籠ってしまう主人を考え、外よりも早い時間で動いておりました」


 ……そうか。

 この方に関わると基本的なことがそうではなくなる。

 今だって。


 「到着いたしました」

 

 ものの数分で、外の景色は、見慣れたものになっている。

 

 「おかえりなさいませ! 姉様!」

 ゆっくり降りていると、ダイオが私にかけよってきた。

 「ただいま」

 「おかえりなさい」

 「ただいま戻りました。お父様」


 久しぶり。

 ほんとにそうだ。

 こんなにも屋敷を離れたことはなかった。

 

 「……お顔の色が優れません。お父様」

 「……戻ってきて早々に申し訳ないが、いいかな? ダイオもおいで」

 感情は変わらずわかりにくいけれど、声は震えている。

 「……お父様手ずからの紅茶。とてもおいしいです」

 ……お父様の癖。

 心を落ち着かせたいとき。

 揺れ動いているとき。

 そんなときにお父様は自身の手で紅茶をご用意される。

 「この1ヶ月の間に数度。辺境伯様がこちらに足を運ばれてね、お話しをした。その事でスフェーンに決めてもらおうと思ってね」

 ……何かしら。

 ダイオが私の手をギュッと握った。

 「……スフェーンを妻に向かえたいと」


 ……辺境伯家に。

 圧倒的立場。

 また、上の立場からの求婚。

 他と比にならないほどの立場の方。

 ……でもお父様の不安はあの時と違う。

 前のは、うまく行かないと想定できるのに断れない苦しさ。

 でも。

 今、お父様から感じるのは。

 

 私が頷いてしまう恐怖。


 「……お父様」

 「お断りします!」


 え?


 より一層強く握られた手は、力の入れすぎで震えている。


 「姉様はどこにも嫁ぎません。このお屋敷で、ずっとそばにいるんです。誰にも、どんなに上でも、絶対に姉様は渡しません。姉様」

 ダイオが私を覗き込む。


 「どこにも、いかないでください」


 ……この子は真っ直ぐに。偽るのともごまかすこともなく、感情を向けてくれる。

 

 「たったの1ヶ月かもしれません。それでも姉様のいないお屋敷はとっても静かで、冷たかった。春なのに、全く嬉しくなかった。毎日がつまらなかった。姉様がそばにいないなんて、堪えられない」


 ……。


 「ダイオ。……甘えてはいけないよ」

 「お父様だって姉様が、お嫁にいっていいと? どうして頷けますか! ……確かに良い方だと思います。でもだからといって、不明なところが多すぎます。……あの家は、何なのですか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ