誓いの言葉
一瞬にして、空気が変わった。
自分でもわかっている。
この場でこの感情はふさわしくない。
あっていない。
それでも、我慢ならない。
……だれにも渡さない。
ああ。
私は学ばない。
また自分本意の感情だ。
「……あの子は、あなたの感情を見えているのでしょうか」
そうであるのなら。
きっと私以上にあの子は嘘か真実か。
……私のこの感情の重さもあの子ならわかってしまう。
「見えていないでしょうね。こう見えて感情というのは乏しくて」
さらりという。
何でもないことのように。
「そうですか」
……感情が乏しい。
というよりも『ない』のだろう。
うすうす感じていた。
笑っていて。
穏やかだが、作っている。
怪しまれないように。
それらしいだけ。
だからあの子には見えていない。
それはあの子にとっては怖いことかもしれないけれど、父親としてはうれしいところではある。
感情が見えるスフェーンにとって、それは私とは違う点。
でも感情が見えない相手なら?
それは、私と同じ。
表情や声、しぐさから読み取ることになる。
……変わった子ではなくなる。
「本当にあの子を幸せにするのであれば。一点。誓ってほしいことがあります」
私は傷つけた。
ーーーー
「おとうさま。ダイオが」
「すまないスフェーン。……少しだけ。一人にしてくれないか」
「……はい。おとうさま」
今だけだ。
この時間が終われば。
屋敷に戻ればもう。
ああ。
どうして。
どうして私を。
私たちをおいていった?
君の声を聞くことはできないのか?
君の顔を見ることができないのか?
君に触れることができないのか?
君に。
君に私の声は届かないのか?
墓石の前でこんな風に問いかけることに意味があるのかと考えてしまう。
それでも。
君を求めてしまう。
すがってしまう。
誰よりも。
君が一番つらいだろうに。
私が知る誰よりも、優しく、慈悲深く、愛に溢れる君が。
スフェーンとダイオと離れることが。
あの子達と共に過ごせないことが。
「すまない……」
誰のせいでもない。
誰かが悪いわけでもない。
わかっている。
頭ではわかっている。
わかっている。
だけど。
俺の中にあるこの感情はどうしたらいい?
君を失った悲しみと。
君を守れなかった苦しみと。
君が愛するものを守れていない不甲斐なさ。
誰かを恨めたら。
そうしたらきっと軽くなる。
自己嫌悪が。
ああ。
この感情をどうにかしないと。
あの子に見せられない。
「……いや……。やだ……。こない……で。いやっ!」
どこまでも自分本意。
だから、あの子が見てしまったことに気づけなかった。
「スフェーン!」
ーーーー
「あの子は私を心配してくれた。幼い子が一生懸命、母の代わりにと。ダイオを想って。……私は自分の悲しみを優先して、あの子達を想えなかった。そんな私の感情を見てしまった。怖かったと。泣き叫んで、気を失って。……あの子には悪夢と言い聞かせて、忘れるように何度も言った」
感情が見えることで、あの子が苦しまないようにと、明るいものしか見せなかった母親を失って。
「目を恨むことがないように」
私のせいで、自分を否定しないように。
「感情はきれいなものだけではないけれど。薄汚れていたとしても、受けとめて、慈しめるように、否定しないように。……そう育てたいと言った妻の想いを守りたくて、私は感情を殺すことにした」
完璧にはできていないが、それでもあの子があの日見ただろう私の感情で、また悲しまないように。
「私が願うあの子の幸せは、綺麗なものだけを見ていてほしい。誰よりも、人の美しさも、醜さも知るあの子だから。だから」
まっすぐ静かに聞いている。
……本当になにも読めない。
「この世界は、その目で見る価値があると。そう想い続けられるようにしてください。一度私のせいで、あの子は傷ついた。見るのが怖いと。そんな想いをさせないと。そう。誓っていただけますか?」




