あいしてる
私は物心ついたときから、自分が他の人と違うことは理解していた。
お父様とも。
お母様とも。
ダイオとも。
そんな私をお父様もお母様は愛してくださる。
私が生きていけるように。
お母様は喜びの感情だけを。
お父様は感情を抑えて。
私に感情とは良いものであると思えるように。
この眼を愛せるように。
それでも。
それでも。
私は後悔している。
それに甘えたことを。
それにすがったことを。
目の前の感情は。
こんなにも。
怖い。
「あなたは愛されてきたと思います。あの子の子です。愛することをけして辞めなかったでしょう」
「……自分は親に捨てられたのに?」
「厳しいですね。そうです。でもそれが自分のできる愛し方でした。このままではあの子を守れないと思ったから」
やっぱり愛されているというのがうそ。
……でもあの方はちゃんと愛しているように見えた。
すくなくとも、このお二人の関係において、主従関係としての信頼はある。
「このことは我が主人にはいわないでくださいね。あの方にはこんな感情を知ってほしくないですから」
そう言って笑う顔は本心。
そう断言できる。
この目で見た感情と声と表情と。
すべてが一致した。
これまで見たことがないくらい。
きれいで。
まぶしい笑顔。
この感情を持っている人が。
感情は不要だなんて信じられない。
こんなにも怖いと思った感情が一瞬にして消えていった。
……私はこの目に頼りすぎている。
それは自覚している。
でもこんな風に振り回されたことはない。
「さて。冷めてしまいましたね。淹れなおしましょう」
ふわりと笑う。
一番最初にあったときに好青年という印象に戻される。
これが私たちの先祖?
私たちの始まりなの?
この方の目には何がうつっているの?
私は感情だったけれど。
これまでの変わった子は、うそが聞き分けられたり、料理であればどんなものでも再現できる味覚をもっていたり。
現時点で分かっているこの方のできることは、距離など関係なくどこにでも行くことができる。
一人で何人分もの仕事ができる。
できないことは一体なんなのか。
「……もう一度聞いてもいいでしょうか」
「なんでしょう」
先ほどの質問は間違いだ。
正しく聞く。
そうすればそれは嘘ではないはずだから。
「いまのあなたの主人はあなたを愛していますか」
大きく見開かれた目は、よくできましたと小さな子どもをほめるように私の頭をなでて。
「愛してくださっています。誰よりも」
その言葉も。感情も。手の温かみも。優しさも。
全部本物。
嘘はない。
……ああ。よかった。
嘘なのはこれまでのことで。
これからは愛されている。
ちゃんと今の主人はこの方を見てくださっているんだ。
ちゃんと私たちはみんな愛されている。