私はなにもわかってない
沈黙が流れた。
「どうしてそのようなことを?」
「……これまでの変わった子には、辛い思いをした子がいます。こんなにも記録を残しているのに、これまで一度たりとも接触はなかった。そんなあなたが、私には手を伸ばされた。心情の変化。それは主に寄るものなのか。はたまた、単なる気まぐれか」
にこりと浮かべている笑顔は変わらない。
「後者であるなら、私はあなたを否定したいと思っています。気まぐれで助けないで」
失礼は承知。
でも、私は怒っている。
私はお父様に愛されている。
私はお母様が愛してくださった。
私は弟に愛されている。
苦しんだ変わった子がいることは知っていた。
そうなるのも理解できた。
でもそれは、私たちをあなたが手離したから。
甘えて生き続けることもできた。
それは許されなかった。
生きていけるように考えた。
いつ現れるか分からない変わった子を考えて。
どうしていくのが家を守れるのか。
そうして繋いできた。
そうして、私はここにいる。
手元にやって来た本を撫でる。
私だ。
この時代に生まれた私。
この本の数だけ私がいる。
「私は愛されています。私たちは愛されています」
目が合い続ける。
「私たちのお父様は、愛されているのですか?」
愛されていないから。
愛を求めて、愛してくれそうな存在を作ろうとしているのか。
「ずっと愛されていますよ」
……嘘だ。
ぐちゃぐちゃで、いろんなものがまざってて、きれいに感情が見えない。
その言葉の瞬間だけ、強くはっきりと見えた感情。
嘘の感情。
どこが嘘?
ずっと?
愛されている?
それとも、全部?
……どこが一番感情が目立った?
「……はは。やっぱりしっかり見てますね」
人懐っこい笑顔。
「あなた相手に隠し事をするのは無駄ですね」
目を閉じて、ゆっくり開かれた。
……はっ……。
私はなにも見えてなかった。
初めてお会いした時に見た感情は。
今日お話していて、見ていた感情は。
今、見えている感情は。
「これ……が……」
「感情というのは本当に邪魔。そんなものがあったところで、事実は変わらない。出来事は変わらない。不老不死であること。子どもを手離したこと。子どもに置いていかれること。なにも変わらない」
……怖い。
「変わらないからこそ、そこにある感情になんの意味もない」
本当に私はなにも知らない。
わかってない。
初めて。
感情が見えていたこの眼を。




