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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【短編】時間跳躍

 夜中に目が覚めた。

 トイレに行こうと起き上がるものの、連日の残業からくる過労のせいか身体が怠くて立ち上がれない。

 仕方ないのでベッドの脇に座って休むもののこんなとこに座って休むぐらいなら寝た方がいいのではと思ってしまう。

 その時、外して机の上に置いたデジタル腕時計の小さな時報がピッと鳴った。

 私はふと思った。

 今何時なんだろう?

 3時なのだろうか?

 4時だろうか?

 5時ならば本格的に二度寝をするのは危険だ。

 寝過ごして遅刻の危険がある。

 私はベッドに腰かけ目をつぶったままスマートスピーカーのアレクシアに聞く。


「アレクシア、今の時刻は?」


 すると機械音声とは思えない流暢な言葉で答える。


「午前3時です」


 3時なら、まだまだ寝れるじゃないか。


 私はホッとしてそのまま目を閉じていると、またもや腕時計の時報が鳴った。

 時報はさっき鳴ったばかりだよな?

 不思議に思いつつアレクシアに時間を聞く。

 するとアレクシアはとんでもない事を言い出した。


「午前4時です」


 私は飛び起きる。

 嘘だろ?

 目を瞑っていたのは一瞬で1分も経ってないはずなのに1時間も経っていただと?

 私は慌ててトイレに行って二度寝をした。


 *


 それからも時々時間跳躍現象が起こるようになった。


 外回り中のファレスで食事を食べたあとに少しだけ目を瞑ると時間が3時間も過ぎていて慌てて帰社したことや、帰宅時の電車の中で居眠りをしてしまったら翌朝の満員の通勤電車の中で目が覚めたりもした。

 この現象は座りながら寝るとかなり低い確率で起こるようで、困ったことに自分で制御することは不能である。


 *


 とある昼休みのこと。

 会社のマドンナで事務のケイ子ちゃんがやって来る。


「給料明細です」


 ケイ子ちゃんが給料明細を手渡してくる。

 今月は残業が物凄かったからさぞかし貰ったんだろうと思って中を確認してみると普段の月の3倍も給料が貰えていた。

 給料明細を覗き見したケイ子ちゃんが驚いている。


「こんなに貰ってるんですか……わたしのボーナスより多いじゃないですか」

「今月は企画書の作成で残業が忙しかったからね。今月だけだよ」

「今度食事に連れて行って下さいよ」

「おおう、仕事が落ち着いたらな」

「約束ですからね」


 ケイ子ちゃんは私の高額な給料明細を見たせいか好感度急上昇。

 今度の食事が切っ掛けになって付き合えたらいいんだけどな……。

 そんなことを考えつつ、疲れで食堂に行く気にももなれず会社の席でうたた寝をしてしまった。


 まずい!


 どれだけ寝過ごしたんだ?

 慌てて飛び起きたが時間跳躍は起こっておらず、まだ昼休みだった。

 良かったとほっと安堵する私。


 そこにケイ子ちゃんがやって来た。


「給料明細です」


 さっき貰った筈なのに、また給料明細を渡しに来た。

 疲れているのは彼女の方じゃないか。

 私はそれとなく彼女に伝えた。


「明細ならさっき貰ったよね?」

「なに言ってるんですか? 今渡したばっかりですよ」

「そうなのか?」

「働き過ぎですよ」


 軽く微笑む彼女。

 明細を見て見ると開封したはずがその痕跡はなく、慌てて開いて中を確認してみると残業代がさっきより少ない。

 表紙の支給月を見ると翌月の給料明細だった。

 どうやら私は丸1ヶ月、会社の机で寝過ごしたようだ。


「もしかして、ここで丸1ヶ月も寝過ごしちゃった?」

「普通に会社に来て残業までしてたじゃないですか。先月も食事に連れて行って貰えなかったんですから、今月こそお願いしますよ」


 どうやら飛んでいるのは私の記憶だけでその間の私は普通に生活を送っていたらしい。

 あれから1ヶ月を過ぎると案件は解決し、仕事は落ち着いていて無事に定時に帰れるようになっていた。

 この1か月間の仕事した記憶は無いけれど、頑張ってくれた自分には感謝したい。

 駅に向かおうとする途中、女の人に声を掛けられた。

 息を切らしたケイ子ちゃんだった。


「やっと捉まえましたよ。約束の食事に連れて行ってくださいよ」


 甘ったるい声で催促される。

 どうやらこの1ヶ月の間のケイ子ちゃんの好感度は変わってなかったようだ。

 僕はケイ子ちゃんに連れられておすすめのお店へと行く。


「このイタリアンのお店はリーズナブルな価格なのに美味しくておすすめなんです」


 そう彼女の勧めるお店で楽しい食事をする。

 仕事ばかりで流行に疎いのでケイ子ちゃんのリードには助かる。

 彼女と別れた帰りの電車の中、シャンパンを飲み過ぎたせいかついウトウトしてしまい終着駅迄乗り過ごしたのか起こされた。


「お客さん、起きて下さいー!」

「はいはい! 起きてます」


 慌てて起きると、くすくすと笑い声。

 そこは終着駅ではなく、どこかの奇麗な家の居間の一室。

 目の前には見たことのない小学生ぐらいの女の子とどこかで見たことのある女の人が笑っていた。


「パパったらほんとお酒に弱いんだから」

「ほんと弱いよね」


 私は思わず聞き返す。


「パパ?」

「もしかして娘のエリの顔を忘れたの?」

「もしかして酔っぱらってわたしの事も忘れちゃった?」


 その女の人は……年齢を重ねているけどケイ子ちゃんの面影がある。


「もしかしてケイ子ちゃんですか?」

「もう結婚して10年も経つんだから、お酒飲んだぐらいでわたしのこと忘れないでくださいよね」


 私はイタリアンレストランに行った帰りの電車で10年もの時間跳躍をしてしまったようだ。

 しかもケイ子ちゃんとイタリアンレストランに行った縁で結婚して娘まで出来ていたとは信じられないほどの幸運だ。

 意識外の僕よ、よくやった!と褒めたい。


 次の日の明け方、やたら喉が渇いて目が覚める。

 枕元の水差しで喉を潤すと、隣にはケイ子ちゃんが寝ていた。

 あれは夢じゃなかったんだな。

 幸運を噛み締めつつ会社に向かうとなんと私の役職は部長になっていた。


「ぶ、部長なの?」


 多少狼狽えつつ朝礼を済ますと、後輩の田中が血相を変えて書類を持ってくる。


「部長、例の案件でライバル企業に顧客を取られそうで、大変なことになってしまいそうです!」


 事情がさっぱり分からなかったので、とりあえず書類に目を通す。

 すると、昔やっていた案件と関係があった。

 これなら私でも戦える。

 私はライバル企業の提出した企画書の穴を指摘して、対抗案を作成。

 その対抗案を顧客がいたく気に入り、無事受注された。


「よくやった」

「こんな大型案件を受注したなんて、次期社長の座は確実ですな」


 大型案件を受注したことで社長や重役から次期社長だと持て囃される。

 今度うたたねして時間跳躍した時は社長になってるかもしれない。

 私は期待に胸を躍らせつつ、再度のうたたねをするのであった。

面白いと思ったらぜひとも高評価をお願いします。

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