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23話 真の敵の姿

 有村さんは俺に謝った。だが、何も彼女に謝られるようなことはされていない。

「ごめんなさいね、お父さんがあんなこと言って。私たちただの友達ですもんね」

「え、は、はい。俺は、全然大丈夫です」

「……」

 こうして会話が始まってもすぐ途切れてしまうのは、お互い気を遣いあっているという最たる証拠なのだ。彼女は未だ父親の言葉に憤りを感じているだろうし、俺だってあんな風に言われて何も思わなかったわけではない。

 俺たちは薄暗い夜道をのんびりと歩いていた。片側一車線の道路を、帰宅を急ぐサラニーマンの車が縦横無尽に駆け巡る。歩道は2人が横に並んで歩くには少し狭く、向かいから人が来ると俺が避けて歩かなければならない始末だった。

「じゃ、私こっちだから」

 有村さんは大きな交差点の前で立ち止まった。

「あ、俺はこっちです」

 と、俺は自宅方面を指差した。

「あのさ、慎也くん」

「は、はい」

 さよならを言おうとした帰り際、有村さんは俺を呼び止めた。

「また『てんや』で飲みません?咲ちゃんも呼びましょう。お友達3人で」

「あ、いいですね、是非。週末はどうです?」

「はい、大丈夫です。咲ちゃんにも行っておきますね」

 彼女は最後に少しだけ微笑んだ。目を丸くした、まさに純粋な汚れのない笑顔のように見えた。どこか不思議な感覚だった。

「ありがとうございます。では、また」

「うん。バイバイ」

 彼女は俺に手を振った。俺が何の躊躇いなく手を振りかえしたら、彼女はハハッと声を上げて笑った。そのまま、彼女は立ち去っていった。彼女が横断歩道を渡り終わったのを確認すると、俺もその場を離れた。


………………………………………………………


 その時、都内某所では新たな動きがあった。

「え!?お前の子供だったのか!?」

「あぁ、そうだよ。今まで言えなくてすまない」

「おいてめえ、どういうことだよ。なつみに手出しやがったのか」

「いやぁ、本当に申し訳ない」

 そこにいたのは2人の男、前田と長居だ。長居の告白があり、前田は大きく腹を立てていた。

「ふざけるな。なぜ無理矢理俺となつみを離婚させた?まさかお前、なつみに未練があるんじゃねーだろうな」

「おいおい、そう興奮するな。先輩にタメ口ってどんな態度だよてめえ」

「……」

 前田は黙ってしまった。長居は前田の学生時代とてもお世話になった先輩だった。卒業してからもたまに連絡が来ては、飲みに行ったりと交流は続いていた。

「お前となつみちゃんを別れさせたのは、お前のためだ」

「は?」

「お前はずっと騙されてたんだよ、なつみちゃんに。倫太郎くんと真紀ちゃんはお前の子供だって、ずっと騙されてたんだよ」

「……」

 お前にもな、と前田は言いかけたがやめた。先輩に従順すぎる男だった。

「俺はすまないと思ってる。だが、俺だって親なんだ。子供の顔が見たい」

「それで私たちを離婚させたんですか?」

「ああ。お前に親権が渡れば、俺はいつでも自分の子供に会えるからな」

「俺は利用されたんですか?あなたに」

「だから、それは違うって。お前だってあんな偽の結婚生活に気づいたら、自分から離婚してたはずだ」

「……」

「そうだろ?」

「は、はい。そうかもしれないですね……」

 前田は眉をひそめた。こんな大事なことをずっと隠していたなつみに対し、怒りが込み上げてきた。まさか本当に不倫をしていたとは。しかも、よりによって相手が長居だったとは。悔しさややり切れなさで目に涙が溢れてきた。

「そう泣くな。男だろ」

「は、はい……」

「今度、倫太郎くんと真紀ちゃんに会わせてくれないか?」

「え?」

 前田は思わず聞き返してしまった。だが長居の言うことも一理ある気がした。自分の子供に会いたいと言う気持ちは、長い間パパをやってきた前田にはよく分かった。

「ええ。もちろんです」

「良かった。ありがとう。あ、でもこのことはなつみちゃんには内緒だぞ」

「はい。もちろんです」

 そう言って前田は軽く頭を下げた。なぜこんな奴に頭を下げているのか、考えたら考えるほど理不尽な思いをさせらては、それを飲み込んだ。

小説を読んでいただいてありがとうございます!!


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