SFC ガイア幻想紀
SFCのマイナーゲームをやってみた感想文です。
このゲームはストーリーだけならクロノトリガー以上、SFCのRPGのストーリーとしては最高傑作だと思います。
このような傑作級となるとストーリーの到達点は一点に集約されてしまうのか、このゲームのラスボスも『星に巣くう地球外生命体』で、時空を超えて過去を改編して別の世界線の平和な現代や未来を取り戻そう的なストーリーとなっています。90年代ってゲームをはじめ、このような過去改編とかパラレルワールドというシナリオの創生期でもあって、このての話が多かったです。
ただ、このゲームに関して言えば、ストーリーは良かったものの操作性に関して結構独特なクセがあって、当時この辺りの好みの差によってゼルダや聖剣伝説と明暗が分かれたんじゃないでしょうか。
ごく単純なところで云えば、クインテットのゲームには最早『クインテット式』と言えるような独特なボタン配置や操作感があります。同じようなARPGでも任天堂式のゼルダの伝説などとは操作感がまるで違うので、ゼルダのように『軽く遊んでみるか』的な感じではないです。ただ、このクインテット式の操作に慣れてしまえばキャラクターの動きは聖剣伝説などより更に人間味がある動きが出て、『変な没入感』は出てくると思います。
そう、ただ、だんだんと感じてくるのは『変な』没入感なんです。それはこのストーリーも影響していて、物語の中盤辺りから『魔物達は元々は人間だった』とか『魔物と化した家族を斬るしかなかった』とかいうメタ発言をしてくる人たちの登場によって、操作(敵の倒し方)に慣れてきても『バッサバッサと爽快に』敵を斬っていく感に歯止めがかかります。
まずは、そのストーリーを書くのに、いきなりネタバレから書いてみます。
まず、このゲーム内の、中世なのか近代なのか分からない乱雑な世界は西暦1993年のパラレルワールドという設定になっています。これは最後、エンドロール後のラストシーンで判明する事ですが、これが分かっていないと話が最後まで難解過ぎるので、まずコレを踏まえて。
そして、ラスボスである『彗星に寄生する知的生命体』は、人間を含め動物が地球を支配するのを快く思っていないため、何百年かの周期で彗星と共に地球に最接近する度、それまでに人間が築いてきた文明を滅ぼす程の『影響』を生き物たちに与えてきました。この彗星の『影響』を受けた生き物は、次々と謎の病気を発症して死んでしまったり、体の形そのものがそれまでに無かった異形やゾンビのように変わってしまう者もいたというので、作中では直接的には書かれていませんが恐らく大量の放射線のようなものを地球に放射したと言いたかったのでしょう。
そんな彗星のもたらす影響を古代の人たちも薄々気が付いていて、彗星を『悪魔の星』と呼んで恐れていましたが、やがて高度な文明と知識を持つようになった人間たちは彗星による害のある影響を逆に利用しようと考え始め、彗星の『影響』を利用して家畜を肥大化させたり獣達を凶暴化させて生物兵器として戦争の道具に使ったりするなどして、しかし結局は人間同士の争いに拍車がかかり悉く文明は滅んでしまい、この平行世界の『現代』はそれほど高度に文明も文化も発達していない。というのがこのゲームのスタート地点での世界です。
『天地創造』然り、クインテットのゲームシナリオって感動と心に傷が付くとの本当にギリギリのところなので、R16くらいにしておいた方がいいんじゃないかと思います。残酷とかエロとかとは違う、心の奥の方が少し重くなるような嫌な感じが残ります。
主人公は『テム』という少年で、ゲームスタート時から一年半前に考古学者をしている父の調査隊に同行させてもらってバベルの塔の調査に行ったのですが、そこで『何か』があって、今は祖父母と共に自宅で暮らしています。父とバベルの塔へ行った日の記憶が無くなっていて、気が付けば自分だけ家に帰っていて父は消息不明という状態。毎日、普通に学校(のような教会)で勉強して、放課後には友人たちと町外れの秘密基地に集まって遊んでいるといった感じ。
そんなある日、このサウスケープの街を治めるエドワード城のおてんば王女カレンが城を抜け出し、そんなカレンを偶然街で見かけたテムの祖父母がカレンを王女とは知らずに家に招き入れて夕飯をご馳走しようとしていました。しかし、すぐに捜索隊の兵がテムの家に押し掛け、カレンはあっさりと城に連れ戻されてしまいます。しかしこの時、城に連れ戻されたカレンはテムの家に飾ってあった、テムの父が撮った古代遺跡の写真や絵の事を父である国王に話してしまったことで、国王はその家が高名な考古学者オールマンの家だと勘づきます。そして国王はテムの元に『水晶の指輪を持って城に来い』という令状を出します。国王は、古代から伝わる伝説の秘宝とされる水晶の指輪は考古学者オールマンが隠し持っているという噂を耳にしていましたが、家族であるテムもテムの祖父母ビルとローラもそんなものは全く知らなかったため、テムはとりあえず手ぶらで城に向かいました。この時、テムは『家出した王女を保護していたのだから何か褒美でも貰えるんじゃないか』くらいの軽いノリで王に謁見しますが、王は水晶の指輪を持ってこなかったテムに激怒し、テムを地下牢に投獄してしまいます。
その時、その王のあまりの横暴な行いに王女カレンが反発し、ペットのミニブタに牢の鍵をテムの元に届けさせてテムを脱獄させ、さらに自身もテムと同行して再度城を抜け出したのでした。
こうして城を抜け出したテムとカレンは、まず祖父母の安否を確認するため家へと向かったのですが、時既に遅し、テムの家の中はめちゃくちゃに荒らされ、祖父母の姿もありませんでした。その光景を見て焦る二人の前に、テムの脱獄をサポートしていたリリィという妖精が姿を現し「祖父母はイトリー族の村に匿っているから一緒に来て」と言います。
イトリー族は、かつてインカ帝国を守護していた精霊の一族で、その長老はインカ帝国滅亡の要因についてもなんとなく気が付いていて、近い将来にまた彗星によって引き起こされる人類滅亡の危機を救う救世主がカレンとテムなんじゃないかと思っていたので、今、カレンとテムを村に呼び寄せて、本物かどうか見極めたいと考えていました。
ここで長老からテムの出生の秘密が明かされます。
元々、祖父母のビルとローラはイトリー族の妖精で、二人の間に生まれた一人娘(テムの母)は生まれながらに強力な魔力を持っていたため将来を有望視されていた巫女。ある日、そんなイトリー族の村を一人の考古学者が訪れてきます。それがテムの父親オールマンで、オールマンとテムの母は互いに一目惚れで恋に堕ち、やがて二人は結婚してサウスケープにあるオールマンの家にビルとローラも呼び寄せて暮らしていたとのこと。なのでテムも生まれながらにちょっとした魔法の力みたいなものを持っていたと聞かされます。
さらに、テムが武器としても使っている笛もオールマンがバベルの塔で見つけた秘宝なので不思議な力を秘めていて壊れないし、その笛に装飾のように嵌められているのが例の水晶の指輪。つまり、王様に呼び出された時に実はテムは水晶の指輪を持っていたという事になります。
ここから『世界中の古代遺跡巡り』という本編ストーリーが始まるのですが、サウスケープを出てイトリー族の村に向かう瞬間から最後まで、もう二度と後戻りは出来ない強制的な一本道のストーリーとなります。ちょっとした出来心で城から抜け出した王女様は二週間も筏で海を漂流したり一ヶ月もトンネルの中を彷徨ったりして、どんなに文句を言ってももう二度と城には帰れず。遊び半分で後を追いかけてきた同級生の友人たち三人は、一人はいきなり海に落ちてリバイアサンに食われて意識がリバイアサンと同化。「別に人間の姿でいる事が一番幸せとも限らない訳だからいいんじゃないの?」と言われてそこでサヨナラ。もう一人は失踪していた父と中盤に再会するも父は精神崩壊していて幼児言葉で話し、息子の事も覚えていない状態。傷心のあまり身近にいるリリィに告白するも当然のごとくフラれ、居づらくなったリリィは失踪、自分も居づらくなって置き手紙を残して失踪という、とんでもなく士気の下がる展開を引き起こす(後に再会しても15歳にしてリリィと結婚して父の介護を続けるという理由でリリィ共々離脱という鬱展開)。最後の一人は序盤から奴隷バイヤーに拉致られて監禁されるわ人食い族に捕まって焼かれる寸前にカレンのペット(ミニブタ)が身代わりになって食われるわと、このゲームの鬱展開を一人で助長した挙げ句、最後にはテムとカレンが過去を改変したことで世界線ごと消されてエンディングでも全く触れられないという最悪の消え方をします。大体、このゲームの世界線が消えて今ここには現在の世界があるだけみたいな終わり方をするんだったら、この作中で重い人間ドラマを展開してきた人たちって『悩んだり悲しんだり必死にあがいたりしても結局何も無かった事になるの? それって無駄って事?』ってなっちゃうでしょう。究極の鬱ゲーでしょ。最後にテムが「100年かかっても1000年かかっても、必ず君を見つけ出す」と言って、ラストカットですれ違いざまにカレンに気が付くという『君の名は』みたいなラストで一時の感動を誘いますが、『今までの物語の中の仲間達は何処へどうなっちゃったの?』という悲しさの方が勝ります。
本編自体も奴隷貿易とそれに絡む環境問題、彗星とは別に悪戯に人間を弄ぶ月の民など、図太くストーリーの根底にあるサブストーリーも後半になるにつれてフェードアウトするように消えて無くなり、最終盤では全く触れられずにそのまま終わってしまいます。これらがもし始めから『パラレルワールドで起きていた事なんだから、違う世界線に行ってしまえばもうどうでもいい事になるでしょ?』という考え方で、あまり思い出さないように徐々に本編からフェードアウトしていくように作ったというなら、それこそ凄い脚本ですけど。
この奴隷貿易というサブストーリーは、まず月の民という霊体が世界最大の貿易会社の社長夫婦(ニール=テムの従兄の両親)を殺して化けて成り変わり、貧困地域の人たちを買い集めて奴隷として世界各国に輸出していたという話になります。そんな奴隷達は買われた先で40年かけて一枚の絨毯を編まされていたり、鉱山でひたすら穴を掘っていたりと様々で、そんな生活に『疑問』を感じていて、主人公達が助けていくというサブストーリーが進んでいきます。ただ、奴隷の人たちの多くは自分が奴隷になったことを『後悔』はしていない様子で、何故後悔していないのかという理由は本編後半で主人公達が訪れる辺境の村で明らかになります。
辺境の村では既に彗星の影響が始まっており、何人かの村人が体が石化する奇病にかかっています。その村は辺境の地であるため医者などいないばかりか村人は言葉さえも知らず、働き手を失った村は貧困を極め『共食い』によって命を繋いできた数人の村人が生き残っているだけの状態。主人公達はそんな村の状況を何も知らずに村に入り、当然のように村人達によって捕獲され、食糧として焼かれそうになります。すんでの事でカレンのペットで再会したばかりのミニブタが主人公達の身代わりとなって火に飛び込んで食糧となったおかげで主人公達は助かり、村人達も落ち着きを取り戻すのですが、落ち着きを取り戻した村人達は自分たちが食べた両親や友人の骨を主人公に紹介するという超絶な鬱展開。さらにカレンは「本当にお腹がすいたらペットでも親でも食べなきゃ人間は生きられないのね」と冷静に言ったりします。そんな極限の生活から月の民は村人をさらい、奴隷として使えるように言葉を教え、少なくとも共食いなどしなくても良い程度の仕事と食糧のある奴隷としての生活を与えていました。月の民の人間に対する目的がなんだったのかは最後まで明かされません。
ニールにとっては、両親だと思っていた人たちは実は月の民で、とっくに本当の両親は殺されていた訳で、月の民の行いは悪でしかないですが、それはニールの家が極端に裕福だったからで、もしかしたら月の民は高い山を崩して深い谷の谷底を底上げしようと全うな考えを実行していただけなのかもしれませんね。このサブストーリーはテムが月の民を追い払いニールが貿易会社を継いで、会社から奴隷売買の事業を撤廃するとしたことで終結しますが、次に訪れた町で商談に来ていたニール新社長のセリフが今でもネタにされていますね。
『ボクの会社はコショウ(小姓)を取引する会社に生まれ変わったんだ』
その後もアンコールワットの敵はホントに心霊写真みたいなリアルに怖い敵ばかりだったり、ムー大陸はかつての彗星の影響でおかしくなった人たちから逃れるため住民が地下にトンネルを掘って逃げたというエピソードがあったり。ムー大陸の地下トンネルは主人公達が30日間も彷徨う事になり、その間に喧嘩もあったり、挙げ句の果てにムーの生き残りに遭遇。ムーの子孫達は何千年も地下で子孫を継いできたため『日の光に当たると死んでしまう』ように退化していて、『感情』という概念も失ってしまったとのこと。
なんって言うか、全体を通して、敵を倒してもボスを倒しても『よっしゃ』とか『やったー』とかと手放しで喜べないゲームです。このクインテットの鬱展開は所謂『お家芸』みたいなもので、なんでも90年代風鬱展開に変換する『雛形』というのがガチッとあります。
この雛形を使って『もしクインテットがマリオを作ったら』、『クッパは元は人間で、ピーチ姫に想いを寄せるキノコ城の兵士だった。ある日、クッパは体が化け物に変わってしまう奇病にかかってしまい、その激痛に暴れて同僚の兵士を踏み殺してしまい、ショックで城から逃げ出してしまう。ピーチ姫はクッパが病気の自兵だと知っていて自らクッパの元へと向かうが、何も知らないマリオがピーチ姫救出に向かい、クッパを溶岩に沈めて殺し、ピーチ姫を城へと連れ戻してしまう。もうあの兵の病は自分の手には負えないと悟っていたピーチ姫は何も語らず、クッパを殺めたマリオに静かに身を寄せるのでした。』みたいに。
鬱展開とはいえ、なんの変哲も無い話が『一段深みを増す』のは確かで、90年代頃には大いにウケた形式でもあります。
当時の雰囲気を味わってみるには良いゲームだと思います。深入りせずにあくまでストーリーの流れだけを掬って『最後まで良い流れだったなぁ』と思えるくらいに留めておいた方が良いゲームだと思いました。
『良く出来てる』と総評したいです。