見舞い
「ごほっ!ごほっ!ごめんな、支。」
「別に良いよ。兄さん。」
俺は濡れタオルを替えながら言った。
「でも、お前、今日は雀と映画を観に行く予定だったじゃないか。それなのに、俺が風邪ひいたばかりに行けなくなってしまった。」
「だから、大丈夫だよ。もう雀には連絡したし、それに映画より兄さんの方が俺に大切なんだよ。」
「ありがとうな、支。俺は良い弟をもったよ。」
「そんなことはいいから。寝ていろ。今からお粥作るから。」
俺はそういうと兄さんが寝るのを確認して兄さんの部屋から出た。
「よし、計画通りだ。」
兄さんが風邪ひいたのは俺が昨日の飯に一服盛ったからだ。
なんで自分の兄にそんなことしたのか?
それは雀の好きな相手が兄さんだからだ。
湯効仁
生まれながら女難に満ちた人生を背負ったザ・主人公のような人間である。
主人公らしく高校入学して約半年で多くの女性を堕としている。
弟として面倒でしかない。女どもには兄さんのことでよく聞かれる上に鈍感な兄さんへの愚痴にも付き合わされる。その上、堕とす女性全員が独占欲が強いせいで、安易に「誰かと付き合え」なんて言えるわけない。
そんな事を考えていたら、ピンポーンと家のチャイムの音がした。
どうやら予定通りに来たようだ。
「時間通りだな。」
「はい……お邪魔します…守さん。」
予定通りに雀が来た。どうやら、誰にもバレずに来れたようだ。
「あぁ、兄さんなら部屋にいる。早く行け。知ってると思うが、部屋は2階の一番右奥だぞ。前みたいに俺の部屋と間違えるなよ。」
「は、はい。分かってます。」
俺の部屋は危険なものが多い為、あまり入ってほしくないのだ。
「さてと、粥の用意でもするか。」
今回のデート作戦は、ずばり見舞いによるお家デートである。
外で待ち合わせしたりするから。人に会う確率が高くなり、トラブルに巻き込まれる確率も高くなる。それなら一切誰とも出会わないように家に篭ってもらえば良い。
このヤンデレの思考ような作戦を実行したのだ。
作戦内容は俺が兄さんに薬を盛る。そして、体調を崩して寝込んでいる兄さんの見舞いに来る為、雀が家に来る。
しかし、此処で誰か兄さんの女に見られでもしたら、作戦は即時失敗。プランBに移行する予定だったが、その必要もなくてよかった。
この薬、意外と材料が高いんだよな。
そう全ては雀のデートを成功させる為、あいつに幸せになって貰うため、今回のデートはそれを叶えるのに必要な事なのだ。
「あれから30分。そろそろあいつらも限界が近いかな。」