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超獣戯画Ⅰ  作者: m-u-t-o-i


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第七十九話 民との別れ

オレガノは快くレンド達を家に迎え入れる。

「倒したそうね…。あの獣を」

レンドはうなずく。

「なかなか骨が折れました」

前回同様二人はソファに座り、オレガノはキッチンで紅茶をいれる。レンドは不意に背を向けているオレガノに喋りかける。

「貴方の思い通りになりましたか?」

オレガノはレンドにそう言われて少し驚いて振り向く。

レンドは続ける。

「最初に感じた違和感は願いの話でした。あなたはその話をなぜか移住者にしかしていない…。確かにあの祠は移住者のためのものだが、まるで移住者以外には意味がないと知っているかのように最初から移住者だけに広めていることがどうしても気になりました」

オレガノはうなずく。

「続けて…」

「その後、俺が確信を得たのはお守りです。クレアが持っていたお守り、あれはリクードの物ので聞けば元はあなたがピントに渡したはずだと。ですがリクードは肌身離さず持っていたはずのお守りをなぜあなたが持っていたのか…」

オレガノの目から涙がうっすらとこぼれる

「おそらく貴方は最初の方から、龍の正体がなんなのかを知っていたんではないですか?そして、イパルの民を守るために彼に協力した…」

オレガノは初めて龍を見た時を思い出していた。

最初の雷の助けがあった後オレガノがなんの気無しに森を散歩していると木の後ろからゆっくりと白い龍が現れた。

オレガノは飛び上がって驚き大声を出そうとしたが、その龍は徐々に白い人型に姿を変えた。

そして静かにするように口に人差し指を当てる。

「貴方は一体…」

人形は地面にリクードという文字を書いた。

「リクード?あなたなの?」

オレガノは移住者のリクードの事も当然よく知っていた。

リクードはついでに手から電気を発生させてみせた。

「この前のはあなたが…でもどうしてそんな姿に?」

リクードは何も言わず。

『守るため』と地面に書いた。

「何を守るの?」

とオレガノは聞いた。

『イパルの民』と彼は書いた。そしてなおも不審がる彼女にリクードはあるものを与えた。

その後リクードはオレガノに彼女を助けた話を移住者に広めてほしいということを伝えた。

オレガノは了承して、彼の存在をぼやけさせながら、移住者達に祠に願うとイパルの神が味方してくれるという話を広めて回ったのだった。

そしてリクードが彼女に渡したものこそピントに渡したお守りだったのである。

リクードはオレガノに、自分の力を使わないといけない時にその場に一緒に居て危険に巻き込まれる可能性がある人間にこれを渡すようにと伝えていた。

「ピントには可哀想な事をしたわ…なんとかリクードがレイを守ってくれると思ったのだけど思った通りにはいかないものね…」

レンドは続けた。

「あなたの立場ならすぐこのことを広める事もできたはずだ。龍の正体をね。そうすれば領主の悪事がすぐに広まったかもしれないのに…」

オレガノは複雑な表情を浮かべる。

「ええ、あなたのいう通り、本来はリクードだと分かった時に広めるべきだった。でも私はその時、どうしても彼に移住者達の心の支えになってもらう必要があったの」

レンドは静かに聞いている。

「領主が何もしなかったとしても、この街での私たちの立場は元々厳しいものよ。であるなら少なくともすがる存在が実在するというだけで、どれだけ救いになるか…事実、彼は何人もの移住者をこの三年間で守り、助け続けてきた…」

レンドは息を吐いた。

「あなたの考えが間違っていたとは思いません。やったことを責めるつもりもない。貴方は彼等がどんな犠牲を払って貴方達を守ろうとしたか知る人だ。せめてその想いを語り継いで行ってください」

オレガノは頷いた。

レンドはオレガノの部屋を後にすると、荷物を取るために宿に一旦戻ることにした。

すると宿の前に巫女とお付きの者が待っているところが見えた。

巫女はレンドを見ると深くおじぎした。

「この度は本当にありがとうございました」

レンドは疑り深い顔をする。

「何の事だろうか」

巫女はもあまり表情はかえない。

「この街の歪みを払っていただいた事です」

レンドはどこか冷たかった。

「俺にそんなつもりはなかった」

巫女はうなずく。

「あなたが他人の痛みをわかる人で良かった。」

レンドはひとつだけ巫女に質問をした。

「どこまで見えていたんです?俺は貴方のお告げが今回の一連の引き金になったとおもっている」

巫女は少し考えてから答える。

「私の一族は一族の中で最も未来が見える人間をお告げの巫女として選びます。そしてその基準は、お告げがなされる事も織り込んだ未来が見えるかどうかというところになります。」

レンドは納得したようにうなずく。

「やはり見えていて、それでなお今回のきっかけをつくったのですね」

巫女は頷いた。

「どうしても領主の権力は彼の代限りとする必要があった…。そのためには移住者達に行ってきた悪事に加えて、もうひとつ彼等が不正を行う必要があったのです」

レンドは厳しい視線を巫女に投げかける。

「そこで出る犠牲は考えなかったのですか?」

巫女は切ない表情を浮かべる。

お付きのものが、レンドに何か言いかけるが巫女はそれを制した。

「おっしゃる通りです。リクードさんやメイちゃん達はその犠牲になった。ですが今ゆがみを払っておかないと、いずれ来る帝国の転換期にこの地区は利用されもっと多くの人間が犠牲になっている未来しかありませんでした…。私には巫女として街を守る義務があります」

レンドは納得した表情を浮かべた。

「そこまでわかっていて、自分の選択を背負ったのなら私に言うことはありません」

そう言われると、巫女は深々とお辞儀をして、レンドの元を立ち去っていった。 

一通り荷造りをおえ、レンドはリコとリクソスを立ち去ろうとした。

街の出口まで来た時、ピントが走って追いかけてきた。

「レンドさん、あの…本当にありがとうございました」

レンドはどこか優しい目をしていた。

「俺は感謝されることは何もしちゃいない。自分の仕事をしただけだ」

ピントは少し微笑んだ。

たしかにレンドは仕事を達成することに忠実だったが、それだけではない、何か暖かさよようなものをピントは一緒に働く上で感じていた。

「俺、親父の後を継ごうとおもうんです。ずっと親父みたいな商人になりたかった。

あなたが言ってくれた自分を取り戻すやり方を信じることにしました」

レンドは頷いた。

「それがいい」

ピントはレンドにどうしても聞きたかった事があった。

「レンドさんはその…思い出すんですか?その失った大切な人たちの事を…」

純粋な問いにレンドは少し考えて答える。

「俺が忘れないようにしているのは、大切な人にしてあげれなかったことだけだ。もし、仮に、もう一度それを得る機会に恵まれた時に後悔しないようにな」

ピントはなんとなく納得した。

ピントもまた、思い出すのは生きている間に妹にもっと優しくすべきだったという記憶ばかりだった。

レンドは続けた。

「失った人の分まで全力で生きることだ。それはお前にしかできない」

ピントはしっかりと頷いた。

そしてレンドとリコはリクソスの街を後にした


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