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超獣戯画Ⅰ  作者: m-u-t-o-i


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第七十八話 契約印

レンドが目覚めて、周りを見るとそこはブレストの診療所の一室だった。

リコはその横で心配そうにレンドを見つめていたが彼が起きたことに気づくと大声を出した。

「レンド起きた!」

この知らせにグラントやらカルケルたちも駆けつけてきた。

「この前とは逆だな…」

とグラントに軽口を叩かれレンドは苦笑いした。

レンドはカルケルを見つけると謝った。

「すまない。なんとか龍は逃してやれるかと思ったんだが、手加減する余裕がなかった」

カルケルは歯を食いしばって怒りや悲しみを抑えているように見えたが、どこか諦めたようにフッと笑顔になった。

「あなたはそれが仕事だ。領主の悪行が知れ渡って、次の犠牲を無くせただけでもよかった。それに最後にワシらはメイに会えたからな。今日はあんたに礼を言うために起きるのを待っていたんです」

言ってカルケルは涙ぐむ。

リコはレンドの隣にちょこんと座っており、いつもなら嫌がるレンドも今日は特に何も言わなかった。

「領主はどうなった?」

レンドの問いにグラントが答える。

「今は街中で抗議が起きてる。領主の館も何度か荒らされたそうだ。」

「そうか」

そういうとレンドは起き上がった。

焦ってブレストが止める。

「困ります。まだ安静にしていてもらわなくては…」

「俺たちの体は獣の毒に強い」

というとレンドはブレストの制止を振り切って上がった。

これにはグラントも少し驚いた。

自分の時は傷から入った瘴気のせいで1週間は起き上がれなかったからだ。

レンドはリコに着いてくるように告げる。

「どこへ行くんだ?」

とグラントが尋ねると。

「いくつかやり残しを終わらせるだけだ」

と言ってレンドはその場を後にした。

領主の館にたどり着くとレンドは固く閉ざされた門をリコをかかえて軽々と飛び越えた。

領主の館からは召使いが前より何人か減っており、あれほど豪華絢爛だったはずの内装も襲撃のせいかボロボロになっていた。

門があるせいか、扉にカギはかかっていなかったのでレンドはそのまま領主がいる部屋へと向かった。

気づいた召使い達が驚いて止めたが、レンドはそれを無視して領主の部屋の扉を開けた。

領主は驚いてレンドを見つめた。心なしか戦いのときにあった時より領主はかなりやつれていた。

「なんだ、あんたか…。もう金は払ったじゃないか…。何のようだ」

レンドは言った。

「今回の獣狩りはグラント抜きにはなし得なかった。だから彼らに懸賞金を支払ってもらう」

領主はあからさまに嫌そうな顔をした。

「なぜワシらがそんなもの払わなくちゃいかん」

だがレンドはつづける。

「これも契約の時に説明したはずです。契約書のことをお忘れですか?」

領主首を振った。

「確かにあんたはあの獣を倒してくれた…だがグラントはあの龍を倒せというワシの命令に従わなかった。そのせいでサルドが死んだんだ。そんな奴にワシは金は払わん」

レンドはため息をついた。

「レイスの契約印で契約したことをお忘れですか?」

領主は一瞬恐れたような表情を浮かべたが、ふんと首をふった。

--あんなもん噂にすぎんだろう…。こんな状況の時に懸賞金なんて払ってられるか。

レンドはそれを見ると、

「従わないということでしたら、契約不履行ですね」

そういうとレンドはレイスの印を取り出した。

そして印に何やら呪文を命じた。

すると、領主の体に異変が現れた。

「ぎゃあ!!熱い!」

リコが驚いて見ると領主は背中を抑えていた。

彼はすぐ服を脱ぐと部屋の大きな鏡で自分の背中をみる。

すると領主の背中に刺青が徐々に浮かび上がろうとしているのが見て取れた。

それはまるでレイスの印の模様が焼き付くようで、真っ赤の入れ墨が灼熱の色に染まりながら領主の背中に現れようとしていた。

レンドは告げる。

「今ならまだ間に合います。その印が全て現れてしまえば貴方は呪いから逃げられない」

領主はあまりの痛みにのたうち周りすぐ降参した。

「払う。払うからやめさせてくれ!」

そう言ってすぐ召使いたちに金を持って来させるとレンドにそれを与えた。

すると、領主の背中から痛みが消えた。

見ると背中の刺青は消えていた。

「冷静なご判断感謝します」

そういうとレンドはその金を持って領主の部屋を後にした。

リコが興味深そうに契約印を見ていたのに気づくと。

「あれはもし破った場合どうなるかを事前に体験できる呪文だ。実際に領主が破ればあの程度じゃすまなかった」

とレンドは告げた。

二人は診療所に戻るとグラントに金を渡した。

「これは契約の金だ」

グラントはそれを受け取るとレイルに手渡して中身を確認させた。

「確かに受け取った」

グラントはレンドの部屋を去る前に一つ質問をした。

「聞いていいか…どうしてあの時ベルグールに情報を流した」

グラントはベルグールに誰が2回目の獣狩りの詳細を教えたのかずっと気になっていたが、

バルガスが後で知って恨まれると困るという理由でグラントに打ち明けていた。

あの情報はレンドによってバルガスからベルグールにもたらされたというのが事の真相だった。グラントはレンドがなぜそうしたのかが気になっていた。

「単純な話だ。あの段階でお前達に死なれると獣を狩れない可能性が高かった。

それならベルグール達に犠牲になってもらったほうがまだよかっただけのことだ」

グラントは尋ねる。

「なぜだ…。帝国の方が戦力が豊富なのに」

レンドが答える。

「奴らは確かに戦力は豊富だが、連携という点ではお前らに比べると劣る。それに奴らには獣を倒す以外にもその出自を隠すという目的があった。目的が分散している人間と組むと狩りの成功率は下がるからな」

グラントはなんとなく言わんとしていることがわかった。

レンドがグラントに声を掛けたタイミングもグラントが懸賞金に目が眩んだ状態から普通の感覚に戻り、獣を倒す事に集中できる冷静な状態に戻った時だったからだ。

グラントは納得して、苦笑しながら

「つくづく生意気な野郎だ」

と言い残してレイルを連れてその場を後にした。

レンドはその後リコを連れてオレガノの家へと向かった。


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