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超獣戯画Ⅰ  作者: m-u-t-o-i


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第七十二話 お告げ

「全くピーチクパーチクうるさいな。3人くらい消えたからって何だと言うんだ。」

カルケルが尋ねる。

「じゃあ、認めるのか?」

領主はふんと鼻を鳴らす。

「お前らはワシがどれだけ苦労してこの地区を大きくしてきたと思っている。それに移住者が誰のおかげで路頭に迷わずに街の住人として生活できていると思っておるんだ。全てワシが血眼になって他の地区や帝国と交渉して築き上げたものだ。感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いはない」

あまりの開き直りにカルケルは呆れ返る。クレアは追いつめられた時の態度が親子そっくりだと思った。

サルドが冷静さを失っている父を嗜める。

「父さん!それ以上は…」

だが領主は止まらなかった。

「うるさい!こんな奴らが何を言ったところで誰も信じやせん、それに消えておるのは大半が移住者じゃ。バレても街の民からのワシへの信頼は消えんのだよ」

領主はそう言うと高笑いした。だが次のカルケルの言葉は領主を凍りつかせた。

「確かにそうかもしれん。だがお告げの誤魔化しはいくら領主といえど、許されないんじゃないか?」

カルケルのこの言葉に領主の顔色が変わった。

「少しおかしいとは思っていたんだ。お告げによって選ばれる人はあまり共通点がないはずなのに、最近の2回は移住者だった」

もっともこれをカルケルに教えたのはレンドだった。レンドはこの戦いのもっと前、酒屋でリクソスの伝承についてリコに尋ねたときに、実際に街に広まっている伝承と、リクソスに古来からあるお告げの背景に矛盾があることに気づいていた。

カルケルは続ける。

「ワシらはこの街に来てからずっと、リクソスの儀式は純粋な霊を森に捧げて、自然への祈りと感謝を示すと聞かされた。だが本当の言い伝えは、そうではなかった。あれはリクソスの街の繁栄を脅かすものを巫女が占いによって見定めて、森にその魂を浄化してもらうと言うのが本来の言い伝えだそうだ」

領主が反応する。

「それがどうした?」

「だとしたら尚更おかしい、どうして繁栄を妨げる者が後から来た移住者からばかり出るんだ」

領主は鼻で笑った。

「そりゃ移住者にそういう人間が多いということだろう」

カルケルは首を振った。

「仮にそうだとしても、最近選ばれたレイちゃんのような子供が選ばれるなんておかしい」

領主は答えに詰まる。カルケルは畳みかけた。

「それに、移住者が生贄になることが増え始めたのはサルド君君がお告げの運営の仕切りをやるようになってからだそうじゃないか」

サルドは思わず目を逸らす。

「巫女の家系の周辺をいろいろ聞いて周ったんだ。奴らはなかなか口が固かったが、

サルドさんが運営に回ってから、新しい巫女は一度も家に戻っていないそうだ。普通は何度かその巫女の本家に戻るそうだがな」

これも実際はレンドからの情報だった。サルドがお告げの運営に加わってからというもの、巫女の姿を巫女の館の外で見かけた人間はいなかったのである。

カルケルはレンドに領主が白を切るようならこの情報でとどめを刺すように事前に言われていた。領主はカルケルに先を言わせずに周りの男達に命令した。

「こいつを捕らえろ。でまかせで息子を愚弄するとはもう我慢ならん!」

カルケルはその場で男達にはがいじめにされた。クレアは思わずサルドを見た。

「本当なの?それ」

サルドは目を逸らして答えない。

「そんなのいずれ街の皆にバレてしまうわよ?そしたら取り返しがつかない…」

「うるさい!」

サルドは突然激昂した。クレアも驚いた。

「お前に何がわかる。曲がりなりにもここの地区を背負っていくつもりだったのにそれを突然奪われることがどれだけつらいか」

これでクレアはお告げによって選ばれていたのはサルド本人であることがわかった。 

領主が舌打ちをする。

すべては5年前にさかのぼる。サルドにとってあれは悪夢だった。

ちょうど運営として初めて巫女のいる館に行った時のことである。

サルドはその年初めて儀式の運営を任される立場となっていた。リクソスは地区の中でも中心地であり、いずれ領主になる人間は巫女とも適切な連携を築き上げるためにお告げの仕切りをするというのが代々の習わしだったのである。

巫女のいる館は街の中心にある巫女の本家ではなく、お告げを実施するために隔離された場所にあった。そこも街のはずれでイパルの祠が祭られている場所とはちょうど正反対の位置にあった。中に入ると彼はまず、世話役に奥の座敷に通されて、そこで巫女に会った。

彼女は長い黒髪をしていて、座ると髪が地面に届くほどだった。

9つになる歳であることをサルドは聞かされていて、その年に違わず顔の印象は幼かったがその表情は凛としていて有無を言わさない威圧感のようなものがあった。

「お加減の方は問題ないですか?」

とサルドが尋ねると、

「大丈夫です。ありがとう」

という声が帰ってきた。

サルドは儀式が始まるまで隣の部屋で待機をしていた。

儀式は巫女が未来を予知した後に、巫女の判断で街のために最も生贄に捧げるべき人間を紙に書き、それを運営であるサルドに手渡すことで完了する。

サルドがしばらく待っていると、再度巫女のいる部屋に通された。

巫女は先程とは少し違う、何故か戸惑うような表情を浮かべていて、恐る恐る、サルドにそれを手渡した。

サルドはその表情が気になったが、紙を受け取ると、そこに書かれている文字をみた。

そこにははっきりと『サルドー・バルディン』と自分の名前が書かれていた。

驚いてサルドは巫女の顔を何度も見た。

だが巫女は神妙に頷くだけで結果を否定してはくれなかった。

そこからどうやって家に辿り着いたか、サルドはあまり覚えていない。

あまりの顔色の悪さに召使いが心配して、父に報告し、サルドの寝室に領主がやってきた。

「どうしたというんだ。今日はお告げの運営の日じゃなかったか?」

サルドは自暴自棄になり経緯を父に話した。

領主は少し驚いた表情をしながら考え込んでこういった

「明日はワシもついて行こう、彼女に少し話を聞きたい」

そして次の日、領主とサルドは巫女の館を訪ねた。

領主はサルド以外に何人か付き人を連れており彼らを外で待たせた。

巫女の館には巫女以外には世話人が1人いるだけで、後は外に護衛が2人立っていた。

領主はお付きの男に外で待つように告げると、サルドと共に中に入った。

世話人に呼ばれて巫女の部屋に入ると、巫女は難しい表情をしていた。

領主が巫女に語りかける。

「これはこれはアルマさん、今日は息子がこの前もらったお告げについて少し話したくてね」

巫女の本来の名はもっと長い名称だったが、呼び名はアルマといった。彼女はゆっくりと尋ね返す。

「何がお聞きになりたいのですか?」

領主は続ける。

「何故、息子なのです?彼はこの先ワシの跡を継いでこの地区を背負っていく人間だ。こんなところで死ぬとはあってはならない。」

領主は語気を強める。

「そうおっしゃる事は分かっていました。しかし私はお告げを変えることは許されません」

領主は立ち上がって怒鳴る。

「だから!理由を言えと言っているんだ!なぜ息子なのだ」

巫女はゆっくりと告げる。

「世襲による権力の譲渡は必ずしも悪いことではありませんが、悪くなる可能性が高い。

サルドさんは残念なことに、貴方の権力を欲する心を受け継いでしまった。それが結果として災いをこの地に招き入れる…と。お告げではそう見えました」

領主はあまりの怒りに、その場にペタンと座り込んだ。

「この…いわせておけば…権力を欲する心だと?」

彼女はさらに告げた。

「貴方が、サルドさん以外の方に領主を受け継ぐのであれば、生贄の対象は代わります」

領主は口をつぐんだ。巫女ははっきりと領主を見据える。

「貴方はそれを言われても、瞬時に息子の命を選べない。貴方が重きを置いているのは息子ではなく、自分の権力を受け継ぐ血なのです」

領主は立ち上がって、一瞬後ろを向くと、巫女におそいかかった。そしてサルドに

「そいつの口を塞げ!」

と命令した。

サルドは大声を出そうとする世話人の口を塞いで押さえ込んだ。

領主は短剣を持っていて、それを押さえつけた巫女の首に突きつけていた。

「大人しくいうことを聞いてもらおうか、でないと世話役も、あんたの命も無くなってしまう」

世話役もサルドに取り押さえられて口を塞がれていた。 

彼女は諦めたような表情をして頷いた。

「わかりました、だからどうかメルマを殺さないでください」

領主は満足そうな顔をして頷いた。

サルドが出がけに見てみると、2人の護衛はいなくなっており、お付きの2人が新たな護衛としてそこに立っていた。

その日からサルドはお告げに関する情報を頑なに統制するようになっていった。

巫女の館にはなるべく近づけさせず、巫女を元の家にも戻さなかった。

そして領主の命でこっそりとお告げの背景を時間をかけて書き換えていったのである。

元々、お告げの出自が街の人々の間でも諸説あったこともあり、3年も経つと街の多くの人間が新しい説である『清らかな魂を生贄にささげる』という方が真実だと信じ始めていた。

特に移住者は元々街に来てから日も浅かったので、むしろその説の方が定着した。

お告げが出されるタイミングはそのあともう一度あったが、サルドは領主がこの子にしろと言われるがままにピントの妹レイを対象とした。

だからピントが儀式について嗅ぎまわっていると聞いた時には気が気ではなかった。

そして今、色々な苦しみの原因の一つである龍を目の前にしてサルドの感情は爆発したのだった


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