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超獣戯画Ⅰ  作者: m-u-t-o-i


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第七十一話 民

戦いの始まるほんの数時間前、クレアが囚われている牢屋に召使いの女が食事を運びに来ていた。クレアは最後の力を振り絞って願う。

「お願い…私をここから出して」

「それはできないわ…領主様に叱られるもの」

泣きながらクレアは助けを乞うた。

「お願い、あの人にもう一度だけ会いたいの…せめて死ぬ前に」

召使いはそれを振り切ってクレアのいる地下室を後にした。

クレアはその場で崩れ落ちて泣いた。だが、その数分後召使いが鍵を持って出てきた。

「時間がないわ。早くして!」

クレアは驚いたが瞬時に立ち上がると、何度も礼を言って、鍵を開けて牢屋から一目散で飛び出していった。そしてようやく彼女はここに到着したのだ。

民の1人がクレアに気づく。

「おおクレアちゃん。遅かったねえ。ちょうど終わったところだよ」

「終わったって?」

「銀の爪はやっぱりすごいや、倒しちゃったもんあの獣を」

クレアはそれを聴いて丘の向こうを見ると倒れた龍とエルがいることに気づいた。

そして一目散で駆け出してき、歩いて戦いの場所へ向かう領主達を追い越した。

領主は一瞬なんだ?という表情を浮かべたが、サルドがクレアであることに気づき、

すぐに彼女の後を追いかけた。

クレアは龍を取り囲むグラント達をかき分けると、龍に近寄った。

龍はまだなんとか生きているようだったが、ダメージが大きいようであまり動けていなかった。クレアはなぜか一眼見てこれがリクードであることに気づいた。

「リクード、あんた、リクードね…」

そして何も言わず龍をただ抱きしめた。そこに領主達が現れた。

「なんだまだ生きておるじゃないか、ほれお前たち何をしておる。クレアさんをどかしてこいつを殺さんかい」

だがグラント達はその指示には従おうとしなかった。

「なんだお前達。全く…報奨金がいらんのか。ほらグラントとやら何をしておる早く止めを」

クレアが龍を庇う。

「この人を殺すなら私もここで死ぬわ」

「馬鹿なことを言わないでクレアさん。ほらそこをどきなさい。」

サルドがクレアをどかそうとするがクレアは離れない。

「いや!離して!」

そして弾みでクレアがサルドを突き飛ばしてしまう。

サルドは驚いたがすぐさま立ち上がり、クレアの顔に平手打ちを浴びせた。

「おい…」

グラントが止めようとするが、サルドは怒りで我を忘れていた。

「なんで言うことを聞かないんだ!大人になれ!とあれほど…」

クレアも怒っていた。そしてサルドの取り巻きの移住者に向けて言い放つ。

「あんたたち、自分が何をしたかわかってるの?そこの男はリクードとかベルさんをこの龍に変えた張本人なのよ!」

これを聴いた領主は一瞬顔色を変えてチラッとサルドを見たが、途端大笑いした。

「こりゃまた傑作じゃないか…私たちがこの化け物を?何をどうしたらそんな話になるんだか、全くこの子は面白いねぇサルド」

そう言われて周りの男共も愛想笑いをした。

「第一そんなもん証拠がないじゃないか」

「あるわよ!手記があるんだから、あんた達がリクードをあそこに閉じ込めていたっていうね」

領主は一瞬嫌な顔をしたが、笑い出した。

「こりゃ尚更傑作だ。あそこには精神を病んだ大人をおとなしくさせておくための地下室があったのにそこの手記をみてほんとの話と勘違いするとは」

領主達は大笑いしていたが、その後ろから声がした。

「クレアちゃんの言ってることは本当だよ」

領主たちが驚いて声のした方向を見るとカルケルが彼らの後ろに立っていた。

領主は驚くが気を取り直してカルケルの言葉を聞き返す。

「おや、カルケルさん。なんだい本当って?君もこの娘の与太話を信じるのかい?」

カルケルはいつものお調子者口調ではなかった。

「与太話じゃない。あんたは自分の私服を肥すために俺たちを帝国に売ったんだ。その1番の犠牲になったのがこの子達だ」

そう言ってカルケルは龍を指さした。領主は呆れた顔をする。

「全く、一体どうしたと言うんだか、何を根拠にそんなことを言っているのか…」

だがサルドは険しい表情をしていた。カルケルは反応する。

「証拠ならある。ブレストさんに直接聞いたんだ。あんたがうちのメイを帝国に売ったってなぁ」

これに領主はピクッと反応した。

「何を言い出すかと思えば、あんなロクでもない医者の戯言を信じるのかい?」

カルケルは続ける。

「あの人は白状した、メイを売れば一時的に薬の売り上げを優先的にするとあんたと約束したとね、その証拠にブレストさんの薬の品揃えは街のどの医者よりもいい、デルムタさんよりもだ。それも全部あんたとメイが病でブレストさんのところに泊まった。3年前を過ぎてからだ!」

カルケルは街の噂にも詳しかった。

ブレストさんが色んな薬を処方して街で少し評判になっていたのは、カルケルも知っていた。

領主は少し、不快な顔をした。

--ブレストめ、まさか本当にこいつらに真実を言ったのか…?

だが領主はカルケルの言ったことを認めずに反論した。

「全く、誰に吹き込まれたか知らないが…カルケルさんもおかしくなってしまうとはねえ

たかだか薬を仕入れさせたくらいでそんな話になるとは」

「まだ認めないのか?」

「認めるも何も、やってないんだからなぁ、直接的な証拠なんてあるはずがない。全部そのブレストとか言う医師の妄想だよ」

「手記があるわ」

クレアが服の中から、持ってきていた手記を出した。

「ここにはっきりと、サルドさんにここに連れてこられたとあるわ。それに小さい女の子もいたって記述もあるわ。なにより、ベルさんの詩もある。なんでこんなものがあなたの家の地下室にあるの?」

領主はサルドを睨みつけた。まさかクレアが手記の本物をこの場に持っているとは思わなかったのである。

――あれほど処分しておけと言ったのに。

だが領袖はなおも平静をくずさない。今度はクレアに疑いの目を向ける。

「それも君が作ったのだろう?」

クレアは呆れたように反論する。

「見てもらえればベルさんの字だってわかるはずよ。ベルさんはあなたの家に呼ばれて以来酒場にも街にも現れてない。リクードもそう。何もしてないって言うんだったら皆んなをかえして!」

領主はあまりにも反論してくるクレア達に遂にイライラの頂点に達した。


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