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超獣戯画Ⅰ  作者: m-u-t-o-i


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第六十話 積みあがる真実

レンドの言葉に周りの皆が驚いた。

中でも一番驚いたのがピントだった。

「それってどういう…」

レンドはピントを見て改めて答える。

「お前が言っていたその龍の獣は人間を使って作られた獣の可能性が高い」

グラントが口を挟む。

「どういうことだ。そもそも伝承型は作られた獣だってのか?」

レンドは一通り伝承型の構成やなぜそう考えられているかについて説明する。

グラントとレイルは伝承型の構成は初めて聞いたようで信じられないような表情をしていた。

レンドは続ける

「そもそも、伝承や言い伝えは人間が作り出したものだ。それに似たような獣が出てくること自体がおかしい」

グラントはなおも反論する。

「仮にそれが本当だとして、なんで奴が人間から作られたと?」

レンドは過去を順番に振り返りだす。

「オレガノが初めて祠に頼みごとをしたのが2年前の春になる。それ以降、オレガノは街の移住者に祠に願い事をしたことがあるか聞いたそうだ。だがオレガノより前に願い事をした人はいても雷の恩恵にあずかった人間はいなかった」

ピントはそれについてはオレガノから聞いてうっすらと把握していた。

「となるとおよそ3年ほど前があの獣が生まれた時間になる」

ピントがつぶやく。

「3年前…」

レンドはうなずく。

「3年前に関する会話…酒屋の常連達が言っていたところで興味深かったのが、3年前には何人かの人間が不可解にいなくなっている」

グラントが反応する。

「酒屋の会話だと?そんなもんを頼りにしてんのか?」

レンドは苦笑する。

「無理もない反応だが、お前とは情報の集め方がちがう。少なくとも5~6人以上の人間がいなくなっている。そしてそのほとんどの人間が領主の館に行くもしくは領主の館の近くで目撃されて以来の消息がつかめないことが多い」

リコはこれにたどり着くまでにレンドはどのくらいの会話を聞いたのだろうと少し呆れていた。

レンドの部屋からリコが帰るときにたまに聞こえていたのはいろんな酒場の会話の記録を改めて

聞いていた音ではないかとリコは思った。

グラントはなおも反論する。

「仮にそれがそうだとしても、直接それが証拠にはなりえないだろ。たまたまそうなった可能性もあるし、領主に誘拐されていたにしろ、違う使われ方をしている場合だってある」

グラントの主張は筋が通っていたが、レンドは準備していたかのようにスラスラと返す。

「ここからは積み上げていく必要があるが、まず領主と帝国は何らかの取引でつながっている。ここまでは正しいな?」

ピントはうなずく。がそれはグラントにしか言っていなかった会話のはずでなぜレンドがしっているのか一瞬わからなかった。

だがここの会話もすべて聞かれていたとすると何となく納得がいった。

「そして、今回の獣…かなりの強さだが、帝国は始めからかなり隠密裏に処理をしようとしていた。懸賞金をかけずに帝国の3番隊を出しているからな。なりふり構わず倒すべきなら、1番隊を使うはずだ。担当地区も奴らの方が近い」

これには帝国の兵士に詳しいグラントがうなずいた。しかしそれについてもグラントは反論する。

「だがそれは単純に帝国と領主の取引をあの獣が邪魔しているからじゃないのか」

レンドはこれには首を振る。

「それは1番隊を起用したところでバレる話じゃない、おそらく帝国はあの獣の正体をしっている。1番隊が奴と戦うと人を集めすぎるからな。帝国の奴らは獣が死んだときの死骸を見られて

、人間である名残があるのを気づかれるのを恐れている」

帝国の1番隊の活躍は目覚ましい、また隊長の剣技は見るものを魅了するため、獣との闘いにおいて街の人が離れた場所から見物に来ることも多かった。

これは筋が通っていたがグラントにはまだ解せない点があった。

「ならなぜ俺たちに任せる」

「帝国が獣の作成に一枚嚙んでいるなんて察することのできる集団は獣狩りの中にはいない。本音はできることなら自分たちで処理したいが、獣が強く秘密裏に処理できないのならば他の獣狩りに任せるという考えなのだろうな。その証拠に街の人々にはあまり森に近づくなというお触れをしっかりと出している。少数の獣狩りに見られるより、大人数にあの獣の成り立ちを知られたくないんだろう」

グラントは考え込んだ。

――こいつの考えは一理あるが、多少飛躍している感じも否めない。

その反応を見てレンドは続ける。

「まあ最も大きい証拠は願いだ」

「願い?」

「オレガノやピントは皆、祠に願いをかけてそれを聞いた龍はそれに従っている。だとすると奴らは人間の言葉を理解していることになる」

グラントはこれには反論できなかった。

ピントも自分が龍と対峙したときに自分の言葉や製作者の言葉を理解したような動作をしていたことをよく覚えていた。レイルだけが何とか、

「白の能力じゃねえのか」

と返したが

「攻撃や生き延びるための能力を獣が持つことはあるが、人語を理解したという例は聞かない

可能性はもちろんゼロではないがな。それにそうだとすると、能力が多すぎる」

とレンドに返されていた。

「仮に奴が人間をベースにするとなると、多様な能力があることも理解はできる。実はいくつか銀の爪は人間をベースにしている可能性がある獣と戦ったことがある。その時、その獣は通常の伝承型より、能力が豊富だったらしい」

リコは初めて聞いた情報だったので少しうれしかった。

「すべての情報が奴が人間を元にしている。ということを示しているのか…」

グラントはため息をついた。

――厄介な案件だとは思っていたがここまでとは、そしてそれをすべて一人で考え検証していたというのか…

グラントはレンドの調査能力の高さに恐れ入っていた。

――さすがは銀の爪というところなんだろうな。

グラントはもう反論はせず話を次の段階に移すことに決めた。

「それで?具体的にはどうやって倒す?」

レンドはうなずいて作戦について話し出す。


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