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超獣戯画Ⅰ  作者: m-u-t-o-i
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第六話 伝承型と拡大型

「いまのは?!」

レンドは興味深そうにつぶやく。

「面白いな、攻撃を受け続けてたのはフェイクか。」

「どういうこと?」

「稲妻がとばされたのはあの瘴気の範囲内だけだ。そして瘴気は攻撃を受けるたびにそれに比例してどんどん増殖してた。ってことは」

「わざと攻撃を受け続けてたってこと?瘴気をたくさん出すために。」

「それに前衛も近接武器に変えたことであいつの間合いに入らされてる。奴はどうやらかなり戦いなれてるらしい、問題はこれをみてグラント達がどう動くかだな。」

前衛を倒されたグラント達の隊は統率が乱れていたが、グラントが立ち上がり

「鶴翼の陣をとれ!!」

と指示を出すと隊は一斉に後方に下がってまた獣を取り囲んだ。

「瘴気より間合いを詰めるな!!ボウガンでいためつけろ!!」

リコはグラントの素早い指示に感心していた。

グラントは獣の反撃をある程度予想していたのか、全く動じておらず、細かく陣形に指示を出して攻撃をつづけていた。

獣は黒い稲妻を出した後はまたあまりうごかなくなり、隊の攻撃を受け続けている。

「すごいねグラント全然驚いてないよ?」

レンドは渋い顔をしたまま。

「拡大型ならあのままでも倒せるかもな。」

「拡大型…」

「記録師ならそれくらいは知っているだろ。」

言われてリコは、初めて害獣の記録を見た時のことを思い出す。

記録師の長に銀の爪の記録を取るならと閲覧を許可された時のことだ。

記録にはこうあった。

【害獣は普通の動物に比べると獰猛で運動能力も高く、死にづらい。

 しかし一般の動物と害獣を区別する点は一つしかない、それは瘴気の有無である。

 害獣は皆特有の瘴気を宿しており、それらを攻撃に利用する場合もある。】

それらの特徴は今リコたちが相対している黒い獣にも一致する。

そして、次に記されていたのが害獣の中の種類である。

【害獣には大きく分けて二つ種類がある。一つが拡大型と呼ばれるもの、

 拡大型は一般的に普通の動物が瘴気の影響で変貌した姿だといわれていて、

 その特徴も元の動物の大部分を有している。】

「奴の狙いはどうやらカウンターだ。効いてる素振りも全部倒せそうなことを装って攻撃を誘ってる。だがあの戦い方にはリスクがある。」

「攻撃をうけなきゃいけないこと?」

「そうだ。問題は奴はなぜその戦い方ができるかってところにある。」

「どういうこと?」

「奴自体にいくら攻撃しても、死なないとすれば話はとおる。あいつはおそらくただ攻撃を受けるための器に過ぎない。」

「器?」

「活動体っていわれるがな、普通は。」

リコはもう一つの記録を思い出す。

【害獣のもう一つの種類、それは伝承型と一般的に言われる。

 拡大型とは出現時期が異なり、害獣のより進化した姿としてとらえられることもある。

 これらの獣の特徴の一つは拡大型と異なり、現存している生物ではなく、各地域にある

 伝承や言い伝えにのみ登場する生物に近い姿形をしているということだ。

 そしてもう一つの大きな特徴が…】

レンドがリコの記憶の先を紡ぐようにしゃべる。

「伝承型は作りが特殊だ。だがその大きな特徴は心臓部が別にあるってことだ。」

「別?」

「奴らの活動体は多くの場合、各地域の伝承になぞらえられている。だがそこは本体じゃない。全く別の心臓部が安全な場所に隠されている。」

「レンドはあの獣が、伝承型だと思っているの?。」

レンドはその質問には答えなかった。

一方、グラントは自信満々の笑みを崩してはいなかった。

隊の全体を遠距離攻撃に絞って指揮する。

「ボウガンだ。やつの目をねらえ!」

リコはレンドにきいてみる。

「もしあの獣が伝承型だったら、グラントのあの攻撃は全く意味ないの?」

「全くってわけじゃない。伝承型にしろ、活動体に攻撃を与える必要はある。」

「なんで?」

「ここまでは確かに記録になさそうだな。心臓部が反応するんだ。活動体も一応肉体だからな。ダメージが大きければ、心臓部は何らかの反応を示す。」

「どんな反応?」

「そこは獣によって異なる。だが心臓部がうまく隠されていたり、反応がわかりづらいものだったら、その痕跡を追うのはひどくむつかしい。」

「じゃあ、グラントのやり方も間違っていないんじゃない?ああすればどっちかがわかるかもしれないじゃない。」

レンドは首を振る。

「奴のやり方は、おそらく拡大型だと確信を持ったやり方だ。もし伝承型の可能性を考えるならある程度の人数を攻撃の間に心臓探しに割かないといけない。」

レンドの言い方が気になり、リコは尋ねてみる。

「あなたならどうするの?」

レンドは戦闘が始まってから別段何かしている様子はなかった。時折獣をみながら、メモのようなものを取っていた。

「相手の正体がわからない時は、仮説をたててそれを一つ一つたしかめていくしかない。」

リコは首をかしげてつぶやく。

「仮説…。」

レンドはリコに聞く。

「あれがもし、拡大型だとすれば、現存する動物の機能をベースにしていることになる。

奴は何本足だ?」

「6かな?」

「6本足の動物は、昆虫に多い特徴だ。だがあの歩き方はどの昆虫のそれとも一致しない。」

リコは少し考えて返す。

「4本足の動物の足がふえて、6になったっていう可能性はないの?目だって3つもあるんだし」

「そうだな。だがそう考えると、リズムがおかしい。」

「リズム?」

「あの獣の歩き方は前足がまず最初に出て、その後、一番後ろ足がでている。真ん中の2本の足はそれとは別のリズムで動いている。」

「どういうこと?」

「あの真ん中の足だけ、ほかの足とは別の機能で動いているかもしれないということだ。」

「それがなんで拡大型じゃない証拠になるの?」

「拡大型で機能が追加されている場合はその機能は元の機能のコピーになるんだ。全く別の機能が新たに追加されることは基本的にはあり得ない。」

リコは少し納得したが、それでもまだモヤモヤとした疑問はのこっていた。

レンドはそれをみて言った。

「もちろん、ここまでは仮説だ。こっからはそれを検証していく。」


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