表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超獣戯画Ⅰ  作者: m-u-t-o-i


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/80

第五十七話 取り引き

「一つ提案してもいいか?帝国の兵士さん」

男は目先の集中をエルから離さず答える。

「なんだ」

男はうなずく。

「さすがに手負いとはいえその獣を一人で相手しては君は死ぬだろう。だが私の言うことをすべて聞いてくれるのであれば、ここから生かして返すと誓おう」

あからさまに怪しげな提案だったが、男に断る選択肢はなかった。

仲間だった他の3人は死んでいるか意識を失っている状態だったからである。

「わかった。なんでもいうことを聞くから逃がしてくれ」

言われると男はピントに向かって、

「君、彼の飼い主だろう。やめるよう言ってもらえるかな?」

と問いかけた。ピントがそれに従うか迷っていると、

「悪いようにはしない。これを聞いてくれれば君の望みも聞こう」

と続けざまに言った。

ピントにもまた、従うしか余地はなかった。

エルもけがをしているので、どのみち目の前の男と戦い続けるのが得策には思えなかったし

何より黒ずくめ男の得体が知れないという恐怖もあり、逆らいたくなかった。

「エル、落ち着け。頼む」

だがエルは興奮していてなかなか落ち着かず、今にも男に襲い掛かろうとしていた。

「エル!!」

ピントに大声で言われ、エルははっとピントをみて、そしてすねるようにクウンとなくと男から目を離した。

「ありがとう」

と黒マントの男は言った。

「さて帝国の兵士さん。君には一つやってもらいたいことがある」

帝国の兵士は慎重に返事をする。

「なんだ願いって」

黒マントの男は満足したような顔をして続ける。

「君は、帝国の上司にこう報告してくれ。手順通り、女の子を生贄にするつもりだったが急に黒い犬に襲われた。とね」

男は用心深く尋ねる。

「言わなかったら?」

男はマントの下から契約印と紙を取り出す。

「ちょうどここにレイスの契約印がある。変わりの条件に私はここで君の命を助けると誓おう」

ピントは倒れている男への憎しみがふつふつと湧き出してきていたので、納得いかないような表情を浮かべるが、それに気づいた黒ずくめの男に話しかけられる。

「こうしないと君とその犬は助からない。帝国は強大だ。今は私の言うことを聞いてほしい」

とたしなめた。

ピントはしぶしぶ納得したがエルは今にも男にとびかかりそうだった。

男はレイスの契約印を押すと黒マントの男に紙を返した。

「きっかり二日後に帝国に報告してくれ。よろしく頼むね」

と黒ずくめの男は言って、男を馬に乗せて見送った。

見送る間中エルは男に吠え続けていた。

大柄な男は血を流しすぎたのか意識を失ってそのまま絶命していた。

その様子を一通り確認すると

黒ずくめの男はピントに向き直って名乗り始めた。

「いきなり邪魔をしてすまなかったね。私はリマという、よろしく」

ピントは疑問をぶつける。

「あんた何者なんだ?それにそっちの子は」

リマは子供を見つめると

「彼はルブー、言葉は話せないから名乗るのはご容赦願いたい」

子供がピントにお辞儀する。リマは続ける。

「私たちが何者なのかという問いの答えは少し長くなる。なので今は答えられない」

リマはエルを見つめながら答える。

「何?それってどういう」

だがピントの問いに答える前にエルが突然その場で倒れこんでしまった。

「エル!、エル!」

リマも近づいてその様子を確認する。

「やはり、覚醒の前の傷は治りきらないんだな。憎しみで痛みをごまかしていたが、集中の糸が切れたんだろう」

ピントは必至にエルを何とかしようとするがエルの体からは黒い瘴気があふれ始めていた。

「あんた、だれだか知らないけど、エルを助けてくれないか。妹が可愛がっていた犬なんだ」

だがリマはすぐその願いには答えずにエルから少し離れた。

「覚醒の前のダメージを直すのは難しい。拡大型だしな。瘴気を確保できれば別だが・・・」

そういうとリマはあたりを見渡しだした。

「どうしたんだ?」

とピントが尋ねる。

「おそらく…まあやはりこれしかないだろうな。助かる方法は」

とリマはつぶやいて突然大声を出した。

「もう出てきてくれないか?敵はいなくなった。私は君のことは絶対に他言はしない。

ただここにいる少年の犬を助けたいんだ。それには君が必要なんだ」

リマは遠くの木に向かって話しかけているようだった。

すると一本の木の後ろから、ゆっくりと白い龍が姿を現した。

ピントはびっくりした。

「なんだあれ」

リマは呆れたように言う

「あれとはひどいな、君を死から救ったのは他でもない彼なのに。」

そういうとピントたちの所まで来た龍にリマは話しかけた。

「私に君を攻撃する意思はない」

そう言われると龍はゆっくりとうなずいた。

そしてピントとエルの所に近づくとエルを見下ろした。

龍などピントは初めて見たが、なぜかピントには龍が悲しい表情をしているように思えた。

「さて少年、この龍がいれば、君の犬は助けられるかもしれない。」

ピントは答える。

「じゃあ今すぐそうしてくれ」

リマは少し真剣なまなざしになる。

「だが、もしそうすれば、ことはおそらく大事にそしてもっと複雑になる。君や君の家族、そしてあの街にも悪い影響を及ぼすかもしれない。それでも君はこの犬を助けたいか?」

ピントは少し迷ったが、レイの顔が浮かんだ。

「たのむ、こいつは俺と唯一同じ思いをしている奴なんだ。」

リマは興味深そうにうなずいた。

「わかった」

そして龍に向き直る。

「にしてもよくもここまで精巧なものを…およそ3年前のだろうが…その時点でもうこれだけのクオリティに達していたのか」

リマの目は感銘を受けたようなどこか切ない目をしていた。

そして龍に問いかける。

「君もそれでいいかい?今より、いろいろとやりづらくなってしまうだろうが…」

龍はピントとエルを交互に見渡したのちにうなずいた。

そしてピントにリマは最後に向き合った。

「君はとりあえず今は帰りなさい。おそらく帰らないと街の人や君の家族が心配する。

1日後にまたこの場所に来るといい。エル君に合わせてあげよう」

そういわれてピントはその場を離れたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ