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超獣戯画Ⅰ  作者: m-u-t-o-i


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第四十四話 別れの理由

クレアは事情を知っているかもしれないと、なんどもリクードの父の家を訪ねたが、彼は冷たく追い返すだけでクレアの質問に答えようとはしなかったのである。

そして1年がたった。

その間ずっとサルドは酒場に通い続け、クレアに贈り物をし続けていた。

クレアの母は大層喜んでいたし、街の女集はクレアは玉の輿に乗ったと、信じて疑わなかった。

だが当の本人のクレアの頭の中にはまだリクードの面影が残っていた。

どうしても彼女はリクードに会いたかった。

説明もなくいなくなったとはいえ、彼女にとって最愛の相手で会ったことに変わりはなかったからである。

そんな中、酒場の客のうわさでリクードの父がけがをしたという話をしているのをクレアは聞きつけた。

なんでも高所の作業中に落ちたらしく、しばらく動けない程の重症らしかった。

普段一緒に働くカルケルなどもリクードの親父さんがあんなところでケガするなんて、と心配していた。

クレアはその翌日、気になって見舞いの品をいくつか持ってリクードの父カルムの家を訪ねた。

家に着くと、鍵はかかっておらず、カルムが寝ているのが目に入った。

クレアはお邪魔します、というと中に入り、見舞いの品をおいた。

カルムはうなされているのか汗をかいていたので、クレアはそれを家にあった布を取り出してふいてあげた。

その途中でカルムは起きて、クレアに気づいた。

「何しに来た」

クレアは恐る恐る答える。

「怪我をされたと聞いたので、お見舞いにきました」

カルムはいつにもまして冷たく当たる。

「そんな必要はない。帰ってくれ」

クレアはカルムがなぜここまで冷たくするのかがわからなかったので聞いてみることにした。

「どうして私につらく当たるんですか。リクードのことだって一緒に心配してくれるのはカルムさんだけだと思っていたのに」

カルムは少し驚いたような表情をしたが、怒ったように反論した。

「あんたが息子をなんで気にかけるんだ。もう領主の息子に乗り換えたんだろう」

これにはクレアが黙っていられなった。

「なんですって。誰に聞いたか知らないけれど、あんまりだわ。一方的にもう会えないって言いだしたのはリクードのほうよ」

カルムも負けじと応戦する。

「あんたを守るためにあいつは犠牲になったんだ。それなのに、すぐさま領主の息子に乗り換えるなんて」

これにクレアは驚いて、慎重に尋ねる。

「どういうこと?犠牲になった?私を守るって」

カルムはその時の事をクレアに話した

それはちょうど祭りの2日ほど前の夜の事だった。

リクードはカルムに聞いてほしい話があると切り出した。

カルムは普段あまりしゃべらない息子が真剣な表情をしているのを見て何かがあったのか

と心構えをした。

「親父の後を継げなくなった」

とリクードはいった。カルムが理由を尋ねると、

リクードは

「移住者の中で生贄の儀式の対象になった人はまだいない。だがそれをおかしいって言いだした連中がいるらしいんだ」

と告げた。カルムは話の筋が見えず息子に尋ねる。

「それで?」

「サルドさんによるとそいつらは移住者のなかから一人生贄を出してほしいとそういってるらしい」

カルムはいやな予感がしていた。

「ふざけた話だ」

「サルドさんも最初はそんな必要はないと突っぱねていたらしいんだが…ここ最近天候が安定しないだろう?それが移住者のせいだと奴らは言ってきかないらしい」

「で、それとお前と何の関係がある。」

「それで領主は一人、移住者から生贄を出す事を検討しているらしい。それがどうやらクレアになりそうなんだ」

「なりそうっていうのは?」

リクードは意を決した表情をしていた。

「俺がクレアの代わりになろうと思う」

カルムは頭を抱えた。

「お前、何を言っているんだ。第一それはお告げで決まった事だろう?もう覆せないんじゃないのか」

「領主の息子だからな。それにサルドさんはクレアを死なせたくないらしい。だから同じ思いだろうと俺に相談してくれたんだそうだ。」

「そいつが代わりになったらいいじゃないか」

リクードは首を振った。

「それはできないよ。彼らは移住者の生贄をのぞんでるから」

カルムはどうしても納得できなかった。

「なぜおまえが代わりになる必要がある」

「これが最善だよ。クレアも移住者の皆も幸せになる」

「お前が入っていない、その計算に」

カルムの起こった表情を見てリクードは悲しそうに笑った。

「親父はいつも言っているじゃないか。街やほかの人のためになることを常に考えろって」

カルムはリクードの真剣なまなざしに決意の重さを感じると同時に、自分の教えがこんな形で帰ってくるとは思っていなかったので自分を恨んだ。

「それは、お前が街の皆のために犠牲になれという意味じゃない」

「もう決めたんだ。どのみち何もしなければクレアが犠牲になる。俺はそれを見ているだけはできない」

リクードの頑固さは自分によく似ていることをカルムは知っていたが、どうしてもここは引き下がれなかった。

そこから二人はいくつか言い争ったが、もともと議論が得意な二人ではないため、話は平行線のまま、結局カルムはリクードを止められなかった。

そして祭りの日の前日にリクードは家を出て行ってしまったのだった。

そこまでを話すとカルムの目から涙がこぼれおちた。

クレアはようやく何が起きていたのかを何となく把握した。

「それなのにあんたは息子がいなくなるとすぐあいつに乗り換えた。こんなひどい話があるか」

クレアは何とかカルムをなだめながら、今でもリクードを愛していることを告げた。

「私はずっと彼を愛しています。サルドさんが何と言おうと彼と結婚する気はないわ」

クレアの賢明な説得でカルムは何とか納得しクレアはカルムの家を後にした。

だが依然としてリクードがどうなったかについては分からないままだった。

クレアの中ではリクードに何が起こったのかを知るための全てのカギを握っているのはサルドであることに変わりはなかったが、クレアがリクードのことを尋ねても、何も教えてくれることはなかった。

そして、結婚を断り続けること2年、ついに転機が訪れる。


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