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超獣戯画Ⅰ  作者: m-u-t-o-i


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第三十五話 手記2

手記2

ここの生活ももう3か月になるのだろうか…外の時間がわからない。

俺以外の人たちの人となりも以前に比べるとだいぶわかってきた。

一人はよく泣いている女の子、何度か泣き止んでいるときに話してみたが、彼女はまだ6つかそこららしい、俺よりもっと前にここに連れてこられたようで、夜になるとたまに父と母に会えないことを悲しんで泣いている。

俺の左隣の牢にいるのは年を取った男だ。

彼はとらわれる前は根無し草だったようで、自分以外に身内はいないといっていた。

女の子が泣いていると、こっそりと彼が物語を語って彼女を慰める時がたまにあった。

年齢も性別もてんでバラバラの俺達を集めていったい何をしようとしているのか…目的はよくわからないままだった。

そして定期的にあの男に会う、やつは会うたび不敵な笑みをうかべて捕らわれている俺達を興味深そうに見渡す。

そして、『死ぬ前に何をしたい?』と問うのだ。

そして俺達が答えると、手にもっている装置のような物をみる。

そして首を振って帰っていくのだ。

俺は聞かれるたびに考える。

答えは"彼女に会いたい"から変わっていないが、もし仮にそれ以外の選択をするとすれば

俺は何を望むだろうか…と、残してきた仕事を片付けることも考えた。

ここに来る前に建てていた家の完成は目前だったし、いい仕事ができていたと思う。

やり残しがある状態で死ぬのは少し心残りだった。

それから考えたのは同じ移住者のことだ。

移住者はリクソスに連れてこられてから、皆肩身の狭い思いをしていた。

俺は仕事ができればどこでもよかったが、多くの人にとって故郷は忘れられない場所だった。

リクソスが悪い場所なわけではない、自然も多いし、気候にも恵まれている。

街の人も最初はよそ者を警戒していたが、徐々に打ち解けた。

それでも生まれと過ごした記憶の全てが詰まる故郷にもう戻れないということがどこかのしかかってくる。

そんな移住者達に何かしてあげれることがないかをよく親父は考えていた。

親父はあまりしゃべらない人だったが、一緒にいれば考えていることはよくわかった。

過ごした時間が長い分、親父の方が、当然生れ育った街を思う気持ちは強かった。

『自分を含めた大勢のために生きろ』というのが親父の口癖だった。

結局はそれが、一番幸せを実感できるから…と。

昔も今も、親父は街の人のためにできうる精いっぱいの仕事をしていた。

彼の尊敬すべきところは、口数少なくとも、言うこととやることを一致させている事だと

俺は思っていた。

むしろ、そのために人と話すときは慎重に言葉を選んでいるように俺には感じられた。

正直子供のころは親父の生き方は不便そうで、あまり真似はしなかった。

言葉足らずに感じる人は周りにも多かったし、そんな父を真似ていると思われるのは何だか恥ずかしかったからだ。

だがその方が自分の生き方を愛せるようになると知ってからは不思議と自分もそうするようになっていた。

そしてそんな生き方を選んだ自分を彼女は愛してくれた。

この状況になってみて、そんな親父がいつも言っていた言葉が、強く俺の中では響いていた。

だが、どんな選択をすれば皆のためになるのか、いまだにわからない。


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