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超獣戯画Ⅰ  作者: m-u-t-o-i


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第三十二話 張刃

「心臓部が攻撃だと?」

グラントは討伐隊の様子を見ながら、かなり驚いていた。

そしてピントを睨みつける。

「お前、知っていたな…こうなることを」

レイルがピントの首ねをつかむ。

「今度騙したらどうなるか…言ったはずだ」

だがレイルがピントを殴ろうとしたとき。

森に獣の鳴き声が鳴り響いた。

レイル達が驚いてその方向を見ると、討伐隊の後方から黒い獣が姿を現していた。

グラントは右ひざがうずき、その震えを手で止める。

ベルグールは突然現れた獣に完全に気おされていた。

獣はおとなしい状態の獣ではなく、完全にベルグールたちに敵意をむき出しにしていた。

そしてグラント達にしたようにベルグールに牙をむき出しにしてまっすぐ突進してくる。

討伐隊も必死で耐えようとするが、獣の勢いは圧倒的で、ベルグールの前にいた討伐隊の部下は全員なぎ飛ばされた。

そしてついにベルグールの前に獣が立つ。

ベルグールは必至で回避する方法を考えていたが、思いつかず、獣と相対するしかなかった。

獣の牙がベルグールの体を貫く一瞬の間にベルグールは走馬灯をみた。

それは帝国の兵になってちょうど3年目のころだった。

ベルグールは腕っぷしを買われて帝国の1番隊に討伐隊の一員として採用された。

そこに同じく採用されていたのが、ゼウルだった。

ゼウルとは帝国に入った年は同じだったが、ベルグール自身は同じ戦場で戦ったことはなく、ただあまりにも強い兵士が入ったということだけは知っていた。

だがベルグール自身はゼウルの強さをその目で見るまではかなり疑っていた。

ゼウルにまつわる噂は100人を一人で切り倒した、や黒の拡大型3匹を一人で殺したなど、あまりに非現実的な噂が多かったからである。

だが、ベルグールはのちに驚愕することになる。

ちょうど黒の拡大型の依頼を1番隊として討伐している時である。

その獣は虎を元にして害獣に変化した獣だった。

元になる獣の強さに害獣の強さは左右されるため、虎を基にしたその獣のあまりの強さに1番隊のほとんどの兵士は相対したその一瞬で皆殺しにされた。

ベルグールはその時、討伐隊の一員としてその倍に居合わせていたが、その虎のあまりの強さに完全に腰が抜けていた。

獣が持つ純粋な強さを始めて目の当たりにしていたのだ。

しかし虎の持つ爪がベルグールの体を貫こうとしたとき、聞いたことのない鋭い風切り音とともにその爪は虎の体から切り離されていた。

ベルグールは一瞬何が起きたのかよくわからず茫然としていた。

虎も同様に茫然としていたが、痛みで金切り声を挙げる。

そして、獣の爪を切り離した剣の持ち主こそが、ゼウル・ディアルトその人だった。

のちにベルグールはなぜ、そこまで強いのか…と恥を忍んで本人に聞いたことがある。

ゼウルはそんなベルグールを馬鹿にすることなく、だが無感情に

「力の入れどころを知ることだ。」

とそういった。

ベルグールは言われてから、ゼウルの戦い方をよく見るようになった。

そして少しわかったのが、ゼウルは重心の低い独特の構えをするということだった。

そして剣を振るとき、低い重心にためた体重を開放するように一気に体を伸び切らせ、同時に低く構えていた剣を下から上に振りぬくのだ。

そのタイミングを完全に一致させることで、常人には出せない剣速を生み出しているようだった。

そして、剣もベルグールのものとはかなり違っていた。

まずベルグールのような両方に刃がある形ではなく片方のみに刃がある言わゆる片刃刀で、

その刃の切っ先から上の3/1までが以上に細くとがっていた。

ゼウルは決して、そのとがっている剣の先端部分以外を相手に当てない。

剣を振りぬくとき、もっとも早くなるタイミングで正確に先端で切りつけるのだ。

それゆえ、ゼウルの剣はいかに硬いものでもまるで、柔らかい肉のように瞬時に切り離すことができた。

そのゼウルの圧倒的な剣技が獣相手に決まる瞬間をベルグールはその後何度も目にした。

ベルグール自身も彼に追いつくために何度も鍛錬を重ねたが、そのたびに彼との差を痛感するだけだった。

なぜならゼウルの剣技は彼自身の恵まれた骨格と、幾多の修練をへて積み上げた筋肉によって、うみだされており、ベルグールが一朝一夕で追いつけるものではなかったからである。

しかし、ベルグール自身も彼に追いつくための鍛錬のおかげで次第に強くなり、気が付くと3番隊を任されるまでに至った。 

しかし狭まることのない差はいつしかゼウルに対する嫉妬に代わっていた。

さらに同じく隊長であるゼウルとは年も近いことから、よく比べられることも多く猶更それがベルグールの心に影を宿していた。

だがゼウルを超えることをあきらめたベルグールにも一つだけ望みがあった。

それが虎の爪を切り落とした時に見せた彼の剣技(ゼウルはこれを張刃と呼んでいた)を

を一度でいいから成功させることであった。

しかし幾度鍛錬をして、真似をしてみてもゼウルのような風切り音はでなかった

それに戦場で真似をしようとすると、その動きをすることに心がとらわれすぎてしまい、

上手く剣技は決まらなかった。

そして、隊長となった今はベルグール自身も直接獣と剣を交えて戦う頻度自体が減ったため

戦場でそれをすることはもうかなわぬことと割り切り始めていた。

だがベルグールにはどうしても忘れられなかった。

ゼウルの剣技とそして虎を退けた時の無感情の顔を。

そして今、まさに黒い獣の爪に貫かれようとするその瞬間に、ベルグールは無意識に低く重心を構えていた。

あれだけ決まらなかった張刃の構えを体が自然と取っていたのだ。

そして獣の牙が刺さるまさにその時、ベルグールは無意識に死を覚悟したため、一切の雑念が消えていた。

それが彼に張刃のベストタイミングでの起動を助けた。

ベルグールの体を牙が貫くと同時に彼の剣が獣の腕に炸裂する。

すると、獣の腕は切り落とされ、獣は甲高い叫び越えを挙げた。


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