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超獣戯画Ⅰ  作者: m-u-t-o-i


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第十九話 広円と極点

レンドとリコがヘルナンドの酒場に着くと、

酒場はかなり賑わっており、人で溢れかえっていた。

リクソスのクレアが手伝っていた酒場に比べるとかなり広く2階もどうやら店のようだった。

「リクソスの酒場もすごかったけど、ここは人の数が全然違うのね」

「ヘルナンドはそれぞれの街の中心地に近いからな」

レンドはマントを深くかぶっており、顔にあったはずの入れ墨がよく見ると

なぜか消えていた。

そして人で埋め尽くされ活気に溢れた酒場を彼はうまく人の間をぬって中に入っていく。

リコはついていけず何人かの男にぶつかり、怒鳴られていた。

「ここでいいだろう」

レンドはそういうと酒場のほぼ中心で立ち止まり、一枚の紙を取り出して、一言「グラント」と書き入れ、口に咥えながら左腕の刺青を回しだす。

四周半ほど回すと、こんどは右腕の入れ墨を指で縦に引き延ばす動作をする。

そしてレンドは目を閉じてじっと集中し始めた。

奇妙な動作だが、入れ墨を回りに見せないようにしているために特に目立たない。

リコはようやくレンドにおいつくと、不思議そうに彼を見つめていた。

レンドはしばらくそうしていたが5分くらいすると目をあけ口に咥えていた紙を外した。

「なるほど、4回…分布でいくと入り口付近に1で後は2階か…おいお前」

レンドは見ていたリコに話しかけた。

「お前にも少しは働いてもらうぞ。」

リコは無邪気に答える。

「何すればいいの?」

「ここの入り口で話している奴らがいる。そいつらの近くでこっそり話を聞いてこい。情報屋のバルガスの話をしたらこの鈴を鳴らせ。」

リコはふと思った疑問を口にする。

「前グラントにやったみたいに離れてる会話をきく力を使えば?あの刺青ぐるぐるする」

「極点のことか。あれをしてる間はその範囲の音しか聞こえない。

俺は2階で別の奴らの情報を探る」

リコは聞いたついでに先ほどの技についても聞いてみた。

「さっきのは?何を口に咥えていたの?」

「ああ、さっきのは広円。広範囲を対象に聞きたい言葉だけを聞く技だ。紙を咥えておくと、その言葉がどこで発されたかの大体の場所を教えてくれる」

リコが紙を見せてもらうと折れた紙の半分の左端の下に赤い点が1つ浮かんでいて、

もう半分の紙にはその点がいくつか浮かんでいた。

「それならあたしが行かなくても聞けるんじゃない?」

「詳しい内容まで聞けないのが広円の弱点でな、逆に極点は限られた一つの場所にしかつかえない俺は2階に行くから、お前は入り口。それっぽい話が聞こえたら、すぐ鈴をならせよ」

リコはレンドがクレアの酒場で全員の会話を記録していることを覚えていたので

その技についても知りたかったが、レンドは急いでいる様子だったのでとりあえずいうことを聞くことにした

「わかった!入り口ね」

かくして、レンドは2階にあがり、リコは入り口付近で男たちが話す内容をこっそり近くにいながらきいていた。

「グラントの隊が失敗するとはな。そんなに手強いのかあの街の獣」

皆の話題は先のグラントと獣の戦いに関してだった。多少離れた街ではあるがグラント達はやはり、名の知れた傭兵集団のようだった。

「そうだな。グラントの隊は頭数はいるが、獣狩りはそんなに慣れてないとも聴く。獣が伝承型だったりしたら、慣れてないなら手こずるのも無理はない」

この意見に皆は納得しているようだったが、1人がふと疑問を投げかけた。

「そもそも、なんであの規模の獣が出てるのに、帝国が絡んでこない。あの街は帝国傘下だろ?帝国が守る義務があるはずだ。」

「なんでも、始めは帝国の隊があの獣を殺しにかかったらしい。でも全く歯がたたんでさ。

それで帝国と領主は懸賞金あげて、傭兵に殺してもらう方法に切り替えたようなんだ。」

さすがに交易の中心地に近い街のせいか、集まる情報もかなり多いようで、皆獣狩りの事情をかなり把握しているようだった。

「帝国が手を引く…かなり一筋縄じゃ行かなそうだだな。」

「しかも、あの銀の爪もいるらしい」 

この情報に話は一気に盛り上がった。

「ほんとか?噂には聞いたことあるが、銀の爪が来るなんてよっぽどだぞ」

「全くだ。そりゃグラントでも負けるわけだ。」

彼らはたしかにグラントの話をしているようではあったが、情報屋とは違うようではあった。

「グラントが負けたとなると、本命は銀の爪か。」

「だろうなぁ。グラントの参戦をしってるせいか、あまり他の傭兵団は絡んでないようだったしな。」

「奴が負けたことを聞きつけて、新しい獣狩りが参戦するんじゃないか?」

男たちが軽口をいいあっていたが、1人の男が何かに気づいたようでさっと口を閉じた。

リコは気づかれないように男達の後ろにつきながら、事の様子をみていた。

口を閉じた男の目線の先にはグラントの部下

レイルが何人かの部下を引き連れて、グラントの軽口を言った男の後ろに立っていた。

男達の会話を聞いていたようで、レイルも会話に入ってきた。

「随分と面白え話をしてるじゃねえか、俺達が負けたって?」

その凄みに男達は震え上がった。

グラントの部下の1人であるレイルもまた傭兵の界隈ではその名の知れた人間であり、

グラント達ともに帝国の兵士として先の戦争に参戦していた過去があった。

獣狩りとしてはそこまで経験を積んでいないグラント達の兵が恐れられるのは個々の戦闘員の質の高さにある。 

レイルもそうした自負があるからこそ、軽口でも自分達が、特にその中でもグラントが悪く言われるのは見過ごせなかった。

「いやーレイル、ほんの冗談だ。お前らの相手の獣は大層手強いって聞いたもんでな」

睨みを効かせられた男達は必死で弁解をしていた。

しかし、レイルはあまり取り合わず、ある質問を男達にぶつけた。

「情報屋のバルガスが来てないか。お前らはいりびたってるからいたらわかるだろう」

「バルガスか、奴はまだ来てないんじゃないか?いつも夜8時を回ったくらいにひょろっと顔を出すからな」

レイルは少し考えてわかったと返事をした。

リコはこのやりとりを聞きながら、鈴をそっと鳴らした。

鈴が鳴ったが、大人たちは聞こえていないようで、話を続けている

レイルは男たちの方を離れ、連れと一緒に店の奥に入って行った。

難を逃れた男たちはホッとしたようでしゃべりだした。


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