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超獣戯画Ⅰ  作者: m-u-t-o-i


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第四章 調査 第十七話 手負いの獣狩りと契約

グラントは目を覚ますと少し異変に気がついた。

体に力が入らない。特に起きあがろうとグッと力を込めてみてもうまく起き上がれなかった。

近くに座っていた傭兵の部下レイルは半ば眠っているように目を閉じかけていたが、グラントに意識が戻ったとわかると、大急ぎで医者を呼びにいった。

医者が帰ってきたところでグラントはまずレイルに尋ねた。

「奴はやれたか」

レイルは残念そうに答える。

「すいません。隊長がやられたのもあってあそこはあれで一時撤退しました」

薄々わかってはいたが、かなりグラントにとっては応える結果であった。自身の体にもダメージを負った上、獣は倒せずじまいでかなり状況的には追い詰められた。

獣が殺せなかったことがわかるとグラントはグッと切り替えて医者に尋ねた。

「どのくらいで狩りに戻れる」

それをきいて医者とレイルの顔が曇った。

「隊長…それは」

医者が意を決してこたえる。

「すぐの復帰は、かなり厳しいと言わざるをえません。正直命があるだけ不思議な限りです。足の傷が獣特有の瘴気のせいでかなり腐蝕している。歩けるようになるまででも一ヶ月程度はかかるでしょう」

グラントは舌打ちをした。仮に銀の爪が獣を仕留めるのに時間がかかるとしても、最長で一ヶ月程度になるのは、狩の中ではしられていた。そう考えるとグラントたちにそんなに時間はのこっていない。

「くそったれが!そんなに待ってられるか。すぐに奴を狩るぞ」

「でも隊長、そんな体じゃ、ここに来た時はほんとに死ぬかと思ったぐらいですぜ」

医者も口を揃える。

「今無理をしたら十中八九傷跡が開いて死に至るでしょう。それに瘴気にかなり足が汚染されてる。少なくとも一週間はじっとしておいてもらはなくては」

たしかにグラントの体は瘴気に犯されてるせいか体に力がはいらなかった。

苛立ちを隠せないグラントだったが、ふと獣との戦いを思い出した。

「やつの牙はしっかりと刺さってはずだ。どうやって抜いた」

レイルが答える。

「あん時は俺らもよくわからなかったんですけど、でけえ音がしたんですよ。そしたら奴の動きが止まって…そこでなんとか引き剥がしました」

「音か」

グラントは余計苛立った。意識は朧げだったがたしかにそんなことがあったような記憶がある。しかしそんな特殊な攻撃で獣の動きを止めれそうな人間はひとりしかいない。

「銀の爪か、余計な真似を」

「余計な真似とは言い草だな」

グラントたちが驚いて病室の入り口をみるとレンドとリコが立っていた。

「てめえどっから入ってきやがった!」

レイルが威勢よく凄むがレンドは意に返さない。

「たいそうやられたもんだ。傷口から瘴気に入られたな」

グラントも凄む。

「なんのようだ。」

「1つ、聞きたいことがある。お前の情報源についてだ」

「情報源がどうした」

レンドは態度を変えない。

「獣だよ。お前は確実にあの獣が拡大型だという確信があったように見えた。それを吹き込んだやつが知りたい」

「なんで俺がお前にそれをおしえなきゃならん」

自分の情報源を他の人間、しかも商売敵に明かすという選択肢はグラントの中にあるはずもなく、グラントはレンドの提案を退けようとしていた。

「俺も、普通の情報源であればたいして気になりはしない。だがそいつ、お前の情報源は明確にお前をはめようとしている」

グラントは一瞬うろたえた。

よぎらなかったわけではない。

戦いの中で、グラントが感じた違和感の正体はまぎれもなく、相手がただの拡大型の獣ではないことを示唆していた。

いらだちと動揺を隠しながらグラントはこたえる。

「どうしてそんなことが言える?」

「情報屋は基本的に情報の質で他と差別化を図る必要がある。獣が出て以来、情報屋も増えたからな。その中で食っていくとすれば常連を捕まえるしかない。お前みたいな大口のな。」

「それがどうした」

「だか今回お前が情報をもらった相手は完全に嘘をつかませてる。その情報が嘘だとわかれば命を取られかねないにもかかわらずだ」

グラントは反論する。

「なぜ嘘だと?」

レンドは用意していたようにスラスラと返す。

「狩りの方法だ。お前は完全に相手が拡大型という確信をもって狩りに望んでいた」

「別に奴が拡大型だという情報があってもおかしくはないだろう」

グラントの返しにレンドは苦笑する。

「俺たち銀の爪が介入するような案件の条件を知らないわけじゃあるまい」

グラントは言葉に詰まる。

銀の爪はその特殊な請負のやり方から批判も多いが、彼らが疎まれ切らないのは相手にする獣を厳選するからだった。

殺しやすい獣に関しては彼らが手を出すまでもなく他の獣狩りが狩ってしまうので、自然と彼らが相手をする獣はかなり厄介な案件で他の獣狩りが、諦めている案件がおおかった。

「今回の獣…お前の前に幾つかの獣狩りが手を出して逆に狩られている。ただの拡大なら

、俺たちが入るまでもなく終わっているんだ」

グラントもそれは薄々感じていた。

狩りの懸賞金が高いから手を出した案件ではあったが、ただの拡大であれば

グラント達の介入を待たずしてほかの獣狩りに狩られていたはずである。

そのためグラントは戦う前は恐ろしく狂暴な拡大型を想像していた。

であれば何人かの獣狩りがやられたのも納得できるからだ。

そしていざ実践にはいり何度か偵察して確かに敵のおとなしさに違和感は覚えていた。

が銀の爪の介入と傭兵団の収入状況、そして報酬の高さがグラントの目を曇らせており、いざ戦闘に入った時にはもう引き下がれなかった。

だがグラントが戦いに踏み切ったのはそれ以外の理由もあった。

「だがちげえ、そもそもお前の推論は根底が違ってやがる、奴の持ってきた情報は間違ってるわけじゃなかった」

グラントはつい詳細を口走った。

レンドが反応する。

「拡大型を示唆するだけの情報…ベース元の動物の癖か、もしくは身体的特徴ってところか。」

グラントは不用意な発言をして、ヒントを与えてしまった事に少し狼狽えた。

「それが合っていたから、多少の違和感は見殺しって所だな」

図星をつかれてグラントの堪忍袋の緒が切れる。

「うるせえ、だいたいてめえが入ってきてから話がこじれたんだ。後から入ってきたやつに報酬をとられてたまるか」

レンドはあくまでも冷静だった。

「それに関しては誤解がある」

「誤解だと?」

「厳密にいえば、もう受けると決まった段階で俺たちは報酬と別の金を契約金として得る。

だから俺達はお前たちの報酬を取るわけではない」

これにグラントは少し驚いた。銀の爪の契約の特殊性までは把握していたが、

それ以上のことは彼は知らなかったからだ。

「ちょっと待てそうだとすると仮に奴をお前らが倒せば、報酬と契約金が両方お前らのものになるということか?」

「俺たちは基本的に先払い以上の報酬はもらわない。報酬はだいたいは共闘した組の手柄としてそちらに支払われる。」

「何組か共闘者がいる場合はどうする,金積んだやつに手柄を渡すのか」

グラントは契約の特殊さに少し興味を覚え始めていた。

「それはない、そこも明確に決められている

もっとも獣を倒すのに貢献した奴が、報酬を欲しがった場合のみ、俺たちはそいつに手柄をゆずる」

グラントはかなり驚いた。銀の爪が特殊な契約体系な事は有名だが、せいぜい前払いの件程度だと思っていたからだ。

しかし実態はかなり詳細に手順が決まっているようだった。

「だが、もし払い主がお前らにしか払わんといったらどうする。獣を殺した奴にはもう報酬をやったといわれたら、俺たちにはどうすることもできん」

しごく当たり前の疑問だった。

実際手柄の取り合いは獣狩りの中では多い。

特に複数の傭兵団が絡む場合は報酬の奪い合いで揉めるのは良くある話だった。

「そこも契約の項目の一つにある。仮に俺たちが殺したとしても、獣の死に直結するような

働きを見せた奴がいる場合はそちらに報酬を支払わせるように契約をむすぶ」

「そんなもん、獣が死んだ後契約主にしらを切られる可能性の方が高いだろうが」

「それはない、俺たちの契約は全てレイスの契約印をもって契約される」

レンドの言葉にグラントとレイルは衝撃を受けた。

「レイス…そんなもんを契約につかってんのか」

「グラントさん…レイスの契約印って」

「ああ、1番古くからある呪いの契約印だ。これを破った奴は死の烙印が体に浮かび上がる。

烙印が浮かびあがってもなお契約が実行されないと1日以内にそいつは死ぬといわれている...

てめえらが烙印で死んだ噂をきかないってことは破ってないって話だな」

「契約者で何人か破った奴はいるが、結果は知っての通りだ。俺たちはこれをトラブルが起きにくいように使っている」

レンドの話は説得力があったがグラントは納得して言うことを聞く気にはあまりなれなかった。

「話はわかった。だがどっちにしろ俺たちがお前に協力する義理はない。」

レンドは残念な表情を浮かべながら忠告する。

「情報屋と情報屋に情報を渡した相手は十中八九お前を殺しに来てる。それだけ肝に銘じておけ 2回目は助かる保証はない」

「うるせえ。とっとと出ていきやがれ」

グラントはレイルを使いレンド達を病室から無理やり追い出した。

レンドが部屋から出ていって一息たってから、グラントはレイルに指示を出し始めた。


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