表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超獣戯画Ⅰ  作者: m-u-t-o-i


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/80

第十六話 妹と少年

生贄のことを親は結局妹に話すことはできなかった。

帝国の人の話では生贄の際は贄を眠らせ、なるべく苦痛を減らす配慮をするから、彼女が苦しむことはないといわれ、両親はこれを飲む以外の選択肢がないところまで追い詰められた。

儀式の手順はまず、生贄が森へ入り、贄の木を目印とする場所へ行く。

そしてしかるべき方法で眠らされ、そこで死を迎えるといったものだった。

そして重要な点として生贄は原則一人で森に入らなくてはならないというものがあった。

親は妹に一人で入らせるわけにはいかないと交渉し、何とか兄のピントが道案内でついていくことが許可された。

ピントにとってはここが千載一遇のチャンスだったので、なんとか妹と逃げようと考えていた。

だが出発の直前、帝国の人間たちが彼らの家を訪ねてきて、彼らと目を合わせようとしないピントをこっそりつれだすと、逃げだせば両親の命はないこと、帝国直下の他の村で見つけ次第、二人を殺すことをピントに伝えた。

ピントは最後の希望もつき絶望しながら楽しそうな妹とともに家を出たのだった。

一つ目の贄の木をすぎて歩いている途中、不意に妹がピントにしゃべりかけた。

「お兄ちゃん、私がいなくなっちゃっても私のこと忘れない?」

ピントは愕然として妹のほうを振り向いた。

「何を言ってんだお前」

妹は冷静に答える。

「死んじゃったらやっぱり、お兄ちゃんすごく悲しい?」

「当たり前だろ、なんでそんなこと聞くんだ…」

「生贄になったら、もうお母さんとも、お父さんとも会えないし、でも私はお兄ちゃんに合えないのが一番悲しい」

ピントの妹レイは生まれた時から家族中でとてもかわいがられていた。

母親に似てきれいな瞳をしており、愛嬌があった。

ピントは5つ違いだが、彼女が生まれた時は

家の関心がピントからレイに完全に移ってしまい、レイを疎ましく思っていた。

しかも彼女は頭もとてもよく、気立てもよかったので家族以外からもとてもかわいがられた。

ピントも出来が悪いわけではなかったがよくレイと比べられ、いらだったことも一度や二度ではない。

そのせいでレイにはあまり愛想よくしてこなかったピントであったが、なぜかレイはピントのことをとても慕っていた

「なんで、それを…」

「みんな分かりやすいんだもん。でもなかなか教えてくれないでしょ?だからこっそりねお兄ちゃん最近よく出かけてるから後をつけてみたことがあるの」

レイは周りの空気にもよく気が付く子だった。

そんなレイの前で、わかりやすい三人の悲壮な空気は簡単に彼女に伝わっていたのだった。

ピントは自分の気が付かなさにも絶望して、なかば投げやりだった。

「聞いたのか。生贄のこと。嫌じゃないのか、お前は何も悪いことをしていないのに」

レイは犬をなでながら答える。

「そうだね、最初知ったときはなんであたしが…ってずっと思ってたけど。皆ねあの日から必死で私が助かる方法をかんがえてくれてたの。特にお兄ちゃん。うれしかったなあ。

あたしてっきりお兄ちゃんには嫌われてるとばっかり思ってた」

実際のところ、ピントは今回の話があるまでレイとは距離を置いている部分があった。

だが、彼女がいかに人間的に素晴らしいかは今まで近くにいるピントが一番よくわかっていた。

ピントが今回ここまで必死に行動したのは今まで距離をおいた妹に対する罪滅ぼしの面も大きかった。

彼は今まで愛情を妹に向けてこなかったことをここまで後悔するとは思っていなかった。

仲良くすることなどいつでもできたあの頃が遠い昔のように感じられていた。

「逃げよう」

ピントは絞り出すようにつぶやいた。

「いまならまだ逃げられる。父さんたちだって絶対わかってくれる」

レイはとてもうれしそうな顔を一瞬したが、すぐ悲しい表情に戻った。

「駄目だよ。皆にそんな迷惑はかけられない」

「迷惑じゃない!!おかしいのはあいつらだ。人の命がたかが村の儀式の為に犠牲になっていいはずがないんだ」

レイはどこかあきらめにも似た表情を浮かべていた。

「あたしが逃げなければ、父さんたちは助かる。お兄ちゃんだって」

「俺はそんなの嫌だ。お前が死んで、俺たちが生きたって、なにもうれしくない。そんなもんほっぽり出して俺と逃げよう…」

言いながらピントは泣いていた。

実際のところレイが言うように彼女が犠牲になるしか今は方法がないことをなんとなくわかっていて、それを変えられない情けなさがピントの中で爆発していた。

レイは優しく駆け寄りピントを抱きしめた。

「私をわすれないで。お兄ちゃん。私もお兄いちゃんがしてくれたことを忘れないから」

レイも泣いていた。

ピントはレイがいかに学校や将来のことを楽しみにしているのか知っているため、彼女がいかに心を押し殺しているかをありありと実感していた。

二人は抱きしめあったまま泣きあったが、落ち着くとまた二人で歩きだした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ