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超獣戯画Ⅰ  作者: m-u-t-o-i


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第十五話 少年の願い

ピントは彼女の紅茶でだいぶ落ち着きをとりもどし、お礼をいって家を出ようとした

出がけに彼女はピントにこれを持っておくと助けになるかも、と言ってお守りを手渡した。

ピントはそれをあまり信じないと言ったのにと苦笑いしながらポケットに入れた

家に帰る途中、ピントは何人かの大人の集団とすれ違った。

その中の一人がピントに気づき、彼にはなしかけた。

「こいつは、ピントじゃないか?ほらクロードの息子の」

ピントはその顔に見覚えがあったので、おそらくリクソスの街の人間であることはわかったが、その集団の中の何人かはあまり見覚えがなかった。

「サルドさん、こいつですよ、例の生贄の子の」

サルドといわれた人についてはピントはどこかで見た覚えがあったが、あまり思い出せなかった。

「そうか君がピント君か」

サルドと呼ばれた人はピントに近寄ってきた。

「ちょうど君をさがしていたんだ。妹が生贄にならない方法を探しているんだって?」

「どうしてそれを?」

「街中であれだけいろんな人に聞いて周っているとね。私の耳にも入ってくる」

「なんで、あんたの耳に?」

「おい、失礼だぞサルドさんに向かって」

取り巻きの一人がおこったがサルドはそれを制した。

「私は一応次期の領主だからね。そしてここら一帯の地区を取りまとめる監査役を今は帝国から仰せつかっている」

「それで俺に何の用?」

サルドはピントの態度に苦笑しながら答えた

「ぜひ邪魔するのをやめてほしいとおもってね、生贄の儀式は神聖なものだ、誰かに邪魔されるなどあってはならない」

「それはあんたたちの街のルールだろ?元々俺たちにはかんけいないじゃないか。」

「私たちの街だよピント君。君たちは移り住んできた以上、ここの掟には従ってくれなくてはこまる」

サルドの口調は優しかったが有無を言わさない圧があった。

「あんたたちはそれでいいのか。自分の家族が生贄になっても」

ピントが見覚えのある何人かは移住者たちだった。

彼らはこのピントの質問にはうつむいて答えづらそうにしていた。

だがサルドは

「もちろんだ、我々はずっとそうしてきた」

と告げた。

「だから我々の街はこの戦争が続く時代のなかでも繁栄を保ち続けられている」

「俺たちの街だって別にそんな儀式なんかなくてもうまくいってた。あんたたちが来るまでは」

取り巻きたちが反応する

「お前、いわせておけば」

サルドがまた制止する。

「きみはあまり物事の本質を理解していないらしい。今回の儀式が成功すれば、街の繁栄につながる。それは結局のところ私たち全員の幸せにつながるんだ。それを君は今、無理やりやめさせようとしている。この儀式がうまくいかなければ、街の人全員がその被害をこうむるんだよ?」

サルドの理論はかなり突飛なものに聞こえたが、彼の顔は真剣そのものでこの理論を心底信じ込んでいる様子だった。

ピントは彼の表情に狂気をおぼえ少し寒気がした。

「わかったよ。おれはもう帰るからそこをどいてくれないか」

ピントは取り合えずこの場からはなれようとして、歩き出した。

しかし、取り巻きの一人があることに気づいた。

「お前もしかして、あの婆さんのところに行っていたんじゃないだろうな」

他の取り巻きがそれに反応する。

「そうだこいつが帰ってきた方向はまっすぐあの婆さんの家の方向じゃないか」

それを聞くとサルドの目の色が変わって、ピントの肩をつかみかかった。

「お前、何を聞いた」

ピントはサルドの余りの迫力とその変貌ぶりに少し驚いて、その手を放そうとした。

「別になんも聞いちゃいない、ただしゃべっていただけだ」

取り巻きは徐々にピントの周りを囲んで彼の逃げ場をふさぎ始めた。

「嘘を言うな、話すまで返さんぞ。」

サルドはピントをつかんで離さない。

「ほんとに何も聞いてないんだ、離せよ」

そういってサルドの手を振り放すと、その拍子にオレガノから去り際もらっていたお守りが落ちた。

「これは?」

サルドはそれを拾うとピントにさらに詰め寄った。

「ただのお守りだよ。オレガノにもらったんだ」

「これはもらう。ずっと探していたものだ」

「なんでだよ。俺がもらったんだ」

そういってピントはサルドの手からそれをとろうとしたが、サルドはピントを突き飛ばした。

「お前ら、やれ」

取り巻きの何人か、特にピントの街出身のものは迷っていたが、リクソスの街の者は待ってましたとばかりに倒れたピントに殴る蹴るの暴行をした。

「ようやく見つけた。やはり同じ街出身の者に受け継ぐつもりだったんだな」

サルドはそういうとぼろぼろにされているピントに

「儀式に逆らうと、お前の家族もこうなると思え」

といって仲間をひきつれて帰っていった。

ピントはゆっくりと這いつくばりながら、何とか家路についたが、体はなかなかいう事を聞かず、悔しさで涙も流れていた。

帰る途中、村のはずれの社をピントは通りかかった。

社にはピントの街から持ち出された小さな祠が見えた。

ピントは這いつくばりながら、どうにか祠の前まで行くと泣きながらこう願った。

「妹をたすけてくれ、あいつはようやく学校に行き始めたばかりなんだよ。俺よりよっぽどできもいい。なんでもやるから、この街のわけわかんないやつらからあいつをたすけてくれ」

ピントの必死の願いだった。

社の祠にはピントの村の言葉で一言、雷と刻まれていた。

結局祈る以外は何もできなかったピントはぼろぼろのままなんとか家にたどり着いた。

両親や妹はとても心配してピントに理由を尋ねたが、ピントは決して内容を明かそうとはしなかった。

そして約束の期限がきた。


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