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超獣戯画Ⅰ  作者: m-u-t-o-i


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第十四話 少年と先生

その夜から食卓が豪勢になった。

事情をしらない妹はとても喜んでいたが、家族全体の雰囲気はどこか暗く張り詰めていた。

両親は悟られまいと懸命に明るく振舞っていたが、娘にその話はできずにおり、常にどこか重苦しかった。

1週間後だ。とピントは父にいわれた。

そこで妹と一緒に森へ入り目的先まで行きそこにいる人に妹を送ってほしいと

父はピントは何も知らないと思い込んでいるらしくあくまでそこに行って何をするかや妹を渡す相手については何も言おうとはしなかった。

ピントもまた妹に残酷な運命について言えずにいたが、そのかわりにどうやったら妹が生贄にならずに済むかを一週間必死に考えていた。

ピントはひとまず儀式についての情報をリクソスの街の年寄りなどに聞いてあつめた。

しかし彼らのいう事は一様にその儀式でお告げの対象になった者は逃れることができないというものだった。

客が言っていたように代替もみとめられなければ拒否したり逃亡したりすればその家族に厳しい罰則が科せられており、ピントたちの家族が地獄をみることはさけられなさそうであった。

親に隠れて必死で回避方法を探していたピントだったが、確たるものは見つからなかったので途方に暮れていた。

そして残すところ1日となったその日、朝からピントは親からの使いで届け物をしに少し出かけていたが、その帰りに一人の家に立ち寄った。

家についてピントがノックをするといつものように老女のお入りという声が聞こえたので、ピントはドアを開けて中にはいった。

中では紅茶を沸かしているのか、その匂いが部屋を包んでいて、ピントは久々に嗅ぐその匂いに癒されたような気持になった。

「めずらしいわね。どうしたのピント」

と優しく彼女は問うた。

彼女の名前はオレガノで、移住前のピントの街で一つしかない学校の校長をしていた

年を召してきて校長の職を辞してからは、夫と二人で住んでいたが、数年前に夫が他界してからはのんびりと一人で生活をいとなんでいた。

祖母をなくしているピントにとって彼女は祖母代わりの良き相談相手であった。

かなり途方に暮れていたピントは彼女のその優しい呼びかけにほとんど泣きそうになっていた。

「あらあら、どうしたの、ちょうど紅茶いれたからね、好きでしょうこれ。」

ピントは泣きながらその紅茶をのみ、今起きている一部始終を彼女に語った。

泣きながら話すピントの話を辛抱強く彼女は聞いていた。

「もう手立てがないんだ。儀式に替わりはいないし、妹をつれて逃げようったって、仮に俺たちだけ逃げてもおやじたちはひどい目にあう」

ピントはすべて吐き出してなおいきどおっていた。

「だいたいなんで帝国は俺たちをここに移住させたんだ、

向こうは儀式だなんだって色々向こうのやり方を押し付けてくるくせにこっちの都合はぜんぶ聞きやしない」

オレガノも悲しそうな顔をする。

「移住の時は何も心配することはないと説明されたのにね」

「なんで帝国はリクソスの儀式を強制するんだろう…」

ピントはふと疑問を口にしていた。

「あいつらはそんなに儀式がさせたいのか…でもなんで?」

オレガノもその理由を一緒になって考えていたが、明確な答えは出ず仕舞いだった

そして諦めがついてピントが帰ろうとすると

オレガノが足しになるかわからないけど、と昔の話を始めた。

「あの時、私はちょうど夫が亡くなったばっかりでね、覚悟はしていたけれどやっぱり悲しくて何にもできなくなってしまってね」

その時のことはピントも覚えていた。

オレガノと夫はとても仲が良く近所でも評判の夫婦だったが、慢性的に夫は病になやまされており、オレガノは彼の晩年は献身的につくしていた。

「いいひとだったよね、おれにもよくしてくれてさ」

「あなたは彼になついていたわね…そうそれで亡くなった後一人で家でぼうっとしていたんだけれど、ちょうどそのころダブロンが流行り病になってしまったのよ」

「ダブロン?ああ、あの時面倒見てた子?」

オレガノは街に親無し子が迷い込んでしまった時よくその子の世話もしていたのだ。

ダブロンはその中の一人で、オレガノたちが面倒を見ていた。

「でもその時、ちょうどはやり病に効く薬がでてきててね、ダブロンもそれがあれば助かるってなっていたんだけど…ほら秋だから嵐があるじゃない?」

街には季節によって嵐が多い季節があり、ダブロンが病にかかったその時はちょうど嵐が街に来ているタイミングだった。

「覚えてるよ、あれのせいでうちのおやじの積み荷が何個もやられたんだ」

ピントの親の仕事が上手くいかず悩んでいた時期だったので、ピントはよく覚えていた。

「そう、その嵐のせいで森からサコスの町に出る道に木がたくさん倒れてしまって

通れなくなってしまったの」

サコスの町は物資調達には欠かせない街で、そこに行けないという事は当然薬も手に入らないことを意味していた。

「嵐の季節はたまにそうなるんだよね。嵐がなくなって晴れてもその道がつかえなくなるし」

「そう、それでどうしようもなくなってしまってね。嵐はすぐ過ぎ去るけど道が通れないから…、ダブロンは日増しにわるくなっていいって、私もどうしようもなかったから、社にねお願いに行ったの」

ピントの元居た街には生贄等の儀式はないものの唯一社があり街の守り神がそこに宿るとされていた。

そして皆が移住する際、せめてもの移住者たちの心のよりどころという形で小さな祠だけリクソスの街のはずれに持ち出してきていたのだ。

「なんておねがいしたの?」

「どうして神様は夫だけじゃなくダブロンも奪って行こうとするの?って。ふふ、結構やけになっていたからお願いっていうより怒ってたのね私…」

ピントにもその気持ちはなんとなくわかるような気がした。

「夫をうばったのだからせめて、彼をたすけてあげて、って泣きながらお願いしたわ。」

彼女は当時を思い出して少し笑ったような切ない表情になっていた

「でどうなったの?」

「それをした次の日にね、道をふさいでいた木に雷がおちて、その道がとおれるようになったの。こんなのありえないって薬を運んできた商人が驚いていたわ。」

ダブロンは今も元気でありリクソスで新しくできた学校に通っていた。

「そんなの…ただの偶然じゃない?」

「ええたしかにそう。でも言い伝えを大事にしたり神に感謝することは、やっておくに越したことはないと思うの」

ピントもそこは言い返せなかった。

結局その信じていない儀式に妹をとられようとしているからだ。

「でも、やっぱり俺はそんなの信じない」

オレガノは少し悲しそうな顔をしていたが、そう思うのも無理はないと納得していた。

ピントは彼女の紅茶でだいぶ落ち着きをとりもどし、お礼をいって彼女の家をでた。


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