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超獣戯画Ⅰ  作者: m-u-t-o-i


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第十三話 少年と妹

森の中を歩きながら少年は妹に話しかけた。

「ありがとな、ここまで付いてきてくれて」

少年の名前はピントという、ちょうど14になる年だった。

ピントの妹レイは楽しそうに歩いていたが、不安そうなピントの様子に気づいた。

「なんで?お兄ちゃんとお出かけたのしいよ?それにロイも一緒だし」

ピントは悲しそうな目で見つめ返す。

「そうか…ならよかった」

さいわいレイは飼い犬を連れていて機嫌も良かった。

「変なの あ 見て?あそこ大きい木があるよ!!!」

言われてピントはビクッとした。

街から入って贄の木が三本見えたところ、そこに目指す場所があると

ピントは父にいわれていた。

「ほんとだめちゃくちゃ大きいな。木登りもなかなかしんどそうだ」

レイが指し示した先にはとてつもない大きな木が見えていた。

クンクラの森の中にはいくつか贄の木と呼ばれる木がある。

ピントたちはクンクラの森に入ってから見るのはこれが一つ目だった。

贄の木の最大の特徴はその大きさにある。幹はそこらの木の7.8倍、細い枝でさえ人の胴体ほどの太さがあり、森の中でも他の木とは少し間隔があった

「ねえ、どこまで歩くの?お兄ちゃん」

レイにはここまでどこが目的地なのかを明確に伝えていなった。

「もう少しだよ。贄の木の三つ目だって父さんが言ってた」

その言葉に嘘はなかったがピントの声はふるえていた。それに気づかないレイはたのしそうに森を散策していた。

ピントの家族のもとに、その忌まわしい知らせが届いたのは二人が森に出るちょうど一週間まえになる。

その日はいつもと変わらず、ピントは家の手伝いの巻き割りをしていた。

母は家の中で夕食の準備をしており、父はピントの作業を見守りながら、木材をまとめていた。

妹はちょうど新しくできた学校に通っておりまだ帰ってきてはいなかった。そんな

いつもとかわらぬ日常の風景であったが、そこに5人ほどの来訪者があった。

父は最初予期せぬ来訪者に少し警戒していたが、彼らが帝国の紋章をとりだしてみせると、いったん話を聞くために彼らを家の中に招き入れた。

子供は聞かないほうが良いと客の一人が提案したようで、ピントは外に追い出されてしまった。ピントはそこは素直に言う事を聞いたがどうしても内容が気になり、家の外にある会話が最も聞こえる裏口までこっそりいって聞き耳を立てていた。中の様子も裏口の近くには窓がありそこから遠目にうかがうことができた。

家のテーブルを囲むかたちで客の4人はたっており、一人のみが椅子に腰かけて父と母に向かって話していた。

「これはたいへんよろこばしいことだ」

「あなたたち家族は誇りに思うべきだ」

などと訪問客がいっているが遠目で見る限り父と母は嬉しそうな表情にはみえず、むしろ何かをかみ殺したような表情をしていた。

ピントは不思議に思いその後の内容に意識を集中した。

「あの子はまだ10歳なんですよ」

客は特に動揺もせずこたえる。

「若く穢れの無い命が対象とされる。儀式の内容については説明があったでしょう」

10歳というキーワードで対象がレイの事であることはピントも察しがついていたが、

命という言葉が出てきたことで、ピントは段々恐ろしくなっていた。

「まだ学校に行き始めたばかりなんです…どうしてもあの子でなくてはなりませんか」

「生贄は無作為にお告げによってえらばれる。選ばれたものはどのような立場であれ、それに従うのがこの儀式の掟です」

ピントの父は必至で返す。

「わたしが代わりになることはできませんか…同じ血であれば、選ばれる生贄の対象として不足はないはず」

「贄には穢れの無い魂と認められた者のみが選ばれます。血はそこまで関係ないのですよ」

座っている客は納得のいかない表情を浮かべる父に話を続ける

「あなたは村にずいぶんと貢献してきた。そこはわれわれも一定の評価をしている。そしてあなたが人格者だからこそ娘さんの魂もまた汚れないものとなったのでしょう」

「そんなことをききたいんじゃない!」

ピントの父の激高したような強い口調に立っている四人が反応した。

「貴様、自分が何をいっているかわかっているのか!」

しかしそれを座っている客が手で制止し、冷静に話す。

「あなたの気持ちはわかるつもりです。天塩にかけて育ててきた娘を移住先の街の儀式で奪われるなんて、とお思いでしょう」

ピントの父が激高したのは客の言うように、この儀式がそもそもピントたちの街の儀式ではないという部分もあった。

「リクソスの街にとって大切な儀式だという事は知っているつもりだ。だが移住の際にお互いの生活領域を尊重するという取り決めをかわしたはずだ」

ピントの父の精いっぱいの反論だったが、客はあまり意に介した様子はなく、一息つくとこう切り出した。

「確かに生活領域も文化も尊重する。しかしそれはこちらの文化も当然受け入れてもらうということに他ならない」

「それは!」

父の反論を手で制すと客はゆっくりとトーンを変えた。

「生贄は丁重に扱われるし、儀式が終わった後は聖人となり、その家族にはそれ相応の報奨金が約束される。たしかあなたには商売での多額の借金がありましたよね。」

この言い草にピントの父は憤りを隠せなかった

「そんなものの為に娘を差し出せるとおもうか!!」

客は両手を広げて驚いて見せる。

「これは失礼した。ですがもしあなたの娘さんがこれを拒否するようなことがあれば、今後あなたの商売に街、帝国の援助は一切受けれられないこと。を承知していただきたい。」

帝国、街の援助を受けられないことはすなわち、これからピントの父の得意先である帝国傘下の街からの援助や協力もなくなっていくことを意味しているので。結果として立ちいかなくなることが暗に意味されていた。

「そんな…」

「いいほうに考えてください。どのみちだれかがこの役割を背負うんです。この街の誰かがね。同じ生贄になってしまうにしろ、彼女であれば、あなた方家族も救われることができる。それが無くてこのまま借金の担保に娘さんをとられるのとどちらが幸せなんでしょうか」

ピントの父の商売は他の街との物資のやり取りを主にしており、最近は軌道に乗り始めたが、商売を始めた時の借金がまだ残っていた。

どうしてもピントは父が客に言い返してくれるところを期待してしまっていたが、

父と母はうなだれるばかりで言い返せなかった。



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