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超獣戯画Ⅰ  作者: m-u-t-o-i


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第三章 街の民 第十一話 酒屋の娘の憂鬱

森に黒い獣が現れるちょうど4年ほど前のこと、クレアは家路を急いでいた。

家といっても母親に手伝わされている酒場へ戻るだけのことだが、クレアには今日急ぐ理由があった。幼馴染のリクードとの交際である。

クレアの母は、その昔器量の良さからたくさんの男に言い寄られたが、

結局見た目だけがいい貧乏な男にいれあげて、金も何もかも貢いで不幸になった経験があるため、その反動から恋愛相手を選ぶ時は金を第一に考えるようになり、

娘の恋愛相手にも当然それを要求するようになっていた。

そんな母にとって、一介の町の大工の一人息子であるリクードとの交際が良い知らせであるはずもないので、クレアはそのことを母にひた隠しにしていたのである。

今日はリクードと週に1度お互いの仕事前に会う日で、いつもよりクレアが長居してしまったために仕事に遅れそうなのであった。

なんとか遅れずに、酒場についたクレアだったが、

そこにふと人の気配を感じて、中のテーブルをみると、母と男がひとり、談笑しているのが聞こえてきた。

「ほんとにサルドさんたら、お上手なんだから。」

「いえいえ、やはりお母さんのお美しさは目を見張るものがあります。お嬢さんもお母様に似たんでしょうねえ。」

「いいえ、ほんとにあの子は生意気でこまってしまいますよ。私の言うことなんかちっともききやしない。」

クレアの母が愛想よくする相手は金持ちと相場がきまっていたが、話し相手の声を聴くとクレアは嫌な雰囲気を感じ取った。

「いえ!! お嬢様は本当に大層お美しい、この街では…いやここら一帯でも間違いなく一番だ。」

「まあ、そんなにあの子を気に入ってくれてたなんて… サルドさんのお嫁さんならいつでもあの子を…。」

言い切る前にクレアは飛び出していった。物音に気付いたクレアの母はこちらを見やる

「あら、ちょうどいいところにきたわね。」

サルドはクレアに気づき嘗め回すようにクレアを見る。

「これはこれはクレアさん。おかえりなさい。」

「今ちょうどクレアの話をしていたところよ。 サルドさんがあなたのことを大層気に入ってくれて。」

クレアはうんざりした顔をする。自分の母のこういう所が昔から苦手だった。

「そうなの、でもあたしにはサルドさんにはもったいないわ、彼は領主の息子でしょう?それなりに身分の高い相手じゃないと。」

クレアはあえてへりくだって見せつつ、牽制する。

どのみちサルドは街の権力者であることは間違いないので、直接的に断って恥でも書かせると後が怖かった。

だが、サルドは食い下がる。

「いえ!身分なんて、そんなところ私は気にしませんよ。それに街一番の酒場であるここにはもっと繁盛してもらって、街の繁栄の助けになっていただく必要があります。

そのためにはもっと公私ともに関係をふかめなくてはね…。」

サルドは口調こそ丁寧だが、その中に有無をいわさない圧力を発していた。

「公私ともにですか…、私はただのこの酒場の手伝いなので…母はサルドさんに協力してもらえるなら大変ありがたいと思います。では私は。」

クレアはそういうと二人の横を通って2階に上がろうとした。

このクレアのつれない対応に母はしびれを切らし

「全くどうしてこの子は…。すいませんサルドさん」

「いえかまいませんよ。娘さんにはもうお付き合いしている方もいらっしゃるようですし。」

この一言でクレアは足を止め、驚いた表情で振り返った。

「なんでそれを…。」

だがもっと驚いていたのは母親でクレアに怒り出した

「あなたに相手が?聞いていないわ!! どういうことなのクレア。」

サルドはクレアの母にお構いなしに続ける。

「確か大工の一人息子ですね、名前はリクードさんでしたか。」

相手まで完全に熟知しているサルドにクレアは寒気を覚えた。

「リクード? 確かにいい子だけど、あのねクレアあなたはもっと上を目指さなきゃ。」

クレアは思わぬタイミングで秘密を暴露された恨みと、案の定の反応をする母親に悲しみを感じながら、サルドをにらみつけた。


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