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超獣戯画Ⅰ  作者: m-u-t-o-i
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聴覚篇 第一章 酒場 第一話 少女と酒場

五感とは

視・聴・(きゅう)・味・触の五つの感覚。これらの感覚によって外界の状態を認識する。

「五感を研ぎすませる」


聴覚ちょうかくとは、一定範囲の周波数の音波を感じて生じる感覚のこと





ちょうどリクソスの町に秋の空気が匂い立つ頃、町に一人、少女がフードをかぶって町の中を通り過ぎようとしていた。彼女は少し小柄で、見た目は9つくらいにみえた。

旅用のマントをまとい、周りを気にしながら、町の中を歩き続けていた。

もう日も暮れ出すタイミングで彼女はようやく一軒の酒場にたどり着く。

中に入ると、彼女は自分が求めている場所にたどり着いたことに気づいて、ほっとした。

込み合っている酒場の中で彼女は、自分が座れる場所を探して歩きまわる。

小太りの男の横に空いてる席を見つけて、男の横に腰かけるとフードを外して一息ついた。

見知らぬ顔に興味を持った小太りの男は彼女に話しかけた。

「こんな物騒な所に来るもんじゃないよお嬢ちゃん。にしても見かけない顔だな。どこの出身だい。」

この人なら町の事情をあらかた把握しているだろうなとうすうす感じていた彼女は笑顔の準備をして少し気合を入れた。

「エルメラです。知っていますか?」

「エルメラ?あの東の果てかい?」

「そう! 知ってるんですか。」

「エルメラって言ったらお前ここから馬車でも三か月はかかる距離じゃねえか。長旅だったな。」

「そうなんです!ようやく今日たどり着いて! もーくたびれちゃって、おじさんはここの人?ここはこんなにいつもにぎわっているの?」

小太りの男は少し考えて返す。

「そうだな。俺はここに長くいるがここまでにぎわってきたのは最近だな。」

「あら、なにかあったの?最近。」

「お嬢ちゃん今日ついたのなら知らねえか、この町は害獣指定区域に認定されたのよ。

ちょうど三か月前にな。」

目的の地にたどり着いたことを確信した彼女はそのうれしさを押し隠して、もっと情報を聞き出すことにした。

「害獣!?じゃあ避難しないと危険じゃないの?どうしてこんな人が集まっているの?」

「たしかに、だいたいは皆一時的に町をはなれるがね、うちの領主はその害獣を殺すために今懸賞金をだしてるのさ。」

「懸賞金?でも害獣が出たら帝国が討伐隊を出してくれるんじゃないの?」

「ああ、でもどうもこの害獣がなかなかてごわいらしくてな、討伐隊も半分がやられる始末よ。だから領主は懸賞金をかけて、他の野郎に害獣を始末してもらうとしてるってわけだ。」

「じゃあ今この町がこんなににぎわってるのは…。」

「そう最近ここいらにいるのはみんな獣狩りの連中よ。ほらまわりを見渡してみろ。」

彼女が周りを見渡すとたしかに一回の町の住人には思えない強靭な男やごろつきたちで酒場はあふれかえっていた。

「おじさんすごい詳しいのね。」

彼女が驚きと納得の入り混じった表情をかえすと、男は少々得意になった様子で酒場にいる有名な獣狩りの話をし始めた。

「ほら、あそこに右目がねえやつがいんだろ?あれがグラントだ。でけえ獣狩りの集団を率いてる。こっちはベルグールだな。討伐隊の長だが結果が芳しくねえもんでイライラがたまってやがる。不用意に近づくと危険だぞ。」

ふんふんと話を聞いていると、彼女はふと目についた男のことをきいてみた。

「ねえおじさん。左奥にすわってるあの刺青の人は?」

男の顔の縦半分には、おそらく古代文字であろう刺青が入っていて、体はさほど大きくはないものの妙な存在感を放っていた。

「ああ、あいつはちょうど二週間前に来た新顔だがな。噂によると銀の爪の一員らしい。」

「銀の爪?」

「しらねえか?銀の爪っていや獣狩りの集団の中でもかなりしられてるとおもうが。」

小太りの男は少女に少し疑問をいだいたような表情をした。

「あたしエルメラにいたころは害獣なんて話に聞くだけで見たことはなかったし、

まして獣狩りなんて…そんな有名なの?」

不信そうな顔をしていたが男はそれよりも話したい欲のほうを優先した。

「銀の爪はめちゃくちゃ腕が立つんだが同じ獣狩りのやつらからはかなり嫌われてやがる。」

「どうして?害獣を倒してしまうから?」

「それもあるがやつらは懸賞金以外に領主に相場をはるかに超えた金を要求するらしい。しかも他のやつらと協力もしない、金もわけないってんで周りの評判は最悪なのさ。」

「ふうん。」

「おかげで奴が来てからこの酒場の雰囲気もピリつきまくってやがる。」

たしかに酒場は人が多くにぎわっていたが全体的に張り詰めた雰囲気が流れていた。実際彼女はその空気を感じ取り、かつその中心にいるのがその刺青の男であることもなんとなく気づいていた。

「そういやお嬢ちゃん名前はなんていうんだい?」

「あたし?あたしはリコよ。おじさんは?」

「おれはカルケルってんだ。ここらで大工してる。リコは今日泊まるとこはあんのかい?

ここいらの宿は獣狩りどもでいっぱいだぜ。」

カルケルは心配している様子だった。

「今日ついたばっかだしあたしもうへとへとだ…おじさんの家にいさせてもらう事ってできない?一晩でいいのだけれど。」

「しかたねえな…だがうちのかみさん次第だ。獣狩りがいるようになってからここらも物騒でよ。まあお嬢ちゃんなら問題ねえと思うがよ。」

リコはとりあえずの宿ができそうでほっとしたと同時にもう一つの目的を達成すべく動き出した。

首にかけたペンダントを握りしめて、勇気を固めると、カルケルに少し便所に行きたいといい、店の奥へと向かう。店の奥も人でにぎわっていた。場違いな少女を皆は好奇な目で見つめる。

リコはそんな目をよそに奥の卓へとむかう。そして、グラントや銀の爪、カルケルなどが見えない位置まで来ると、もう一度深呼吸をした。

彼女が望むのは、力の確認だった。そのためにはリスクを冒す必要がある。

服に入っている一枚の紙の位置を確認して、好奇な目を向ける男たちの前へリコは歩き出すと、彼らに向かってしゃべりかけた。

「何を飲んでいるの?」

と声をかける。男たちは互いに顔を見ると笑い出す。

リコが次の言葉を待っていると一人の男が、

「ガキがしゃべりかけんじゃねえ。」

と迫力満点の顔でリコにすごむ。

リコはおびえながら、その場を立ち去ろうとしたが、店の汚れに足を取られて、男たちの前で盛大に、こけてしまう。

男たちはその様をみて愉快そうに笑った。

リコが立ち上がろうとしたとき、一枚の紙が服から落ちる。

男たちはそれに気づかず、リコもまたそれを拾うこともせず、男たちのところから、逃げるように立ち去った。

リコが行った後しばらくすると、男の一人が紙に気づいて、取り上げて中身を見始めた。

「おめえ、これが読めるか?俺は字に疎くてよ。」

男のもう一人がそれを取り上げる。

「どれ見せてみろ。なんだこれ、依頼状とあるな、差出人は…ふんここの領主だ。

大方、ここの獣狩りの誰かかが落としたんだろ。」

「依頼状?なんだそりゃ」

「おめえ、そんなことも知らねえのか?腕利きの獣狩りに金を上積みして、獣を狩ってもらうのさ、腕利きの獣狩りは引く手あまただからなあ。」

男は得意に語る

「で、誰への依頼なんだ。」

「こりゃあ…わかりづれづれえな。見てみなここに紋章があんだろ?」

「おう。」

「これは集団への依頼だ。大体大きな獣狩りの一味特有の紋章がある。うちだったら剣だ。」

「ふんふん、でこれは?」

「これは、肝心な紋章が途中で途切れてやがる。後で詳しいやつに見せるさ。」

そういうと男は紙を懐にしまってまた飲み始めた。

カルケルはなかなか帰ってこないリコの身を案じて、店の奥へ様子を見に来た。

そこにちょうどリコが通りかかる。

「やけに遅かったじゃねえか。」

「少し疲れててうとうとしちゃったの。ねえあたしここの地域の食べ物が食べたい!、

カルケルさん、おすすめを教えて。」

そういうと二人は元居た席に戻った。カルケルが店員を呼んで、何やら注文をする。

しばらくすると二人の席に店員が地元の肉料理を運んできた。

量は少なめだがおいしそうなにおいが漂う、リコは食べていいとカルケルに言われ

一心不乱に肉料理をほおばる。

店員はカルケルと少し会話を交わす。

「カルケルさん、珍しいね。女の子連れなんて。」

「うるせえやいクレア、こいつはここが初めてらしくてよ。うめえもん食わせてやりてえんだ。」

クレアは合点がいった様子で

「なるほど、それでバランをね、いつもお酒しか頼まないのに珍しいと思った。ねえあなたここが初めてってホント?」

リコはしゃべりかけられて返事をする

「はい、これすっごくおいしいです。」

リコは出てきたバランを律儀に半分平らげて、残りをカルケルの分として残していた。

だがよほどおなかがすいているのか残り半分

も名残惜しそうに見つめている。

クレアはそんな視線に気づき、リコに優しく話しかける。

「今日は特別、おかわり持ってきてあげる。カルケルさんに免じてお代は取らないから。」

カルケルが尋ねる。

「いいのか?」

「ええ、最近ここは獣狩りで繁盛しているし、かわいい子にこんな顔されちゃね。」

カルケルたちがそんな会話をしていると、

店の後ろで大きな声が聞こえ、三人は振り向いた。

どうやら、銀の爪に対して、数人の男たちが絡んでいるらしかった。


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