転生ハムスターが走るだけ
ーーーーハムスターを見たことは、あるか?
ーーーー俺は、ある。
初めて見たのは、小学生くらいの頃か。
父型のじいちゃんばあちゃんが、ハムスターを飼い始めたのだ。
夏休み、祖父母の家に行ったとき初めて見た。
すげぇ走ってた。
“とっとこ”とか、そういうレベルじゃない。
走らないと死ぬんじゃないかってくらい走ってた。
それを不思議に思った俺は、聞いたんだ。
『ねぇ、なんでこんなに走ってるの?』
『ん? ああ、それはな、走らないと死ぬからだ』
『え、死んじゃうの!?』
『ああ、と言っても、それは野生の頃の話だな。ハムスターは餌を求めて、1日に10万キロとか走んだよ。それがこんな狭い場所に閉じ込められて走れなくなるとな、それがストレスになっちまう。そしてハムスターってのはストレスがあるとすぐ死んじまうのさ』
『へ〜。なんか、マグロみたいだね』
『マグロ? ……ぶあっははははは! 確かにな! こいつは地上のマグロだ!』
その後も、ツボに入ったのか笑い続けてたじいちゃんを尻目に、俺はハムスターを見続けた。
当時そんなに走るのが好きじゃなかった俺は、こいつすげーなとか、そんな事思ってた気がする。
ちなみにそのハムスターは結構すぐ死んじまって、それから俺とじいちゃんでハムスターを飼うために色々調べてその後のハムスターを結構長生きさせた事もあって、ハムスターについては他よりも詳しい。
……ん、なんでいきなりこんな話をしたのかだって?
それはな……
「ーーーー!!!」
つまり、そういう事だ。
俺、ハムスターに転生しちまった。
「ーーー!!!」
つい数分前くらい、気がついたらケージの中でハムスターになっていた。
え? え? なにこれ……と困惑していると、体が疼きだしたのだ。
大丈夫か? 走らなくていいのか? 走らないと死ぬぞ? 死んじまうぞ?
そんな感じの不安みたいなのがどんどん出て来て、走らずにはいられないのだ。
これは確かに走らないと死ぬ。ストレスMAXだ。というか限界突破してる。
そんな俺は今、回し車を探している。
よくハムスターが回している、ハムスター版ルームランナーみたいな奴だ。
あれとハムスターはセットので買うのが基本なんだが、なんだが……
「ーー!?」
もしかして無いのか……と思った所で、見つけた。というか、気が付いた。
目の前のこれが回し車だと。
デカすぎて気がつかなかった。
そりゃそうだよなだって今ハムスターサイズだもんなそりゃデカいよな!
そう思いながら、いそいそと回し車に乗る。
そして、走るっ!
走る! 走る! 走る!
おっし! 体の疼きが治まってきて……って、
「ーーーーー!?」
安心したら、足がもつれてしまい。
遠心力と言うのだったか?
止まってくれない回し車に張り付いたままぶんぶん振り回される。
なんとか横に転がれたときにはもうへろへろだ。
だが体は疼く。
仕方ないので、ちょっと抑え気味に、慎重に回し車で走っていると、少しだけハムスターの走り方が分かってきた。
片前足の次に片後ろ足を繰り返すのだ。
右前足で地面を押したら次は右後ろ足で地面を蹴り、その次は左前足で地面を押し、左後ろ足で蹴り……を繰り返す。
これを習得したら俺はもう無敵よ。
高速で回転する回し車にも足をもつれさせずに走り続ける事が出来た。
「ーーーーーっ!?」
尻がっ!?
ハムスターって体力あるんだなと、余裕のある思考をしていたら、目の前に尻が。
迫ってきた尻に押され、回し車に振り回される。
「ーーーーー!」
誰かどうにかしてくれっ!
そう思っていると、俺を押しつぶしていた尻が遠ざかっていく。
次の瞬間。
「ーーっ!?」
尻がっ!?
今度は俺の。
俺の尻に何かが突っ込んで……
ここでようやく、俺は状況を理解した。
どうやら俺の他にもハムスターが居たらしい。
そいつが回し車に乗り、そのまま振り回されて俺に突っ込んで来たらしい。
そして今度はそいつが走り始め、俺だけが振り回されてあいつに突っ込んだと。
そういうことだ。
「ーーーーーーっ!?」
俺は回し車に振り回されている中なんとか足を回し車に付け走り始める。
すると当然前から尻が突っ込んでくるが、俺はそれを、
「ーーー!」
跳んで躱す。
まるでハードル走だ。
だが俺は余裕でこなせる。
なんたって日に10キロ以上走るハムスター様だからなぁ!
ふぁははははははっ!
走る、走る、走るっ!
おれは走るぜぇ!