本当の名は
「おう、オレもお前を信愛しているし敬愛しているよ。ってあー、こんなシーンをアルテがみたら鼻血吹くな」
「アルテって?」
「さっき言ってたうさぎ」
「腐ってやつか?」
「うーん、なんて言っていいか。複雑なんだよなあ」
「まあ、無理に話さなくていい。話せるようになったらでいい」
「そういうとこ好きだ」
「そろそろ連れて行ってくれ。寝る」
シュウイチはアサラのラブコールをさらっと流して布団に潜り込もうとしたがかりんがぎゅっと右手を握って離さなかった。
「この状態で連れていけるわけねえだろ。一緒に寝とけ、そうすりゃこの子の安心する」
安心、安心か……、とつぶやいてシュウイチははっしてアサラを見た。
「そういや、この子の本当の名前ってなんだったんだ?」
「それな、付けなかったらしい。付けずに捨てた、って」
シュウイチは言葉に詰まった。
その瞳に怒りの炎が燃え盛るのをアサラは感じ取った。
「落ち着けよ。シュウ」
「落ち着けるかよ、クソ。名無しでここまで、愛情を知らないのはどれだけ辛いか」
シュウイチは言いながらかりんの手を左手で包み込んだ。
思えば思うほどかりんの手を握る力が強くなる。
かりんの顔がだんだんと青ざめる。
「落ち着けってあいつはいない親はいないんだよ。だから、だからな」
アサラはシュウイチの手をかりんから外し諭すように言った。
「かりんちゃんはもうお前のモノなんだよ。お前が親だ。お前が与えてやればいい」
かりんの頭をなでてアサラが笑みを浮かべるとかりんもそれを真似してぎこちなく笑った。
「この子、髪とか肌に目が行くけど部分部分はすごく良いんだよな。いいぞ、かりんちゃん。今の笑顔ははなまるだ。シュウを落とせ!」
「変なことを吹き込むなよ、アサラ」
「なんだ? もう父親か?」
「当たり前だろ? 俺の娘なんだから」