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シャーロッテ・ホームズ Sharotte Holmes 静かなるカーチェイス

作者: 坂ノ上小千谷麻呂

シャロホことシャーロット・ホームズは、元々小説のためのキャラクターではなく、色々な思想を語るための、メッセンジャー・キャラクターでした。妄想的歴史、とか、原論的ゲーム論、とか、在庫はあります。ただ、ここは、小説の投稿サイトですので、彼女の人となりを紹介しながら、彼女にささやきのような案件を解決してもらいます。この掌編ストーリーの次回以降で(あれば)劇中で彼女に語らせる思想は小出しにしますが。ここでのメインはあくまでミステリー仕立てのショート・ショートということでいきます。

 シャーロッテ・ホームズ…以後この女を表記するのに、ホームズ、などとしてしまうと、名前は同じだが、色々な意味でこの「女」とはかけ離れたあの理知的で豪邁かつ勇敢な英国紳士を読者が印象してしまうということを危惧し、「シャロホ」とでもいうことにする。ちなみに、本人に呼び掛けるときは「ホームズ」だ。「シャーロット」とか「シャロ」とか呼び掛けると(出会った最初の頃そうした)それはなんだか本人には侮辱的な痛撃を与えるらしく、以後なんだか急に不機嫌になるのである。自分のファースト・ネームが嫌いらしい。

 なぜ「シャロホ」と呼びかけないか? それは理屈ではない。読者など一人もいないと思われるが、いたら試しに口に出して発音してみるといい。「なあ、シャロホ」……すわりが悪いと思う。だから私は「なあ、ホームズ」と呼ぶ。こっちのほうがいい。

 シャーロック・ホームズ氏は紳士であると同時に正義感に溢れた人だった…という。あの有名なドラマの映像を見る限りにおいてはあまり裕福ではなくても、おしゃれ、と、いうよりは身だしなみにも気を使っているようだ。多少エキセントリックなのはご愛嬌ということか。

 しかしながら

 名前は似ていてもシャーロッ「テ」・ホームズとなると、格段に品が下がるのである。

 一応、女だ。但し、一応だ。何故、一応か?! それは。

 「牛乳ビンメガネ」ではないものの瞳が見えることが希に思える程偏光度の強いメガネをかけ時には多少伸ばしている髪を手入れもとかしもせずにボサボサにし神保町の界隈の隠れ家の一隅で何だか訳の分からない言葉で書かれた分厚い本をファンタジー作品に出てくる図書館に置いてあるようないかめしい本の山脈の谷間でぶつぶついいながら精読をしていると思えばいきなり無音特殊ジャッキのように音もなくあぐらからすっくと淑女のたち姿になりそこらを多少ウロウロし突然なんと失礼なことに私を指さしながら今精読していた意味意義不明本の実に理路整然としてはいるが元の本の意味が私には訳が解らないので全く無意味な理路整然説明を私に対し五分にわたって始め臭くはないがあまりにも彼女のまわりから人いきれがするので風呂はと訊いたら遠い過去を思い出す風にしきりに考えた後思い出せないと云いそんなこと訊いていないのににおいを防ぐには乾燥が良いというレクチャーをやはり五分にわたって続けるのである。

 よって、一応だ。 

 その「シャーロッテ・ホームズ」から、例によって、突然、「集合」がかかったのである。集合といっても、その日呼び出されたのは、私、和戸ひろしだけだか。「シャロホ一党」の本式の他のメンバーについては、やはり話数が進めば、紹介できるだろう。ちなみに私は本式のメンバーではなく、たまにいる相棒、である。

 私はどこかの名探偵の相棒のように、一応、医者だ。というより、若き医学者といったほうがいい。何しろ人生で、本格的に患者を診察したことは一度もないのだ。なんだかあまり有益とも思われない地味で、まあ、多少癖のある研究を、コツコツとは言えないじつにゆったりとしたペースでやっている。何しろ研究所長は一日中新聞を読んでいるような研究所だ。だから、というわけではないが、こんな風にシャロホに呼び出しをかけられ、ふらりとでてられる。

 シャロホは、まあ、私立探偵だ。が、どうやら殺人事件というものを、一度も解決したことはないらしい。取り扱う案件の半分は浮気調査。そして、もう半分は、事件とは言えない奇妙キテレツな事件というよりは「事案」である。

 まず言っておくことがある。シャロホは女だ。私は男だ。だか、彼女はわたしの恋人ではない。あんまりそういう目でシャロホをみたことはない。縁があって出会ったが、いわゆる「運命の人」ではなかったらしい。だか、頼もしき良き友だ。

 集合時刻はイブニングタイム。場所は事務所でなく、近所のカーシェアリング駐車場だった。十分前に行ったらシャロホはすでに借りたシェアリングカーの運転席でハンドルをにぎり、私を待っていた。

 私が助手席乗り込みドアを閉めるやいなや、車は静かに、しかも素早く発進した。路地から交通量の多い街道にでる。

 シャロホは~饒舌な彼女には珍しく~しばらく無言だった。重大案件かもしれない。こういうときは、彼女が話しかけてくるのを待った方がいい。待つこと約十分。

 暗い車内。いきなりシャロホがしゃべった。

 「…和戸君。ちなみに、もう調査が始まっているといったらどう思うかな?」

 「?」

 何をどう調査しているというのだろう? シャロホはなんとなく……本当になんとなく車を走らせているだけではないか。この車はシャロホのマイカーではなく、しかもなんの機材も、ドライブレコーダーもない。ただ、そういえば、シャロホは自分の愛車であるミニを使わず、わざわざ車を借りた。実は彼女が使うカーシェアリングの会員カードは、英国に本社のある投資会社の名義だと私は知っている。いつか聞いたことがある。シャロホは、そこの幽霊社員らしいのだ。

 「和戸君、ちなみに、依頼者の車が右斜め前を走っている。実は、これは表向き断った案件なのだ」

 「何だ。ホームズ、じゃあ調査しなくていいじゃないか」

 「だから断ったのは表向きだ。私は彼に、相当心身共に疲れの見受けられた彼に、私としては出来るだけ優しく、かつ情理をつくして三十分に渡ってこの依頼を断る旨を伝えた。私の事務所でだ。雑談で彼がここに来る直前にコンビニに立ち寄ったという話の流れからコンビニのレシートの話になった」

 ここでシャロホは話を切り、急に話題を変えた。

 「ちなみに和戸君、君は買い物をしたとき、レシートをちゃんと受けとるクチかね」

 「いや」

 「そうか。これからはちゃんと受け取り、しばらく保存しておくといい。それはたしかにここであるモノを買ったという証明書なのだ。正規の領収書ではないことが多いがね」

 シャロホはそこではじめて少しわらった。

 「君、店員としてはこのことにけっこう気を使っているのだよ」

 依頼者もレシートの管理はおろそかな方だった。わたしはレシートをちゃんと店員から受け取り、読むようにいった。只、たまたま彼はレシートを捨てずに持っていた。私はそのレシートを見せるように言い、レシートの蘊蓄を垂れながら其を日本語でかいた。ついでのことをレシートの裏に英語でちょろっとかいた。そして今、こうしている」

 シャロホの様子、このやりよう…重大案件だ。

 この「ドライブ」は三十分ほど続いた。全く普通の「ドライブ」に見えたが。そして、その依頼者の車とは、ある交差点で別々の方向に別れてしまった。調査が終わったのだろうか。

 またシャロホのらしからぬ無言が続いた。私は何が何だか分からないのでつい話かけてしまった。

 「ホームズ、何か分かったかい?」

 シャロホは暫く黙っていた。そして、ハキハキ喋るシャロホには珍しく、静かに言った。

 「和戸君、彼が追跡されていたことに気がついたかな?」

 そうか、私は気がつかなかったが尾行がついていたのか。なるほど重い案件だ。

 シャロホは私の「誤解」を予期していたらしい。

 「和戸君、追跡車両はちゃんと見れば君にもわかるようなサインを所有していたのだがな」

 「?」

 「私には、無論、分かった。依頼者も分かっている。そして彼がそれから必死で逃れようとしていたことも、その運転に、追跡者と逃亡者とも高度なテクニックを用いたことも。」

 「……」

 「おまけに追跡の車は、沢山、いた。」

 「ホームズ…気がつかなかったよ。」

 シャロホの声が少し明るくなった。

 「そうか。まあ、君は気が付かなくて、実は良かった……だか、この追跡は追跡のための追跡ではなく、追跡をしているという。心理的圧迫を加えるものだ。尾行や追跡はそういう目的でも、やる。その場合はもちろん、ターゲットにわかるように、できればそのターゲットにだけわかるようなサインを追跡側はみなもつのだ」

 だがまたシャロホはいつものようにおしゃべりになることなく押し黙り、延々と車を走らせた。

 とうとう午前0時になった。がらんとした街道の路側駐車帯に車を止め、シャロホがおもむろに口を開いた。

 「和戸君、私が今日、いや、もう昨日か、呼び出したのはなぜだかわかるか」

 「いや、わからない」

 「和戸君、君は精神医学や心理学も研究している医学者だったね。今日の案件はそういうテクニックが使われていたのだ」

 「ホームズ、それはわからなかった」

 「和戸君、君は研究者あるいは医学者として、色々な知識をこれからも取り入れていくと思う。だか」

 シャロホはそこで一旦口を切った。言葉が途切れるのもいつもまくし立てるシャロホにはやはり珍しい。

 「これは君の人生観にもよるが、身の安全のため、敢えて知らないで済ます知識もあるということだ」

 「…」

 「もし、君が、薄々でもそういう知識に出くわしたと感じたしたら」

 またしてもらしくなくシャロホは言葉をきった。

 「自分の安全のために、誰かにその事を聞かれても知らないを連発したまえ」

 「………」

 「今日は君に、友として、その事を忠告したかった」

 照明の加減で車内に明かりが差した。

 そのときはじめて分かったのだが、シャロホはいつものチェックを多用した割合個性的な(うう……)おしゃれではなく、スーツを着ていることに気が付いた。長身でやや細身の体に、グレーのスリムなジャケットとタイトなミニスカートが似合っている。

 いつもと印象がちがう。

 この時出会ってから初めて、ああ、シャロホってきれいな女だったんだな、と思った。街ですれ違うと気付かないかもしれない。そして、案件の重大さが、シャロホのこの服装からも、想像できた。そう、これはシャロホの変装なのだ。

 ちなみに、私は今日白衣の下はスーツだった。当然白衣は研究室に置いてきた。だから、今日の私たちはどっかのサラリーマン二人組に見えただろう。シャロホは私の今日の服装を知っていたのだろうか。

 読者のみなさん、これがシャロホ…シャーロット・ホームズだ。

 本質的に、良く似た名前のあの名探偵とは違うということがお分かり頂けただろうか。世の不正義を憎み、勇敢に立ち向かっていくような人間ではない。私は知っている。どうかすると彼女は麻薬シンジケートの裏金をわざと見逃したりしているのだ。

 そして、彼女には、実子が二人いる。それぞれ違う父親だ。普通のお母さんのように、いや、それ以上にユーモアと愛情をで子育てをしているのを知っている。まあ、シッターも雇ってはいるが。シャロホとは一体歳はいくつなのだろう。私より若く見えることもあるが…一体いくつで産んだ子供なのだろう?

 そして、究極的なことがある。シャロホを妊娠させた二人の男は、かって、それぞれ、シャロホをレイプした、強姦魔なのである。その男たちの血も引く子を、彼女は先に言ったように「愛情とユーモアをもって」育てているのである。

 あり得ない。

 彼女に人工妊娠中絶反対の思想などないはずなんだか。

 私は医学者だ。精神医学の知識も多少ある。その、私の目から見て、シャロホには、何の心の傷も無いように見えるのだが。というか、はっきり医師として責任を持って断言する。ない。


 十日ほど過ぎた。私はホームズの事務所に顔を出した。あまりにもつまらない研究から少し逃れるため、お茶を飲みに行ったのだ。シャロホは事務所でテレビをみていた。いつものなんとも例えようもないチェックを多用したどう考えても(ああ)個性的な「おしゃれ」に戻って「しまって」いる。昨日の格好でいたほうが依頼者増えると思うんだが。ちなみに番組は「お昼のワイドショー」だ。お互い、ひま、ですな。

 ある中堅の芸能人が、突如出家したという報道だった。しかも海外のかなり僻地の寺だという。 

 シャロホは私に向き直り、言った。いつものシャロホだ。

 「和戸君、彼がこの間の依頼者だ」

 シャロホの背後で、コメンテーターたちが色々言っている。凄い覚悟という意見と、仕事を途中で投げ出すのは無責任という意見、そしてパフォーマンスかな?という意見のみつどもえだ。有名な僧侶が解説をしている。

 「私が手配した」

 そういって、シャロホはいつもの不敵な笑みを頬にうかべた。

 「さあ、和戸君、彼のインタビューを聞こう」

 実はこの不幸な重大事案に巻き込まれたと思われる芸能人のコメントはあまり良く分からなかった。仏教の思想らしいが、分かったようなわからないような禅問答のようなことを繰り返していた。

 ただ、最後に一言、と言われて言った言葉は分かった。

 「私は、もう少し、世を渡っていくことに、気をつかうべきだったと…しかし、おかげで仏道への道がひらけました」

 なんだか彼の顔は静かで、はれやかに見えた。

 シャロホはテレビの中の元依頼者を見ながら、不敵に言った。

 「和戸君、時として世間には鬼が棲む。人間の分際で鬼と戦ってはならない。彼のようにならず、お互い、この鬼をできるだけ避けて長生きしようじゃあないか」

 「いや、ホームズ、彼も長生きすると思うけど」 

 「和戸君ーこれは私の私見だかね、あんな寺の仏僧になるなんて、君、死ぬようなものだよ。実際に死ぬ前に、「死んでしまう」というわけだ。私には理解できない世界さ。そして、私に限って言えばいずれやってくる私の死に臨んでも」

 フフとシャロホはまた不敵に笑った。

 「私は鋼鉄製のまま、この世から文字通り消滅する。していくということだ」

 「よってああいう境地に私は達することははないし、いらないのだよ……」

 私は彼女の友人ながら、仏無用という、その思想に戦慄した。

  シャロホは「鋼鉄の女」を自称しているらしい。

 と同時に思ったことがある。 

 シャーロット・ホームズよ、君は、本当に、人間なのだろうか?


 

 

 

最初の一撃で早くもシャロホの衝撃的過去を出してしまいました。「シリーズの方針(?)」で殺人事件をやらない方針なので、読者へのインパクトを与えたかったのですが、、強姦を(場面はないが)その犯罪的行為の重大性の割にキャラの設定として取り扱うことは、社会的正義を重んじる立場、あるいは現に被害に遭っている方に対し、あまりにも配慮に欠ける行為であり、この点に関して、お叱りあるものと覚悟しています。ただ、自らの性被害に対し、(私もセクハラにあって(!)わかる部分ある)微塵も揺るがぬ心をもっていれば、彼女の恐ろしさを感じさせるのにうってつけだと愚考してしまいました。ストーリーに関してもまだまだだな、という感じです。ただ、シャロホ一党はそれにもかかわらず、筆者を置き去りにして、走り初めました。よろしくお願いいたします。

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